第16話「五つの命」
ヒビが生まれてから、一ヶ月が経った。
俺は毎日、ヒビを観察しながら、もう一度あの感覚を再現しようとしていた。
「生き物の形を、具体的にイメージする」
「形と動きを同時に重ねる」
「スキルが動いた感覚を逃さない」
この三つが、たぶん条件だ。
二匹目は、一週間後に生まれた。
川の近くで見かけた蛇を、頭の中でイメージした。
細長い体。うねる動き。小さな鱗。
手のひらの上で、魔力が青白く光った。
生まれたのは、小さな蛇だった。
長さは三十センチほど。
全身が青みがかった銀色で、触ると冷たい水の感触がした。
「……お前は、ミズチ」
蛇は細い舌をちろちろと動かした。
三匹目は、その翌週。
土の中のミミズをイメージした。
なんとなく、丸まった感じの、もぞもぞした感じ。
生まれたのは、小さなミミズだった。
茶色くて、ずんぐりしていて、のんびりした動きをする。
「ドロン」
ドロンは俺の手のひらをゆっくりと進んで、土の上に降りた。
そのまま庭の土に潜ろうとしたので、慌てて拾い上げた。
「庭を掘るのはやめてくれ」
ドロンはそれでも土に潜ろうとしていた。
四匹目は、難しかった。
「風」に関係する生き物をイメージしたかったが、風そのものは形がない。
何日か考えて、ヒヨコを選んだ。
小さくて、ふわふわしていて、なんとなく風っぽい気がした。
半分冗談みたいな気持ちで作ったら、本当にヒヨコが生まれた。
ぴよ、と鳴いた。
「……」
なんか、かわいすぎて困った。
「カゼマル」
カゼマルはぴよぴよ言いながら、俺の膝の上に乗ってきた。
五匹目は、一番苦戦した。
雷をイメージした生き物。
雷虫みたいなものは知らないから、ネズミにしてみた。
理由は特にない。なんとなく、すばしっこい感じが雷っぽいと思っただけだ。
生まれたのは、小さなネズミだった。
毛が白くて、体がときどきびりびりと光った。
「パチ」
パチは生まれた瞬間から、やたらとすばしっこかった。
俺の手の上から飛び出して、庭を駆け回った。
捕まえるのに十分かかった。
これで五匹。
ヒビ、ミズチ、ドロン、カゼマル、パチ。
五つの命が、今、俺の庭にいる。
それぞれ全然違う。
性格も、動き方も、温度も。
ヒビは落ち着いていて、俺の肩によく居座る。
ミズチは静かで、いつも水の近くにいたがる。
ドロンは基本のんびりしていて、土の上が好き。
カゼマルはうるさいくらい元気で、どこにでもついてくる。
パチは気まぐれで、なでようとすると逃げる。
全員で並べると、なかなかカオスな光景になった。
「……俺、何をしてるんだろう」
でも、悪くない気分だった。
五匹は、それぞれの場所で、それぞれに生きていた。
俺はしばらくそれを眺めてから、ゆっくりと息を吐いた。
まだ、スキルの本当の意味はわからない。
なぜ生き物が生まれるのか。
なぜ属性があるのか。
どこまで成長するのか。
何もわからないことだらけだ。
でも、確かなことが一つある。
こいつらは、生きている。
それだけで、十分だと思った。




