表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/74

第40話「フィーナ、戦う」

 フィーナ先輩が闘技場に入ってきた瞬間、会場の空気が変わった。


 歓声でも静寂でもない。ざわめきだ。名前を知っている者、知らない者、全員が同じ反応をしている。あの人は何者だ、という空気だ。


 ジンには理由がわかった。先輩が歩いているだけで、魔力の圧がある。隠しているわけじゃない。抑えているわけでもない。ただそこにいるだけで、場の密度が変わる。そういう人間だ。毎朝向き合ってきたからこそわかる。初めて見る人間にはわからないものが、ジンにはわかった。


「……すごい」


 レオが小声で言った。普段なら大声で言うところだが、今日は自然に声が小さくなっていた。


 ノールがメモを取る手を止めた。


 ライルは腕を組んだまま、静かに目を細めた。


 セレインは、何も言わずに見ていた。


 個人戦の最終試合。フィーナ先輩の相手は、四年生の男子生徒だった。


 体格がいい。魔力量もある。観客席からでもわかる。普通であれば強豪と言っていい出場者だ。腕を組んで、余裕のある顔をしている。フィーナ先輩を知らないのかもしれない。


 試合開始の合図が鳴った。


 相手が動いた。火属性の大技だ。かなりの規模で、会場の気温がわずかに上がったのがわかった。普通の生徒なら避けるか防ぐかで手一杯になる。


 フィーナ先輩は動かなかった。


 ただ一歩だけ、横に踏み出した。


 炎が先輩の横を通り過ぎた。髪が少し揺れた。それだけだ。


 次の瞬間、先輩は相手の懐に入っていた。誰も動きを追えなかった。ジンでさえ、どう動いたのか正確には見えなかった。ただ気づいたら先輩が相手の真横にいた。


 相手の足が浮いて、地面に落ちた。


 試合終了。


 会場が静まり返って、それから爆発的な歓声が上がった。


「……今の、見えたか」


 レオがジンに聞いた。


「最初の一歩と最後の動きだけ見えた。途中が追えなかった」


「俺は最初の一歩しか見えなかった。あとは知らない間に終わってた」


 ノールが興奮した様子でメモを取り始めた。


「魔力の使い方がほとんど外に出てなかった。全部体の中で完結してる。だから動きが読めない」


 ジンはその言葉を聞いて、腑に落ちた。


 魔力の使い方と間の取り方。今朝、先輩が言った言葉だ。


 先輩の魔力は外に漏れない。身体強化として全部体の中に収める。だから相手は魔力の動きを読もうとしても読めない。そして間の取り方、あの一歩横に踏み出しただけで大技を回避したのは、タイミングの読みが完璧だからだ。相手の魔力が動いた瞬間を、完全に先読みしている。


「先輩の強さの一端が、少しわかった気がする」


 ジンが言うと、セレインが静かに言った。


「あの人の魔力、量は私と同じくらいです」


 ジンは少し驚いた。


「計測不能レベルじゃないのか」


「私と同じ、という意味です」


 つまり計測不能レベルの魔力量を持ちながら、それを全部体の中に収めて戦っている。そういうことだ。出力を絞れば絞るほど相手に読まれない。だから先輩はあれだけ静かに戦える。


「化け物だな」


 ジンが呟くと、セレインがわずかに頷いた。


 チーム戦も圧倒的だった。


 フィーナ先輩が入ったチームは、四試合全てを先輩の動きで決着がついた。他のメンバーが動く前に終わっていた。チームメイトたちが若干手持ち無沙汰な顔をしていたのが、遠目にもわかった。


 最終的に、フィーナ先輩のチームが優勝した。


 表彰の場で、先輩は相変わらず飄々とした顔をしていた。周囲が大歓声を上げる中で、ただそこに立っているだけだ。視線がこちらを向いた気がした。ジンが目を合わせると、先輩はわずかに口の端を上げた。それだけだった。


「……カッコよかった」


 レオが素直に言った。珍しく静かな声だった。


「今日で先輩のこと、ちょっと理解した気がする」とノールが言った。「強さの方向性が、俺たちとまったく違う」


「俺たちが目指してる先に、あの人がいるわけじゃないってこと?」


「そういうこと。あれは先輩だけの戦い方だ」


 ジンはそれを聞いて、頷いた。


 フィーナ先輩の戦い方をそのまま真似ることはできない。でも学べることはある。魔力を外に出さない、間の取り方、読みの精度。それは方向性として参考になる。


 来年、自分はあの闘技場に出る。属性魔法なし、身体強化だけで。今日見た光景が、その目標に少しだけ肉付けをしてくれた気がした。


 内ポケットの中でヒビが静かに動いた。熱が手に伝わってくる。夕陽の中で、その温かさがいつもより柔らかく感じた。


 隣でセレインが立ち上がった。


「帰ります」


「ああ」


 二人で人混みを出た。夕陽が学院の石畳を染めていた。後ろからレオたちの声が追いかけてきたが、今日は二人とも振り返らなかった。


 しばらく並んで歩いて、セレインがふいに言った。


「あなたは来年、対抗戦に出るんですよね」


「そうなる」


「楽しみにしています」


 感情の薄い声だ。でも社交辞令でもない気がした。


 ジンは少し考えてから言った。


「見ててくれ」


 セレインは何も言わなかった。でも歩く速度が、ほんの少しだけ遅くなった気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ