第14話「ヒビ、誕生」
赤い虫を、魔力で作ってみようと思った。
最初は笑えるくらいひどかった。
頭と胴体の区別もない、ただの赤い塊。
足が生えているように見えなくもないけど、全部同じ方向に向いてる。
虫というより、何かのシミだ。
「……これじゃないな」
作り直す。
足を六本、ちゃんとつける。
胴体を細長くする。
頭を少しだけ丸くする。
少しずつ、本物の虫の形に近づけていく。
何度も崩して、作り直して。
一時間後、それっぽい形にはなった。
でも当然、動かない。
ただの、魔力で作った虫の像だ。
「……動かしてみるか」
足を一本ずつ、動かすイメージをする。
前の足、真ん中の足、後ろの足。
交互に、リズムよく。
魔力で形を保ちながら、さらに動きのイメージを重ねる。
これは難しかった。
形を維持しながら動かすのは、球を浮かせながら別の球を作るより、ずっと複雑だ。
額に汗が滲んできた。
それでも、諦めなかった。
形と動き。
形と動き。
イメージを重ねて、重ねて。
そのとき。
また、あの感覚が来た。
体の奥が、ぐっとなる感じ。
でも今度は、それで終わらなかった。
じわり、と。
俺の手のひらの上で、魔力が熱を持った。
赤くなった。
毛虫みたいな何かの形になった。
そして。
動いた。
「……え」
足が、ゆっくりと動いている。
俺が動かしているんじゃない。
自分で、動いている。
小さな体が、きゅっと丸まって、それからゆっくりと伸びた。
ころん、と手のひらに転がった。
「……え、え?」
頭が追いつかない。
それは、小さな赤い毛虫だった。
長さは、俺の小指くらい。
全身が、うっすら赤く光っている。
触ったら温かかった。
すごく、温かかった。
「お前……生きてるのか?」
毛虫はゆっくりと、頭をこちらに向けた。
目が合った、と思った。
目があるのかどうかもよくわからないけど、でも確かに、こちらを見た気がした。
「……」
俺はしばらく、何も言えなかった。
これは、俺が作ったのか。
魔力で、生き物を、作ったのか。
スキルが、やったのか。
何も、わからない。
でも確かに、この小さな命は、今、俺の手のひらの上にいる。
「……名前、付けなきゃな」
気づいたら、そんなことを思っていた。
赤くて、温かくて、生まれたばかりで。
「ヒビ、でいいか」
毛虫は、くねっと体を動かした。
怒ってるのか、喜んでるのか、全然わからない。
でも俺は勝手に、喜んでると解釈した。
「よし。ヒビ、よろしくな」
秋の庭に、静かな風が吹いた。
俺の手のひらの上で、ヒビは小さな足をゆっくりと動かしていた。




