第6話「スキル授与式」
六歳の誕生日を過ぎた頃、父から告げられた。
「来月、王都へ行く」
スキル授与式だ。
この国では六歳になると、王都の国家施設で行われる授与式に参加する。神の声が本人だけに聞こえて、スキルが告げられる。貴族も平民も関係なく、全員が受ける義務がある。
ラノベで散々読んできたやつだ。
俺は内心でわくわくしていた。でも顔には出さなかった。なんとなく、平静を装いたかった。
「王都は初めてか」
父が言った。
「うん」
「でかいぞ。ガルナの十倍はある」
「そんなに」
「圧倒されるな。アルマーレの人間はどこでも堂々としていろ」
短い言葉だったが、励ましのつもりなんだろうと分かった。
俺は「分かった」と答えた。
王都までは馬車で三日かかった。
道中、母がいろいろと教えてくれた。授与式の流れ、会場の様子、他の貴族家との挨拶の仕方。父は窓の外を見ながら黙って聞いていた。たまに母の話に「そういうことだ」と一言添えるだけだった。
窓から見える景色が、少しずつ変わっていった。
港町の潮の匂いが薄れて、代わりに草原の青い匂いがしてくる。遠くに山が見えて、川を渡って、村が増えて、町が増えて。三日目の朝、馬車の窓から王都の外壁が見えた時、俺は思わず身を乗り出した。
でかかった。
父が「十倍」と言っていたが、それは控えめな表現だったかもしれない。石造りの巨大な壁が地平線まで続いていて、その向こうに尖塔がいくつも突き出している。人の流れが川みたいで、馬車も荷車も引きも切らない。
――すごい。
素直にそう思った。
会場は王都の中心に近い国家施設だった。
白い石造りの大ホールで、天井が高くて、光が差し込む窓が等間隔に並んでいる。すでに大勢の子供と親が集まっていて、広いはずのホールが人でいっぱいだった。
受付を済ませて、順番を待つ。
周りを見渡すと、様々な家の子供たちがいた。緊張で青ざめている子、落ち着かなそうにそわそわしている子、逆に平然と立っている子。貴族らしい豪華な服を着た子もいれば、少し古びた服の子もいた。
俺は静かに前を向いていた。
「ジン・アルマーレ」
名前を呼ばれた。
父と母に小さく頷いて、俺は一人で壇上に向かった。
壇上の中央に、白い台座があった。
鑑定士と呼ばれる白衣の男が立っていて、俺を見て軽く頷いた。
「台座に手を置いてください」
言われた通りに手を置いた。
台座はひんやりしていた。石の感触だが、触れた瞬間にじわりと何かが流れ込んでくる感じがした。魔力に似ているが、もっと静かで、もっと深いもの。
そして声が聞こえた。
本人だけに聞こえると言われていた、神の声。
低くも高くもない、性別のない声だった。
「【?】」
それだけだった。
俺は少し首を傾げた。
もう一度聞こえるかと思ったが、何も来なかった。スキルの説明も、属性の告知も、何もない。ただ「【?】」という、記号みたいな一言だけ。
手を台座から離すと、鑑定士が水晶板を覗き込んだ。
眉がひそめられた。
もう一度覗き込んで、隣の補佐に何か耳打ちした。補佐も覗き込んで、困惑した顔をした。
「……アルマーレ家のジン殿、で間違いないですね」
「はい」
「もう一度、台座に」
言われた通りに手を置いた。また「【?】」と聞こえた。それだけだった。
鑑定士は書類に何かを書いて、俺に告げた。
「ユニークスキル、詳細不明、と記録させていただきます」
淡々とした声だったが、目が少し泳いでいた。
「分かりました」
俺は頷いて、壇上を降りた。
父と母のところへ戻ると、二人とも俺の顔を見た。
「どうだった」と母が聞いた。
「ユニークスキルらしい。詳細不明って言われた」
母は目を丸くした。
父は少し間を置いてから、「そうか」とだけ言った。
「怒ってる?」
「なぜ怒る」
「スキルが分からなかったから」
父は俺を見下ろして、静かに言った。
「スキルは道具だ。どんな道具かより、使う人間の方が大事だ」
それだけ言って、父は歩き出した。
母が俺の手を握った。温かかった。
「大丈夫よ。ユニークスキルって、それだけで特別なんだから」
俺は頷いた。
内心では、少しだけ興奮していた。
詳細不明。誰も知らない力。
――悪くない。むしろ、最高じゃないか。




