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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第72話 決着


 対抗戦が終わった翌日、俺は普段どおりに起きた。


 特別な感傷があるかと思っていたが、なかった。むしろ体の疲労の方が先に来た。昨日の試合で消耗した魔力と筋肉が、正直に主張している。


 朝食を食いながら、ノールが隣に座った。


「昨日の決勝、分析していいか」


「朝からか」


「気になって眠れなかった」


 そう言いながらすでに手帳を開いている。俺は苦笑した。


「どうぞ」


「ライルの大きめの電撃に突っ込んだ場面。あれ、狙ってたのか?」


「ああ。電撃を溜めている間、移動ができないから距離を詰めるチャンスだと思って」


「でも直撃したら終わってたぞ」


「纏いを一点に集中させた。右肩側に。だから体の右側はしびれたけど体幹は生きてた」


 ノールが素早く書き込む。


「それ、咄嗟に判断したのか。それとも前から考えてたのか」


「半分ずつ」


「書いておく」


 ノールが手帳を閉じたあと、少し真顔になった。


「ジン、お前、本当に強くなったな」


「ノールが記録してくれたからだよ」


「俺は記録してただけだ」


「記録してもらえるから、振り返れた。それは大きい」


 ノールが少し黙った。それから「そうか」と小さく言った。


 昼過ぎ、廊下でセレインに声をかけられた。


「昨日の試合、見ていたわ」


「ありがとう」


「ライル戦、最後の突っ込みは肝が冷えたけれど」


「俺も冷えてた」


 セレインが少し目を細めた。珍しいことに、笑っているように見えた。


「来週の自主練、最後にしましょう。卒業前の総仕上げとして」


「ああ、そうしよう」


 セレインが歩き去る前に、ふと振り返った。


「ジン、一つ聞いていいかしら」


「何だ」


「あなたのスキル、普通の属性魔法じゃないわよね」


 一瞬、体が固まった。


「どうして」


「感じるから。正確には、感じないから、と言うべきかしら。属性魔法を使う生徒には魔力の質に特徴がある。でもあなたにはそれがない。なのに、あなたの周りには何か別の気配がいつもある」


 セレインの目は探るような色ではなかった。ただ静かに確認している、という目だった。


「答えなくていいわ。ただ、知っておいてほしかっただけ。私はそれをどうこうするつもりはない」


 セレインが歩いていった。


 俺はしばらく廊下に立ったまま、その背中を見ていた。


 秘密は守る。でも、セレインはもうほとんど気づいている。それははっきりとわかった。それでも彼女は踏み込まなかった。その距離感が、セレインらしかった。


 夕方、レオが部屋に突撃してきた。


「打ち上げしようぜ! 俺、準決勝まで行ったし!」


「決勝には来なかったけどな」


「うるさい! それでも頑張ったろ!」


 ライルも来た。ノールも引っ張ってきた。四人で食堂の隅に陣取って、料理を山ほど頼んだ。


 話が尽きなかった。


 一年生のころの話。討伐実習でレオが足を竦ませた話。ライルが「少しな」と言ったくだりをレオが三回繰り返して、そのたびにライルがため息をついた。ノールが「全部記録してある」と手帳を取り出しかけて、二人に制止された。


 気づいたら夜になっていた。


「なあ、卒業したらどうする」とレオが聞いた。


「冒険者やる」と俺は答えた。


「マジか。俺は家に戻らないといけないからなあ」


「当主補佐か」


「嫌とは言わないけど、もう少し自由にやりたかったってのはある」


 レオが珍しくぼそりと言った。からかいの色のない、本音の声だった。


 ライルが静かに口を開いた。


「俺は騎士団を目指す」


「え、マジで」とレオが目を丸くした。「平民でも入れるのか」


「実力があれば入れる。入れるかどうかは、やってみないとわからないけどな」


 短い言葉だったが、迷いのない声だった。


「絶対入れるよ」とノールが言った。「昨日の戦い方を見てたら、騎士団が放っておかないと思う」


 ライルが黙って頷いた。


「俺は研究の仕事をする」とノールが続けた。「魔物の生態とか、スキルの記録とか」


 最後の一言は俺に向けていた気がした。俺は笑って流した。


 夜が更けていく中で、俺はこの時間を覚えていようと思った。


 こうして四人で食堂の隅に座って、他愛のない話をしている。それが当たり前のようでいて、もうすぐ終わる。終わったあとは、それぞれが別の場所へ行く。


 四年間、ここにいた。


 それは確かなことだった。


 部屋に戻った俺は、収納の指輪に意識を向けた。


「出てきていいぞ」


 ふわりと空気が揺れて、四体が次々と現れる。ヒビが肩に飛んできた。温かい。ミズチが床をゆっくりと這って足元に来た。ドロンが首を伸ばして俺の腕に甲羅をすり寄せる。カゼマルが「キィ」と一声鳴いて窓際に着地した。パチが俺の膝に乗って、金色の瞳でじっとこちらを見上げた。


 全員いる。


「対抗戦、優勝した」


 誰も返事はしない。でも、ヒビが羽をゆっくりと動かした。パチの尾の先端が、ほんのりと光った。


 それで十分だった。


「ずっと指輪の中で待っててくれてありがとう」


 ドロンがのしのしと歩いてきて、俺の手の甲に体を押しつけた。重い。でも嫌じゃない。ミズチが腕に静かに巻きつく。ひんやりとした鱗の感触がある。ヒビが頭の上にそっと移動した。


 静かな部屋の中で、今日あったことをぽつぽつと話した。


 セレインに気づかれそうなこと。ライルの騎士団の話。レオが珍しく本音を言ったこと。ノールがまた記録しようとして止められたこと。


 ヒビたちは動かず、ただそこにいた。


 それだけで、一日の重さがほぐれていく気がした。


 四年間の学院生活が、あと少しで終わる。卒業したら冒険者になる。もっと広い場所へ行く。強い魔物に当たる。もっと先へ進む。


 でも、どこへ行ってもヒビたちと一緒だ。それは変わらない。


 俺はカゼマルを窓際から呼んだ。カゼマルが飛んできて、パチの隣に着地した。五体全員が近くにいる。


 部屋の中が、静かで温かかった。


 ここから先に何があっても、俺は前に進む。


 そう思いながら、目を閉じた。


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