表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/74

第51話 もう1体が変わる

その変化に気づいたのは、朝の稽古の途中だった。


内ポケットの中で、ドロンがもぞもぞと動いている。眠っているときは丸まって静かなのに、今日はどうも落ち着かない様子だった。


稽古を切り上げて、人気のない場所を探した。


学院の東側にある物置の陰——ここはほとんど誰も来ない。ドロンをそっと手のひらに出してみると、細長いミミズの体がうっすらと光っていた。


「……お前、進化するのか?」


ドロンがゆっくりと丸まった。


いつもより動きが緩慢で、体の輪郭がぼんやりしている。光は弱いが、確かにある。ヒビのときも最初はこんな感じだった——体が光り始めて、じっとしたまま動かなくなる。


間違いない。これは前兆だ。


俺は息を吐いて、ドロンをそっとポケットに戻した。


今日の授業中も、ドロンはずっと動かなかった。昼休みに確認すると、体の光が少し強くなっていた。進化が近い、というより——もう始まっているのかもしれない。


その夜、寮の部屋でドロンを机の上に出した。


他のヒビたちも、それぞれの場所からドロンを見ていた。ミズチが机の端からじっと視線を向けている。カゼマル はぴよぴよと鳴くのをやめて、静かにしていた。パチは本棚の影から、ひげをぴくぴくさせながら観察している。


みんな、分かっているのかもしれない。


「ゆっくりでいいからな」


俺はドロンに小さく声をかけた。


ドロンは動かない。体の光がゆっくりと脈打っている。呼吸みたいなリズムで、規則正しく。


俺はそのまましばらく眺めてから、布団に入った。


起きたらまた確認しよう、と思いながら。


-----


翌朝、ドロンはまだ光っていた。


翌々日も、その次の日も、同じだった。


ヒビのときは数日だった。ドロンはもっとかかるらしい。俺は毎朝確認しながら、授業をこなし、練習をこなし、普通の日常を送った。


レオには「最近、考え事でもしてるのか?」と言われた。


「少し」と答えたら、それ以上聞いてこなかった。


ライルは何も言わなかったが、授業の合間に俺の顔をちらりと見ていた。こいつはそういう観察をさりげなくやる。


ノールだけが、廊下ですれ違いざまに小声で聞いてきた。


「ドロン、ですか?」


「ああ」


「そうですか」


それだけで、ノールは全部分かったようだった。こいつには説明が要らない。


-----


十四日目の朝。


目が覚めて、机の上を見た瞬間——光が消えていた。


俺は跳び起きた。


ドロンがいた場所には、一回り大きな生き物がいた。


甲羅を持つ亀だ。


ただの亀じゃない。甲羅の表面に大地の紋様が刻まれていて、それが淡く光を帯びている。体の色は深い土色で、落ち着いた重みがある。


「……ドロン?」


亀がゆっくりと首をもたげた。


目が合う。


その目は、ドロンの目だ。のんびりとした、焦りのかけらもない目。体が変わっても、そこにある意識は変わっていない。


俺は思わず笑った。


「お前、でかくなったな」


ドロンがゆっくりと瞬きをした。


甲羅の紋様が一度強く光って、また静かに収まった。まるで挨拶みたいに。


リンクを通じて流れてくるものが、前より少しはっきりした。感情の輪郭みたいなものではなく——もっと具体的な、重厚な存在感として。


ヒビが炎の蝶になったとき、羽ばたきが俺の体の中に響いた。


ドロンは違う。地面に根を張るような、どっしりとした感覚が流れてくる。


「……守ってくれそうだな」


ドロンがまた瞬きをした。


他の四匹も、それぞれの場所からドロンを見ていた。カゼマルが「ぴよ」と短く鳴いた。それが祝福みたいに聞こえて、俺はもう一度笑った。


その日の放課後、俺は練習場に向かった。


セレインが先に来ていた。いつも通り、魔力制御の練習をしているらしい。俺の顔を見て、小さく会釈した。


「……今日は、いつもと少し違いますね」


セレインが静かに言った。


「何かあったんですか?」


「少し、いいことがあった」


それ以上は言わなかった。


セレインも深く聞いてはこなかった。ただ、「そうですか」と短く返して、また自分の練習に戻った。


こういうところが、セレインとの関係のしっくりくる部分だ。多くを語らなくても、変に詮索されない。それでいて、こちらの変化にはちゃんと気づいている。


俺は少し離れた場所で、身体強化の練習を始めた。


魔力を全身に均等に流す。基礎中の基礎だが、これを徹底することが全ての土台になる。集中しながら、頭の片隅でドロンのことを考えていた。


あいつが土亀になった。


次に進化するのは、ミズチかカゼマルかパチか——まだ分からない。でも、五匹全員がいつか次の形態になる。そのたびに、俺との繋がりも深まっていく。


それが今は、楽しみでしかない。


「……集中できてますか?」


セレインの声が飛んできた。


「できてる」


「魔力の流れが途切れかけてましたよ」


「……気づいてたのか」


「制御の練習中ですから、周囲の魔力には敏感になります」


淡々とした口調だが、注意してくれているのは確かだ。


俺は気を取り直して、もう一度最初から整えた。


ドロンの進化に浮かれすぎていた。喜ぶのはいい。でも、今ここに集中することを怠ったら意味がない。


足元を固めながら、上を目指す。


ヒビたちの成長と、自分の成長を、同じペースで積み上げていく——それが俺のやり方だと、改めて思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ