第17話「セレインからの手紙」
十歳になる少し前、一通の手紙が届いた。
差出人の名前を見て、俺は少し目を細めた。
セレイン・エルディア。
あのスキル授与式から、もう四年近く経つ。
手紙の封には、エルディア家の紋章が押されていた。
濃い青の蝋で、細かな模様が刻まれている。
さすが魔法名門貴族、という感じの封だった。
中を開けると、便箋が一枚。
文字は、きれいだった。
丁寧で、真っ直ぐで、でも温度が低い感じ。
なんというか、書いた人の性格が文字に出ている。
内容はこうだった。
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ジン・アルマーレ様
突然の手紙をお許しください。
エルディア家のセレインです。
来春、アルカディア魔法学院に入学します。
あなたも同じ年に入学すると聞きました。
あの日の約束を、覚えていますか。
「また会いましょう」
私は覚えています。
学院で会えることを、楽しみにしています。
セレイン・エルディア
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短い手紙だった。
でも、最後の一文に少し驚いた。
「楽しみにしています」
あの日のセレインの雰囲気からすると、意外な言葉だった。
感情を表に出さない子だと思っていたから。
「……覚えてたのか」
当たり前と言えば当たり前なんだけど、なんとなく嬉しかった。
母さんが横から覗いてきた。
「誰から?」
「エルディア家のセレインって子。スキル授与式で少し話した」
「エルディア家!」
母さんが目を丸くした。
「魔法付与の名門じゃない。どんな子だったの?」
「クールな子。感情があんまり顔に出ない。でも、悪い人じゃないと思う」
「手紙を出すくらいだから、あなたのことを気にしてたのね」
「どうですかね」
母さんはにこにこしながら「素敵じゃない」と言った。
俺は返事の便箋を取り出した。
何を書けばいいか、少し迷った。
セレインの手紙は短かった。
だから、俺も短くていい気がした。
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セレイン・エルディア様
手紙をありがとう。
覚えていますよ、あの日のこと。
学院で会いましょう。
俺も楽しみにしています。
ジン・アルマーレ
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書き終えて、少し読み返した。
……素っ気ないかな。
でも、これ以上書くこともないから、これでいいか。
封をして、父さんに渡した。
「エルディア家に返事を出してほしいんですが」
父さんはちらりと封を見て、何も言わずに受け取った。
その夜、庭でヒビを肩に乗せながら、俺は星を見た。
来春、学院に行く。
新しい場所、新しい人たち。
セレインとの再会。
ヒビたちは、こっそり連れていくつもりだ。
父さんには「学院に持ち込むな」とは言われていない。
念のため、確認はしていないが。
カゼマルがぴよぴよ言いながら膝に乗ってきた。
パチが足元をうろちょろしている。
「お前たちも、一緒に来るか」
返事はなかったけど、みんな俺のそばにいた。
それで十分だと思った。
春まで、あと少し。
修行も、続く。
でも、もう焦る気持ちはない。
できることを積み上げて、できることを増やす。
ただそれだけだ。




