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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第54話 硬くなる②

ライルに教えてもらった「弱い部位から固める」方法を試して、一週間が経った。


変化は確かにあった。


まず下半身——膝、足首、脛の順に硬化の精度を上げた。弱点が潰れると、上半身との接続が安定する。全体をひとつの流れとして扱う感覚が、少しずつ掴めてきた。


今日は動きながらの維持を試す日だ。


練習場の端に立って、軽く走りながら硬化を維持する。最初の数歩は保てた。だが走り始めると足首の硬化がすぐに薄くなる。意識が追いつかない。


「……やっぱり動作と同時は難しいな」


止まって、もう一度整える。


静止状態で全身を硬化させてから、ゆっくり歩く。速度を上げない。硬化の感覚を保ちながら、足を出す。腕を振る。息をする。


少しずつ、動きに硬化を馴染ませていく。


一時間かけて、早歩きまでなら維持できるようになった。走ると崩れる。だが確実に前進している。


「ジン」


声がした。


セレインだった。いつもより少し早い時間に来たらしい。


「今日は早いな」


「授業が一コマ空いたので」


セレインは軽く会釈して、少し離れた場所に立った。俺の練習を邪魔するつもりはない、という距離感だ。


「……何か、魔力の纏い方が変わりましたね」


セレインが静かに言った。


「身体硬化の練習をしてる」


「なるほど。体表に魔力を定着させる技ですね。制御が難しい部類です」


「発動はすんなりいったが、維持がまだ安定しない」


「動きながら均等を保つのは、魔力制御の中でも上位の難易度だと思います。理論上は、魔力の循環経路を先に固定してしまうと崩れにくくなるはずですが」


「循環経路?」


「体の中で魔力が流れる道筋、とでも言いますか。先にそこを決めておくと、動いても流れが乱れにくい。……ただ、私は付与魔法専門なので、身体強化系には詳しくないですが」


「いや、参考になる」


魔力の流れ道を先に作っておく——試したことがなかった発想だ。川でいえば、岸を先に固めておいてから水を流す。確かに崩れにくいかもしれない。


「ありがとう」


「お役に立てれば」


セレインは小さく微笑んで、自分の練習を始めた。


俺は早速試してみた。


全身に硬化を張る前に、魔力が流れる経路を意識する。背骨から肩、腕、腰、脚——大まかな幹を先に決める。その後、幹から枝を広げるように表面に魔力を張る。


走ってみた。


崩れない。


膝が落ちない。足首が薄くならない。全体がひとつの流れとして動いている。


「……これだ」


思わず声が出た。


全力まではまだ無理だろうが、この感覚を固めていけばいい。


その日の帰り際、ノールが廊下で待っていた。


「身体硬化、進んでいますか?」


「動きながらの維持ができてきた」


ノールが少し目を輝かせた。


「それは早いですね。何かきっかけがあったんですか?」


「ライルに弱い部位から固めるとヒントをもらった。セレインに循環経路の話を聞いた」


「なるほど。理論と実感が噛み合ったんですね。二段階で解決したわけですか」


「そういうことになる」


「……周りの人から素直にヒントを拾えるのは、ジンさんの強みだと思います」


ノールが少し真面目な顔で言った。


俺は少し考えてから、「そうかもな」と返した。


一人でやり切ることより、使えるものは全部使う。それが遠回りに見えて一番早い、と思っている。


部屋に戻ると、ヒビが内ポケットから這い出してきて、手のひらに乗った。


「そのうち、お前たちと一緒に動けるようになる」


ヒビが羽をぱちりと一度動かした。


それだけで十分だ、と思った。


さらに三日、同じ練習を繰り返した。


走りながら維持できるようになると、次は方向転換しながら、跳びながら、着地しながら——負荷を少しずつ上げていった。複雑な動作になるほど崩れやすい部位が変わる。その度に弱点を潰して、経路を補強する。


地道だが、確実に精度が上がっていった。


十日目に、全力疾走しながら上半身の硬化を維持できた。


完璧じゃない。足元が少し薄くなる。でも以前とは比べ物にならない。


「次は必要な部位だけに絞れるかだな」


全身を一律に硬化するのは消耗が大きい。実戦では打撃を受ける瞬間だけ、その部位を集中的に硬くする——そのほうが魔力の節約になるはずだ。


試しに、拳だけを硬化したまま走ってみた。


最初は維持しながら走ることに意識が割れて、どちらも崩れた。だが繰り返すうちに、身体硬化が半ば自動化されてくる感覚が出てきた。意識せずとも流れるように——。


「……体が覚えてきてる」


魔力弾を撃つとき、いちいち「圧縮して解放」と意識しなくても体が動くようになったのと同じだ。繰り返せば、技は体に馴染む。


その確信が持てたところで、身体硬化はひとまず実戦で使えるレベルに達したと判断した。


その夜、久しぶりにレオとライルと三人で食堂に行った。


「最近ずっと練習してたよな」レオが飯を口に運びながら言った。「なんか手応えあったか?」


「まあな」


「具体的には?」


「体が硬くなった」


「……意味わかんないけど、お前が言うなら本当なんだろうな」


レオが笑った。


ライルは黙って汁物を飲んでいたが、「動きで分かる」と一言だけ言った。


「見てたのか?」


「少しな」


どこかで見ていたらしい。ライルは本当に観察眼が鋭い。


「悪くなかった」


短い評価だが、こいつにしては十分すぎる言葉だ。


「次は纏いか?」レオが何気なく聞いた。


「よく分かったな」


「なんとなく。お前、ひとつ終わったらすぐ次に行くタイプだろ」


否定できなかった。


魔力纏い——硬化と似ているようで、また違う感覚が必要になるはずだ。今度はどんな壁が来るか、少し楽しみにすら思っていた。


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