第11話「魔力を外へ」
流れを掴んでから、二ヶ月が経った。
体の中で魔力を循環させることは、もうほとんど無意識でできる。
朝起きてすぐでも、走りながらでも、父さんの稽古中でも。
体の中で動かすのは、慣れた。
次の壁は、「外」だった。
魔力を体の外に出す。
言葉にすると単純だ。
でも実際にやってみると、これがまるでうまくいかない。
手のひらに魔力を集めて、皮膚の外側に押し出そうとする。
途端に、ふわっと散ってしまう。
霧みたいに消える。
形にならない。
「……くそ」
思わずつぶやいてしまった。
八歳にもなって悪口はいけないと思いながら、それでも出てしまう。
それだけ、うまくいかないということだ。
母さんに相談したのは、そんな夜だった。
「外に出すと、すぐ散っちゃうんです」
夕食のあと、お茶を飲みながら母さんは少し考えた。
「私が最初に魔法を覚えたとき、師匠にこう言われたのよ。魔力は、意志の形をとる、って」
「意志の形?」
「どんな形で出したいか、具体的にイメージしなさい、って。霧じゃなくて、水滴。水滴じゃなくて、一本の糸。そこまで細かく思い描けると、散らなくなるわよ」
「属性魔法と同じですか」
「根っこは同じだと思う。私は水を出すとき、川の流れをイメージしてる。あなたは属性がないから、形だけ考えればいい。逆に、やりやすいかもしれないわよ」
なるほど、と思った。
次の日から、俺は「糸」を意識した。
手のひらから、一本の細い糸を引き出すように。
引き出す、というより、絞り出す感じ。
最初はやっぱり散った。
でも、三日目に少しだけ手ごたえが出てきた。
ほんの一センチくらい。
手のひらの外に、うっすら何かが出た気がした。
見た目には何も見えない。
でも、俺の感覚には確かにあった。
「……あった」
その日から、毎日そこだけをひたすら練習した。
一センチが、二センチになる。
二センチが、五センチになる。
形は、まだ霧っぽい。
でも、散り方が遅くなってきた。
一ヶ月後。
俺は手のひらから、ぼんやりとした光の塊を十秒間、浮かせることができた。
形はひどい。
大きさもバラバラ。
でも、外に出た。
「出た……!」
誰もいない庭で、一人で叫んだ。
恥ずかしいことを言うと、目が少し潤んだ。
二ヶ月かかった。
でも、出た。
その夜、父さんに見せた。
父さんはじっと見て、それからぽつりと言った。
「形が汚い」
「……わかってます」
「だが、外に出せたのは早い方だ」
父さんには珍しい言葉だった。
俺は少し驚いて、父さんの顔を見た。
父さんはもう、いつもの無表情に戻っていた。
「明日から、形の練習だ。まず球を作れ」
「はい」
俺は笑いをこらえながら、返事をした。
外に出すだけで、二ヶ月。
形を作るには、どれくらいかかるだろう。
でも不思議と、焦りはなかった。
一個ずつ、乗り越えていけばいい。
それだけだと、わかっていたから。




