第5話「地道に、ただ地道に」
五歳になっても、やることは変わらなかった。
魔力操作、体の鍛錬、世界の知識。
毎日同じことを繰り返す。
派手さのかけらもない日々だ。
でも俺は飽きなかった。
前世でラノベを読み漁った経験が言っている。強くなる主人公は、必ず地味な積み上げをしている。チートスキルを持っていても、基礎がない奴はどこかで詰まる。逆に基礎が完璧な奴は、どんなスキルを得ても伸びが違う。
だから今は、ひたすら基礎だ。
魔力操作は、かなり精度が上がってきた。
手のひらに集める、指先まで通す、全身に広げる。最初はどれも四苦八苦していたのに、今では意識しなくてもできるようになっている。
次の課題は「均一に広げる」ことだ。
全身に魔力を通すのはできる。でも均一となると話が別で、右と左でムラが出るし、末端になるほど薄くなる。母に言わせると、これができるようになると身体強化の効率が大きく変わるらしい。
「イメージが大事なのよ。水が体中に染み渡る感じで」
母のアドバイスを思い出しながら、俺は庭でひたすら繰り返した。
染み渡る。染み渡る。
……右足の先が薄い。
また最初からやり直す。
体の鍛錬の方は、父が少しずつ内容を増やしてくれていた。
最初は重心と軸だけだったのが、今では受け身の取り方や、相手の力を流す動きも教わるようになっていた。どれも前世の古武術と通じるものがあって、飲み込みは早い方だと思う。
ただ、五歳の体はまだ細い。
父の動きを頭で理解しても、体が追いつかない場面がまだ多かった。
「焦るな。体は裏切らない」
父はいつもそう言った。
口数の少ない人だが、この言葉だけは何度も繰り返した。
たぶん、自分自身に言い聞かせてきた言葉なんだろうと思った。
俺は黙って頷いて、また続けた。
知識の面では、屋敷にある本を片っ端から読んでいた。
この世界の地理、歴史、魔物の生態、冒険者ギルドの仕組み。父の書斎には難しい本も多かったが、前世の記憶のおかげで読み解くのにそこまで苦労しなかった。
一番面白かったのは、魔物図鑑だ。
レベル1のゴブリンからレベル10の伝説級まで、細かく記載されていた。強い魔物ほど知性があって、言葉を話すものもいる。そういう設定はラノベでよく見たが、実際にこの世界にあると思うとぞくぞくした。
――いつかこいつらと戦うのか。
そう思うと、練習にも自然と力が入った。
夕方、練習を終えて縁側に座っていると、母が隣に来て座った。
「最近、魔力の扱いが随分と上手くなったわね」
「まだムラがある」
「それでも五歳でここまでできる子、そうそういないわよ」
母はそう言って、海の方を見た。
夕日が水平線に溶けていくところだった。
「スキル授与式、楽しみね」
「……どんなスキルが出るんだろうな」
「何が出ても、あなたならうまくやるわよ」
根拠のない言葉だった。
でも母が言うと、なぜか本当にそんな気がした。
俺は黙って、沈んでいく夕日を見ていた。
六歳まで、あと少し。




