表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/74

第64話 カゼマルが変わる

ミズチの検証が終わって三日後、今度はカゼマルが落ち着きをなくした。


予兆はあった。指輪の中にいるときも、リンクを通してそわそわした感触が伝わってきていた。ヒビの進化前に似た、じっとしていられない感じだ。ただヒビのときより軽い。重さがなくて、風が吹き込んでくるような、浮き立つ感覚がある。


朝、部屋でヒビたちを出してやると、カゼマルがいつもの倍近い速さで机の上を歩き回った。


「そわそわしてるな」


キィ、と一声。肯定とも否定ともとれない返事だった。


体はまだ光っていない。でもリンクからくる感触がいつもと違う。ミズチのときは水底のざわつきだったが、カゼマルのそれは上昇気流みたいな感じだ。どこかに向かって引っ張られるような、浮き立つ感覚がある。


昼休みにノールに伝えると、すぐに手帳を開いた。


「カゼマルの番ですね。リンクの感触はミズチのときと違いますか」


「全然違う。ミズチは水底のざわつきだったけど、カゼマルは上に引っ張られるみたいな感じだ」


「属性の違いが出ているんですね。風らしい」


ノールが嬉しそうに書き込んでいる。


「前兆から何日かかるかは、個体差がありましたね。ヒビ、ドロン、ミズチと見てきましたが、毎回少しずつ違う」


「カゼマルは三日くらいだと思う。なんとなくそんな気がする」


「リンクから?」


「ああ。理屈じゃないけど」


ノールが「なるほど」と書き足した。


二日目の夕方、カゼマルの体が光り始めた。


ミズチの青白い光とは違って、薄い黄緑色だった。朝の光に似た、柔らかい色だ。部屋の中がぽわっと明るくなって、パチが本棚の影からひょっこり顔を出した。


カゼマルは机の真ん中で丸まって、動かなくなっていた。


羽毛がほんのり光を帯びて、ヒヨコの丸い輪郭がいつもより大きく見える。いや、実際に少し大きくなっているかもしれない。


「始まったな」


俺はカゼマルのそばに椅子を引き寄せて、課題をやりながら横目で見ていた。


ヒビが肩の上から、ドロンが机の端から、それぞれカゼマルのほうを向いていた。ミズチは俺の腕の上で体を伸ばしたまま、じっとカゼマルを見ている。


みんな静かだった。カゼマルが騒がしいぶん、静止したカゼマルを囲む空気がいつもより静けさを感じさせた。


三日目の昼過ぎだった。


授業が終わって部屋に戻ると、カゼマルの光が強くなっていた。昨日の比ではない。窓から入る春の光と混じって、部屋全体がうっすら黄緑色に染まっているように見えた。


指輪に入れてきていたが、リンクの感触が急に大きくなったのは昼の授業中だった。上昇気流の感覚が頂点に達するような、一気に膨らむ感じだ。


急いで戻ってきてよかった。


それから一時間ほどして、カゼマルの全身が光に包まれた。


目を閉じる間もなかった。黄緑の光が弾けて、俺は思わず腕で顔を覆った。風が吹いた。窓は閉めていたのに、部屋の中で風が起きた。紙が数枚、机から床に落ちた。


光が収まって、腕を下ろした。


机の上に、カゼマルがいた。


ヒヨコの面影はあった。でも、だいぶ違う。体格は三回りほど大きくなって、丸みのあった輪郭がすっきりと引き締まっている。羽毛は以前より白みがかった緑で、風切り羽の先端が鋭く整っていた。翼が生えていた。ヒビのような蝶の羽ではなく、鳥らしい大きな翼だ。広げると俺の腕の長さを超えるくらいある。


尾羽が長い。風を受けて、かすかにたなびいていた。


「カゼマル」


名前を呼ぶと、カゼマルが俺を向いた。目が鋭くなっていた。以前はまん丸で愛らしい目だったが、今は細く澄んでいる。でも色は同じ、透き通ったエメラルドグリーンだ。


リンクから伝わってくるのは、吹き抜ける風の感触だった。広い場所を流れる、自由な風だ。以前の「ぴよぴよ」していたざわつきとは別物の、力強い流れがある。


カゼマルがおもむろに翼を広げた。


部屋の中で風が起きた。書きかけの課題の紙が全部飛んだ。


「……屋外でやれ」


カゼマルがキィ、と鳴いた。


声は変わっていなかった。


俺は苦笑して、飛んだ紙を拾い集めた。カゼマルが翼をたたんで机の上で胸を張っている。得意げだ。


「見た目は変わったけど、中身は同じだな」


キィ、ともう一声。今度は明らかに得意げな返事だった。


ヒビが肩から飛んで、カゼマルの前に降りた。二体がしばらく向き合っていた。ヒビの蝶の羽とカゼマルの鳥の翼が並ぶと、かなり対照的だ。炎と風、赤と緑。


ドロンがのっそりと甲羅ごとカゼマルのほうに向きを変えた。ミズチが静かにカゼマルを一周した。パチが本棚の影から顔を出して、確認してからまた引っ込んだ。


それぞれのやり方で、確かめているんだろう。


カゼマルが翼を小さく動かした。今度は風は起きなかった。加減しているのかもしれない。


「明日、検証しよう。今日はゆっくりしてていい」


カゼマルはキィ、と一声だけ返して、翼をたたんだ。


リンクから伝わってくる風の感触は、すでに落ち着いていた。進化してすぐは高揚感みたいなものがあったが、今はもう安定している。早い。ミズチのときの深い水の静けさとは違う、軽やかで自由な感触だ。


窓の外で風が木の枝を揺らした。カゼマルがその方向を向いて、また少しだけ翼を広げた。


「明日な」


キィ。


今度は、少し大人しい返事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ