第15話「命と向き合う」
ヒビが生まれてから、三日間。
俺は食事のとき以外、ほとんどヒビのそばにいた。
ヒビはよく食べた。
何を食べるんだろうと思って葉っぱを置いてみたら、もりもりと食べた。
あとは、よく動いた。
俺の腕を登ったり、降りたり。
肩まで来ると、しばらくそこでじっとしていた。
温かかった。
赤くうっすら光っていて、夜でも存在がわかった。
かわいい、と思った。
前世でもこの世界でも、ペットを飼ったことはなかった。
だから正直、最初はどう接したらいいかわからなかった。
でも、ヒビの方から勝手に慣れてきた。
生き物って、すごいなと思った。
問題は、両親にどう説明するかだった。
母さんに見せたのは、生まれた翌日だ。
「ジン、これは……」
母さんは目を丸くして、俺の肩にいるヒビをじっと見た。
「魔力で作りました。でも、動いてます。自分で」
「……スキルが、反応した?」
「たぶん」
母さんはそっと、ヒビに指を近づけた。
ヒビは少し首を傾けてから、ちょんと指に触れた。
「……温かい」
「はい」
「魔力でできてるのに、温かいのね」
「俺も不思議で」
母さんはしばらく黙って、ヒビを見ていた。
それから、静かに言った。
「この子、生きてるわ。魔力で作ったんじゃなくて、命があるのよ」
「……やっぱりそう思いますか」
「あなたのスキルは、命を作るスキルかもしれない」
その言葉は、ずっしりと俺の胸に落ちた。
命を作る。
すごい言葉だ。
怖い言葉でもある。
父さんに見せたのは、その夜だった。
父さんはヒビをじっと見て、一言だけ言った。
「珍しいな」
「はい」
「世界で、命を作れる存在を俺は知らない。お前のスキルは、本当に未知のものかもしれない」
「……怖いですか」
「怖い?」
「俺が、こういうスキルを持ってること」
父さんは少し考えてから、首を横に振った。
「お前がどんなスキルを持っていても、お前はお前だ。それだけだ」
俺は、少し目が熱くなった。
ぐっとこらえた。
さすがに九歳が親の前で泣くのは恥ずかしい。
「……ありがとうございます」
「ただし」
父さんが続けた。
「このことは、今は外で言うな。人が恐れるものは、必ず標的になる。学院に入るまでは、家の外では見せないように」
「わかりました」
「その子の世話は、自分でしろ。お前が作った命だ。責任を持て」
「はい」
父さんはそれだけ言って、部屋を出ていった。
俺は肩のヒビを見た。
責任。
生き物を飼うとか、魔法の使い役とか、そういう感覚じゃない。
こいつは、俺が生み出した命だ。
理由も仕組みもまだよくわからないけど、確かに生きている。
「ヒビ」
呼ぶと、くねっと動いた。
「俺が守るから。ちゃんと大きくなれよ」
ヒビはしばらくじっとしていた。
それから、そっと俺の首に頭を押しつけてきた。
温かかった。
俺はその温度を感じながら、静かに決めた。
この子を、ちゃんと育てる。
そしてこのスキルの正体を、いつか必ず知る。
それまでは、一歩ずつ、前に進むだけだ。




