表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/74

第67話 パチの力

 部屋に戻ると、俺は収納の指輪に意識を向けた。


「出てきていいぞ」


 ふわりと空気が揺れて、四体が次々と姿を現す。ヒビが羽を広げて肩に止まり、ミズチが床を静かに這い、ドロンがゆっくりと首を伸ばした。カゼマルが「キィ」と一声鳴いて窓際へ飛んでいく。


 そして最後に現れたパチが、俺の足元でぴたりと止まった。


 白いイタチ。細長い体に稲光の模様が走り、金色の瞳がこちらを見上げている。長い尾の先端が、かすかに光を帯びていた。


 リンクを通して伝わってくるのは、深くて重い電気の圧力だ。蓄積されている、という感覚。他のヒビたちとは明らかに違う質感だった。


「今日はパチの検証をしようと思う」


 俺がそう言うと、パチの耳がぴくりと動いた。


 翌朝。ノールと待ち合わせて、いつもの訓練場へ向かった。早朝なのでほかの生徒はいない。ノールはすでに手帳を開いて待っていた。


「パチの検証だね。リンクの感触から見て、蓄積型だと思うんだけど」


「俺もそう読んでる。放電の仕方がどうなるか確かめたい」


 ノールがペンを走らせる。パチは俺の肩の上に乗り、尾の先端をゆらゆらと揺らしていた。


「じゃあ、パチ。やってみよう」


 リンクを通して意識を向ける。パチの中に溜まっているものを、少しだけ開放するイメージ。


 次の瞬間、パチの体が白く光った。


 尾の先端から細い電撃が走り、地面に触れる。ぱちりと音がして、地面に黒い焦げ跡がついた。


「おお」


 ノールが目を丸くして手帳に書き込む。俺はリンクの感触を確かめた。放電した分、蓄積が少し減った。時間が経つにつれて、またじわじわと溜まってくる感覚がある。


「自然に蓄積していくのか」


「書いておくね。——常時蓄積・任意放電、と」


 次は出力を上げてみた。パチに意識を集中させ、蓄積の解放量を増やす。パチの全身が光り、放たれた電撃が地面を走って三メートル先の標的石を弾いた。


 衝撃でノールが半歩後ずさる。


「すごいな……」


「威力は本物だ」


 俺は続けて試した。放電のタイミング、射程、方向の制御。パチはリンクを通した俺の意図に素直に応えてくれた。尾の先端から放つこともできるし、体全体から広域に放電することもできる。


 広域放電を試したとき、ノールが手帳を持ったまま固まった。


「ジン。今の、俺にも痺れが来たんだけど」


「あー……すまん、範囲が広すぎた」


「いや、データとしては面白いから続けて。でも俺には向けないで」


 真顔で言うノールが少しおかしかった。


 さらに検証を続けるうちに、もう一つの性質が見えてきた。パチが体ごと対象に触れると、継続的な帯電状態を与えられるらしい。標的石に触れさせると、その後しばらく石の表面に電気が走り続けた。


「麻痺効果もあるかもしれない」とノールが言った。「魔物に使えば動きを止められる可能性がある」


「それは大きいな」


 俺はリンクを通してパチの状態を確かめた。大量に放電したあとでも、蓄積はすでに回復しはじめている。完全に枯渇させようとしても、すぐにまた溜まってくる。回転が速い。


「速度強化にも使えそうか?」


 試しにパチ自身に帯電させてみた。全身に電気を纏ったパチが、地面を蹴って走る。その速度は明らかに普段より速かった。一瞬、視界から消えかけた。


「っ、速い」


「見えなかった」ノールがぼそりと言う。「これは……脅威だね」


 パチがぱたぱたと戻ってきて、俺の腕に登った。金色の瞳がこちらを見ている。満足そうに見えた。


「よくやった、パチ」


 頭を撫でると、尾の先端がほんのりと光った。


 ノールが手帳をまとめながら言う。


「蓄積・任意放電、広域放電、接触帯電、自身への帯電による速度強化。今日だけでこれだけ出たね」


「まだあるかもしれない」


「それは次回に。——今日のところはこれで十分だよ」


 ノールが手帳を閉じた。朝の光が訓練場に伸びてきて、パチの白い体を照らしている。稲光の模様が、光の中でくっきりと浮かび上がった。


 これで全員の検証が終わった。


 訓練場を出ながら、ノールが少し考えるような顔をした。


「ヒビが火で、ミズチが水で、ドロンが土で、カゼマルが風で、パチが雷。五属性が全部揃ってるんだね」


「意識してそうなったわけじゃないけどな」


「でも偶然じゃない気がする」


「それよりジン、一個確認したいんだけど」


「何だ」


「パチの速度強化、もう一回見せてもらえる? 今度はちゃんと測りたい」


 ノールが手帳を再び開く。俺は苦笑しながら訓練場へ引き返した。


「……記録魔め」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 パチを再び指輪から呼び出す。白いイタチが現れて、俺の足元でちょこんと座った。尾の先端がゆらりと光る。


 ノールが地面に二本の木の棒を刺して、簡易的な計測用の目印にした。


「この二点間を走らせてみて。距離は大体十メートル」


 俺はリンクを通してパチに意図を伝える。帯電、そして加速。


 パチが地を蹴った。


 白い閃光が走った、としか言いようがなかった。気づいたときにはパチは反対側の棒の前でぴたりと止まっていた。ノールが目を細める。


「……速いな」


「速いどころじゃなかった。一瞬だった」


 ノールがじっと手帳に何か書いてから、顔を上げた。


「討伐実習でも使えそうだけど——あ、そっか。実習ではヒビたちは使えないんだっけ」


「ああ。指輪の中にいてもらう」


「それは惜しいな」


 惜しい、という言葉はそうだと思う。でも仕方ない。スキルのことは、まだ隠しておく必要がある。


 パチを指輪に戻して、俺たちは並んで歩き出した。朝の空気はまだ少し冷たくて、吐く息が白くなった。


「討伐実習、ジンは楽しみ?」


「楽しみ、というか……父さんに言われた言葉が引っかかってる」


「なんて?」


「本物の殺気は違う、って」


 ノールが少し黙った。それから静かに言う。


「俺も怖い、正直に言うと」


「俺もだよ」


 どちらともなく、足が止まった。朝の光の中で、二人してしばらく黙っていた。


 五体それぞれに力がある。それを束ねているのが、俺のスキルだ。


 まだ全貌はわからない。でも、確実に前に進んでいる。


 ヒビたちと、ノールと、この場所で積み上げてきたものを信じて、俺は前を向いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ