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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第70話 実地の重さ②

 三日目の朝、俺たちの班は中層部への進入許可が下りた。


 昨日の外縁部での動きを先生が評価したらしい。「Sクラスとしては及第点だ」とだけ言われた。褒め言葉にしては素っ気ないが、ガルセン先生の口からそれが出るなら十分だった。


 中層部は外縁部とは木々の密度が違う。足元の地面が柔らかく、踏み込むたびに音が吸い込まれる。光の入り方も変わって、木漏れ日がまばらになった。


 空気が重い。


 歩き始めて十分も経たないうちに、それは感じた。外縁部とは違う。何かがいる、という感覚が常にある。慣れようとしても、慣れない。


「緊張するな」とレオが小声で言った。


 今回はからかいの色がなかった。


「外縁部と全然違う」とノールが答えた。「魔力の密度が濃い気がする」


 ライルが無言で頷く。セレインは前を向いたまま、指先で魔力を小さく回転させていた。集中を高める癖だ。


 最初の遭遇は、歩き始めて三十分後だった。


 中型のウルフが三体、茂みから飛び出してきた。外縁部のものより一回り大きい。動きが速く、連携している。一体が正面から来て、残りの二体が左右に散る。


「散るな、固まれ!」


 ライルが叫んだ。俺たちは反射的に背中合わせになった。


 正面の一体はレオが火魔法で牽制する。左のウルフが俺に向かってきた。


 俺は踏み込んだ。硬化を展開したまま、纏いを重ねる——一瞬、揺れた。纏いが薄くなる感触がある。でも今は維持するしかない。


 ウルフの爪が横から来た。腕で受ける。硬化が働いて衝撃が散った。痛みはあったが、体は動く。そのままカウンターで喉元に拳を叩き込んだ。ウルフが吹き飛んで地面に転がった。


 右のウルフはライルが剣で抑えていた。俺が合流して挟み込む形で制圧した。


 三体、全部で一分もかかっていない。


 でも息が上がっていた。


「腕、大丈夫か」とライルが聞いた。


「問題ない」


 袖をめくると赤くなっていた。傷にはなっていない。硬化が機能した証拠だ。でも、纏いが薄くなった瞬間に爪が来ていたら、どうなっていたかわからない。


「硬化と纏い、崩れかけた」


 小声でノールに言うと、手帳を取り出しかけた手が止まった。


「今は記録より先に進もう」


「わかった」


 昼過ぎまでに遭遇は五回あった。相手の格が上がっていくたびに、消費する魔力が増えた。それでも体は動いた。身体強化と硬化の組み合わせは機能している。問題は纏いとの同時発動だ。長時間の維持が、まだ難しい。


 そして午後、それは来た。


 先生が班を止めた。


「二体。ランクA相当。魔力反応が大きい。ここからは俺が主体で動く。お前たちは指示を聞け」


 全員が頷く。でも先生の次の言葉は想定外だった。


「ただし一体は、お前たちに任せる」


 静寂があった。


「え」とレオが言った。


「A相当といっても個体差がある。二体のうち、弱い方を任せる。俺が強い方を抑えている間に片付けろ。できるな」


 できます、とは言えなかった。でも、やるしかない。


「やります」


 自分の口から出た言葉が、少し遠く聞こえた。


 魔物が現れた。大型の蜥蜴のような外見で、体長は二メートルを超えている。鱗が光を反射して、腹の底から唸り声が響いた。


 それだけで足が一歩後ずさりそうになった。


 でも止まった。


 俺は息を吸って、魔力を全身に流した。身体強化、硬化、纏い。三つ同時に。硬化と纏いの境界が揺れる感触がある。それでも崩さない。


「レオ、牽制。ライル、左を押さえろ。ノール、後方で支援。セレイン、右から」


 指示が口をついて出た。自分でも驚いた。


 魔物が動いた。


 尻尾が横に薙ぎ払われる。俺は跳んで避けた。着地した瞬間に踏み込んで、剣を脇腹に走らせる。鱗が固い。でも通った。


 レオの火球が頭部に直撃した。ライルが左脚を剣で牽制している。セレインの付与魔法が俺の剣に乗って、刃の通りが良くなった。


 数合のやりとりの末、魔物が倒れた。


 俺は息を整えながら、剣を下ろした。手が震えている。今度は恐怖じゃなく、消耗だった。


 先生が戻ってきた。もう一体はすでに制圧されていた。


「合格だ」


 それだけだった。


 でも今日は、それで十分だった。


 全員で顔を見合わせた。レオが「やったぞ」と小声で言った。ライルが微かに息を吐いた。ノールが目を細めて笑った。セレインが静かに頷いた。


 俺は右手を、そっと指輪に当てた。


 ヒビたち、見ててくれたか。


 まだまだだけど、俺はここにいる。


 野営地に戻ったのは夕暮れ前だった。


 体の節々が重い。普段の訓練とは違う疲労だ。筋肉だけじゃなく、神経ごと使い切ったような感覚がある。


 夕食を食いながら、今日の動きを頭の中で振り返った。


 硬化と纏いの同時発動。結論を言えば、まだ不安定だ。短時間なら維持できる。でも戦闘が続くと纏いが薄くなっていく。そこを突かれたら危ない。


 改善点は見えた。それだけでも今日来た意味がある。


「ジン、さっきの指示、よかったぞ」


 レオが飯を食いながら言った。


「咄嗟に動けてた。なんか変わったな、お前」


「そうか?」


「俺はそう思う」


 ライルが無言で頷いた。珍しく同意のサインを出している。


 ノールが手帳を見ながら言った。


「硬化と纏いの同時発動、今日の戦闘で三回確認できた。どれも維持時間は二十秒前後。纏いが先に崩れるパターンが多い」


「よく見てたな」


「記録するのが仕事だから」


 ノールがさらっと言う。俺は少し笑った。


 セレインが静かに口を開いた。


「あの魔物に剣を通したとき、私の付与が乗ったわね」


「助かった。鱗が固くて一人じゃ通らなかった」


「連携が取れてた、ということよ」


 そう言ってセレインは火を見た。俺も火を見た。


 一年生のころ、この五人でこういう話をするとは思っていなかった。それぞれが別々に成長して、気づいたら同じ場所にいる。


 ガルセン先生がテントから出てきて、全員を見渡した。


「明日が最終日だ。今日より格は下げないぞ。それだけ言っておく」


 全員が「はい」と返した。


 テントに入って横になると、すぐに眠れそうだった。


 最終日も行く。それだけを考えながら、目を閉じた。


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