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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第44話 魔力弾、完成へ

休日の朝、俺は一人で学院の外縁へ向かった。


使い慣れた空き地。

草が短く、視界が開けていて、何より人が来ない。

去年の秋からずっとここで魔力弾の練習をしている。


岩を標的にする。

少し離れた場所に転がっている、拳二つぶんほどの丸い石だ。


魔力を右手の先に集める。

ゆっくりと圧縮する。内側へ、内側へ。

形を整えて、外側を固める——硬化。


これは去年の秋には安定していた。

問題は次だ。速度が出ない。


押し出す感覚で飛ばすと、塊がゆっくりと前に進んで標的に当たって消える。

威力はある。形も保たれている。ただ、遅い。

実戦で使えるレベルではなかった。


去年の終わり頃、一つのイメージが浮かんだことがある。

バットで打つ感覚。物を押し出すのではなく、弾く。

その方向性は合っていると思った。でも実際にどうすればいいかが、まだわかっていなかった。


もう一度試す。


魔力を圧縮する。硬化させる。

押し出す直前に、後ろから一瞬だけ力を乗せる——弾く。


塊が空中を飛んだ。さっきよりは速い。でも、まだ足りない。


繰り返す。

弾く感覚を変えてみる。後ろから押すのではなく、もっと瞬間的に。点で当てるように。


「やってますね」


声がして振り向くと、セレインが草の上に立っていた。

いつものように静かに現れる。


「ああ。速度の話」


「見てました。少し前から」


「どう見えた」


セレインは少し考えてから答えた。


「押してる、という感じがします。弾いているというより」


「そうか」


「弓矢で考えると、弦を引いて放す瞬間の感覚に近いかもしれません」


「弓の弦」


「蓄積してから解放する。押し続けるのとは違います。ためて、一気に手を放す感じです」


俺はその言葉を頭の中で繰り返した。

蓄積して、解放する。


もう一度、魔力を集める。

圧縮する。硬化させる。


今度は後ろに圧力を溜めるイメージ。

弦を引くように。引いて、引いて——放す。


塊が飛んだ。


今までとは明らかに違う速度だった。

風を切る音がした。標的の岩に当たって、欠けた。


「……っ」


思わず息を止めた。


「当たりましたね」


セレインが静かに言った。声のトーンはいつも通りだが、少しだけ目が細くなっていた。


「もう一度」


「はい」


繰り返す。

十回、二十回。


毎回同じ速度は出ない。まだ安定していない部分がある。

溜める量が足りないと遅くなる。溜めすぎると形が崩れる。


ちょうどいい量を探しながら、続けた。


三十回を超えたあたりから、少しずつ感覚が掴めてきた。

溜める量に、適切な幅がある。その幅の中で放せば、速度が出る。


「感覚、掴めてきました?」


「だいぶな」


「文献では、凝固した魔力は鉄より硬くなりうると書いてありました。速度が乗れば、相当な威力になります」


「実例はないんだろ」


「ほとんど。だからジンがやってることは、理論上は正しいけど前例がないものです」


「そうか」


「すごいと思います」


さらっと言うから、少し返事に詰まった。


「……お前が理論を教えてくれたおかげでもある」


「でも私は弾けません。あれは、ジンだからできることだと思います」


セレインはそう言って、空の方を見た。

特に意味深な表情ではなく、ただそう思ったから言った、という顔だった。


昼を過ぎた頃、俺は草の上に座ってひと息ついた。


セレインは隣に座っていた。

以前は岩の上から動かなかったのに、いつの頃からか自然に隣に並ぶようになっていた。


「魔力制御の授業、どうだった」


「思ったより基礎的な内容でした。でも丁寧に整理できるので悪くないです」


「セレインには物足りないだろ」


「少し。でも同じクラスに面白い人がいるので」


「誰だ」


「ジンです」


間があった。


「……俺か」


「魔力弾みたいな技術、授業でやってる人はいません。観察していると参考になります」


「観察されてたのか」


「していました」


悪びれもなく言う。

俺はそれ以上何も言えなくて、空を見た。


雲がゆっくり動いていた。

風が穏やかに草を揺らしていた。


帰り道、二人並んで学院に向かいながら、俺は今日の感覚を頭の中で繰り返していた。


蓄積して、解放する。これが速度の鍵だった。


押し出す力ではなく、解放する力。そこに速度が乗る。

弓矢の例えは正確だった。セレインはこういう説明が上手い。理屈として知っていることを、実感に変えやすい形で言ってくれる。


「次の休日もここに来ますか」


「ああ、来る」


「そうですか」


「セレインは」


「……来ると思います」


自分のことなのに他人事みたいな言い方だった。

でも最近は、それが少し面白いと思うようになっていた。


学院の門が見えてきた。

夕方の光が石壁を橙に染めていた。


「今日ありがとな。弓の例え、助かった」


「役に立てたなら良かったです」


「役に立った」


「それは良かったです」


セレインは特に表情を変えなかったが、少しだけ歩く速度が緩んだ気がした。

俺も特に何も言わずに、並んで歩き続けた。


内ポケットの中でヒビが小さく動いた。

温かい感情が伝わってきた。


今日は、いい一日だったと思う。


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