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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第35話「形にならない」

 翌週の休日も、ジンは同じ場所に来た。


 空き地に着くと、すでにセレインがいた。岩の上に座って、膝の上に本を広げている。ジンが近づくと顔を上げた。


「また来たんですか」


「また来た」


「……そうですか」


 それだけ言って、セレインは本に視線を戻した。


 ジンは荷物を置いて準備を始めた。先週より少しだけ感覚が掴めてきている。あとは反復だ。先週気づいたことを、今日は意識的に試す。


 それにしても、セレインがまたここにいる。先週は偶然だと思っていたが、今日も同じ岩に座って同じように本を読んでいる。散歩のついで、という感じではなかった。


 ジンは特に何も言わなかった。まあ、邪魔じゃないのでいい。それに不思議と、誰かがいる方が集中できる気がした。


 先週の終わりに気づいたことを、今日は意識的に試す。


 魔力を外に出す。川のように流す。散らさず、でも固めすぎない。


 形が残った。


 先週より安定している。五秒、六秒、七秒。


 崩れた。でも今度はゆっくりと霧散した。急に消えたわけじゃない。制御できている感覚がある。


「先週より長いですね」


 セレインが本から目を上げずに言った。見ていないようで見ている。


「感覚が少し掴めてきた」


「どんな感覚ですか」


「体の中で魔力を流すときに似てる。ただ壁がないぶん、流れの方向を自分で作らないといけない」


「……魔力の自己循環、ですね」


 ジンは少し考えた。


「そういう言葉があるのか」


「古い魔法理論の本に載っています。体の外で魔力を安定させるための概念で、実際に使いこなした記録はほとんどないそうですが」


「なんで知ってるんだ、そんなこと」


「読んだからです」


 当然のように言うセレインに、ジンは苦笑した。


 やっぱりこいつは変わらない。去年からそうだ。知識の引き出しが多すぎる。


 昼近くまで練習を続けた。


 形を保つことはできる。ただ、次の段階が難しかった。


 圧縮だ。


 形を保ちながら、密度を上げる。それが今日の目標だったが、圧縮しようとすると途端に崩れる。固めようとする力と、安定を保とうとする流れが、どうしても喧嘩する。


 三十回以上試みて、全部失敗した。


 ジンは地面に腰を下ろして水を飲んだ。消耗している。魔力量はまだあるが、集中力が削れてきた。鞄から取り出した干し肉を噛みながら、手の平を見つめる。


「うまくいかないな」


 独り言のように言うと、セレインが本を閉じた。


「圧縮と安定は同時にやろうとすると干渉します」


「どういうことだ」


「形を保つときに使う『流れ』と、圧縮するときに使う『収束』は方向が逆です。同時にやろうとすると打ち消し合う」


 ジンは少し考えた。


「じゃあ順番にやれ、ということか。先に形を安定させてから、そのあと圧縮する」


「理屈としてはそうなります。ただ実際にできるかどうかは……」


「やってみる」


 ジンは立ち上がった。


「……あなたはいつもそうですね」


 セレインがふいに言った。


「何が」


「できるかどうか考える前に、やる」


 批判しているわけではなさそうだ。ただ観察しているような声だった。


「考えてもわからないことは、やってみるしかない」


「……そうですね」


 セレインは短く言って、また本を開いた。


 ジンは再び手の平に意識を集中させた。


 魔力を外に出す。流れを作る。形を安定させる。


 そこまではできた。七秒、八秒、安定している。


 ここから。収束させる。流れを維持しながら、密度だけを上げる。


 崩れた。


 でも今度は、崩れる直前に何かがちがった気がした。ほんの一瞬、手の平の上の塊が、わずかに重くなった感覚があった。手に小石を乗せたような、確かな重さだ。


「……今、少しだけできた気がする」


「見ていました。密度が上がった瞬間がありました。一秒もなかったですが」


 セレインが静かに言う。やはり見ている。


 ジンは手の平を見つめた。まだ感覚が残っている。この感覚を忘れないうちに、もう一度。


「もう少しやる」


「……どうぞ」


 セレインはまた本を開いた。でも今度は、ページをめくる回数が少なかった。


 ジンは気づかないふりをして、練習を続けた。


 同じことを繰り返す。形を安定させる。密度を上げる。崩れる。また最初から。二十回、三十回。毎回少しずつちがう崩れ方をする。うまくいかないが、失敗のたびに何かが積み重なっていく感覚がある。


 内ポケットの中でヒビが静かに熱を送ってくる。応援しているのか、それとも眠いのか。どちらでもいい。この温かさが、集中を途切れさせない。


 まだ遠い。でも、確かに近づいている。


 夕方近く、二人は無言のまま連れ立って学院への道を歩いた。話したわけじゃない。ただ、帰る方向が同じだった。それだけのことだ。


 しばらくして、セレインがふいに口を開いた。


「来週も来ますか」


「来る予定」


「……そうですか」


 また短い返事だ。でも、聞いてきたということは、来週も来るつもりなのかもしれない。ジンはあえて聞かなかった。


 去年の自分なら、もう少し気まずかっただろうとジンは思った。


 風が草を揺らして、王都の夕陽が遠くの屋根を染めていた。


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