第7話「セレインという少女」
授与式が終わって、帰り支度をしていた時のことだった。
「あなたのスキル、何ができるの」
突然、声をかけられた。
振り返ると、銀色の髪の少女が立っていた。
同い年くらいだろうか。背筋がまっすぐで、表情がほとんど動いていない。感情が読めない目で、じっと俺を見ていた。まるで珍しい本を見つけた研究者みたいな目だった。
「さあ。俺にも分からない」
正直に答えた。
「分からない?」
「詳細不明って言われた」
少女は少し首を傾げた。感情が表に出ないタイプだが、その仕草だけは子供らしかった。
「珍しいのね」
「らしいな。そっちは?」
「火・水・土・風の四属性。魔力量は計測不能と言われたわ」
さらっと言ってのけた。
俺は内心で目を丸くした。四属性は普通じゃない。しかも魔力量が計測不能とは。この子、とんでもない化け物じゃないか。表に出さないのが精一杯だった。
「すごいな」
「あなたのスキルの方が気になるわ」
少女は俺を見つめたまま言った。
「詳細不明なんて、聞いたことがない。どんな力なのか、興味がある」
「俺も興味あるよ。自分のことなのに分からないんだから」
「……変な人ね」
「六歳に人って言われるとは思わなかった」
少女の口元が、ほんのわずか動いた。笑ったのか、そうでないのか、判断できないくらいの変化だった。
「セレイン・エルディア」
少女が名乗った。
エルディア。魔法名門貴族の家名だ。父の書斎で読んだ本に載っていた。付与魔法の使い手が多く、代々高い魔力量を持つ一族。それがこの子か。
「ジン・アルマーレ」
俺も名乗った。
セレインはしばらく俺を見つめていた。
品定めするような目じゃない。ただ純粋に、観察しているような目だった。値踏みでも、威圧でもない。ただ「知りたい」という感じ。
「授与式、見ていたわ」
「そうなのか」
「鑑定士が困っていた。ああいう顔をする鑑定士、初めて見た」
「俺のせいじゃないけどな」
「分かってる」
セレインはそう言って、少し間を置いた。
「あなた、壇上で全然焦っていなかった」
「焦ってもしょうがないだろ」
「普通は焦るものよ。詳細不明って言われたら」
「詳細不明でも、スキルがあることには変わりない。それなら悪くない」
セレインはまた少し首を傾げた。
「変わった考え方ね」
「そうか?」
「そうよ」
断言した。でも否定ではなかった。どちらかというと、感心に近い響きだった。
「あなたのスキルが何なのか、いつか分かったら教えて」
セレインが言った。
「分かったらな」
「絶対に教えて」
絶対、という言葉だけ、少し強かった。クールな話し方なのに、そこだけ感情が滲んでいた。こだわりがある、というより、本当に純粋に知りたいのだと思った。
俺は苦笑した。
「分かった。約束する」
セレインはそれを聞いて、小さく頷いた。
「覚えておくわ」
そして踵を返して、人混みの中に消えていった。
銀色の髪が人波に溶けて、見えなくなった。
「ジン、行くぞ」
父の声がして、俺は踵を返した。
会場を出ると、王都の夕暮れが広がっていた。
空が赤くて、遠くの尖塔が黒いシルエットになっていた。
変な子だった。
感情が読めなくて、突然話しかけてきて、約束を取り付けて消えていった。
でも嫌いじゃなかった。
むしろ――少しだけ、また会いたいと思った。
詳細不明のスキルを胸に、俺はその景色を目に焼き付けた。
この先に何があるのか、まだ何も分からない。
でも今日、確かに何かが始まった気がしていた。




