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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第38話「初弾」

 飛ばすことは、想像より難しかった。


 硬化した魔力の塊を、手の平から切り離して前方に飛ばす。言葉にすれば単純だ。だが実際にやろうとすると、切り離した瞬間に制御が途切れて、塊が霧散する。飛ばす前に消えてしまう。


 先週も、先々週も同じだった。硬化まではできる。でもそこから先で毎回詰まる。


 休日の空き地で、ジンは今日で三週目の挑戦をしていた。


 問題は「切り離し」と「推進」を同時にやることだ。体の中の魔力と繋げたまま飛ばそうとすると、繋がりが引っ張りになって速度が出ない。切り離すと制御がなくなって崩れる。どちらもうまくいかない。


 今日こそ突破口を見つける。そう決めて来た。


 朝稽古でフィーナ先輩に動きを見てもらったとき、「魔力の延長」という言葉を聞いたことがある。身体強化で体の外に魔力を漏らすとき、その感覚を延長させると体の外でも制御できると言っていた。先週からそれを試している。


「繋ぎながら飛ばす、はできないのか」


 ジンが独り言のように言うと、近くにいたセレインが答えた。


「概念的には『魔力の延長』です。切り離すのではなく、自分から伸びた腕のように扱う」


「腕のように……」


「弓の矢のように切り離して飛ばすのではなく、槍を突き出すような感覚に近いかもしれません。体から切り離さず、ただ前方に押し出す」


 ジンは少し考えた。


 槍を突き出す感覚。切り離さず、ただ延長する。


 試してみる。


 魔力を外に出す。硬化させる。そしてそれを切り離さず、前方に押し出す。腕を伸ばすように。


 塊が動いた。


 ゆっくりだ。速度がほとんどない。だが消えなかった。空中に硬化した塊が、ふわふわと一メートルほど前に出た。


「動いた」


「動きましたね」


 セレインが静かに言った。いつもの落ち着いた声だが、少しだけ前のめりになっている気がした。


 ジンはもう一度やった。今度は少し力を込める。押し出す力を強くする。


 塊が空中を飛んだ。二メートル、三メートル。草の上に落ちて、土に小さな窪みをつけて消えた。


 ジンはその場所まで歩いていって、窪みを確認した。直径三センチほどの小さな穴だ。たいした威力ではない。でもこれが始まりだ。


「……当たった」


 地面の窪みを見た。小さい。ただ確かに衝撃がある。今の密度では大したことはないが、もっと密度が上がれば話が変わる。これは武器になる。そう確信できた。


 ジンは何度も繰り返した。


 五メートル。七メートル。十メートル。精度が上がってくる。ただ速度がまだ足りない。本当に「弾」と呼べるスピードには程遠い。放物線を描くように落ちていく。まるで投げた石だ。


 速度を上げようとすると制御が崩れる。制御を維持しようとすると速度が出ない。次の壁はここだ。


 昼近くになったころ、ジンはいったん立ち止まった。


 消耗している。魔力はまだあるが、集中力の限界が近い。この状態で続けても精度が落ちるだけだ。


「今日はここまでか」


 セレインが隣に来た。少し前より距離が近い。気がついたらそうなっていた。最初のころは岩の上から動かなかったのに、今は普通に並んで立っている。


「まだ速度が出ない」


「飛ばすことはできました。十分な進歩だと思いますが」


「飛ばせただけじゃ使えない。速度がないと避けられる」


「そうですね」


 セレインが頷く。否定しない。それがやりやすかった。


「仕組みは掴めましたか」


「切り離さず延長する感覚は、なんとなくわかった。あとは速度だ。どうすれば速くなるか」


「押し出す力を魔力で補強する、という方向性はどうでしょう。塊そのものを速くするのではなく、背後から魔力で弾く」


「……弾く?」


「投げるのではなく、打つ。木の棒で打つようなイメージです。塊を先に作って、そこに速度を乗せる」


 ジンは少し考えた。前世の記憶を引っ張り出す。バット。確かに、あれは速度を乗せるものだ。ボールは投げるより打つほうが速くなる。


「面白い発想だな」


「理論です。できるかどうかはわかりません」


「やってみる価値はある」


 セレインがわずかに口の端を動かした。笑ったのかもしれない。一瞬のことで、すぐ元に戻った。


 ジンは水を飲みながら、次の練習の組み立てを考えた。塊を先に作る。そこに推進力を後から乗せる。順番を変えることで、速度と制御を両立できるかもしれない。


 夕方に寮に戻ると、レオが廊下で待ち構えていた。


「休日に何してんだよ!今日グループで街に出ようって話してたのに」


「言ってたか?」


「言ってた!」


 ジンはすこし考えたが、記憶にない。たぶんノールが伝え忘れたのだろう。


「悪い。次は行く」


「絶対だぞ!」


 レオが念を押した。ジンは曖昧に頷いて部屋に戻った。


「来週も来ますか」


 ジンが聞くと、セレインは少し間を置いて答えた。


「……来ると思います」


 来ると思います、という言い方が少し可笑しかった。まるで自分のことなのに、他人事のようだ。


 ジンは特に突っ込まなかった。


 風が草を揺らして、王都の空に雲が流れていった。


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