第10話「流れを掴む」
八歳になって、俺は一つのことに気づいた。
魔力って、押すものじゃない。
それまでの俺は、どこかで「力で動かすもの」だと思っていた。
意識を向けて、ぐっと押し出す感じ。
でも、それが間違いだったんだと思う。
きっかけは、ある朝のことだった。
いつも通り庭で練習していたら、急に眠くなってきた。
夜更かしをしたせいだ。
目を閉じたまま、ぼんやりと魔力に意識を向けていた。
集中しようとするのをやめて、ただ感じていた。
そのとき、初めてわかった。
魔力は、もともと流れている。
心臓が血を送り出すように。
肺が空気を出し入れするように。
俺の体の中で、魔力はすでに循環していた。
それを「押す」んじゃなくて、ただ「乗る」だけでよかったんだ。
「……あ」
思わず声が出た。
手のひらから指先まで、すうっと流れていく感覚。
腕全体が、じんわりと温かくなる。
止まらないようにしながら、そっと肘まで広げる。
肩まで。
胸まで。
背中を通って、足先まで。
体全体に魔力が行き渡った瞬間、俺はしばらく動けなかった。
たった一周。
それだけのことが、なんでこんなに感動するんだろう。
「……やっと、か」
気づいたら、二時間経っていた。
朝食の時間をとっくに過ぎていた。
母さんに呼ばれるまで、俺はそのまま庭に座り続けていた。
「ジン、ご飯! って……どうしたの、顔が変よ」
「なんか、わかった気がします」
母さんは首を傾けた。
「魔力が、流れてるって」
しばらく俺の手を見ていた母さんは、それからゆっくりと微笑んだ。
「……そう。よかった」
それだけだった。
でも、その「よかった」が、何より嬉しかった。
夕方、父さんに報告した。
「体中に通せるようになりました」
父さんは無表情のまま、俺の魔力を確かめるように少し目を細めた。
「……本当だな」
「はい」
「次は、密度を上げる。薄く広げるより、一点に厚く集める方が難しい。わかるか」
「やってみます」
「言葉でいい。できるとは言うな」
俺は少し笑った。
「やってみます」
父さんは小さく頷いて、また木剣を構えた。
稽古は続く。
流れを掴んだのは、ゴールじゃない。
ここからがやっと、本当のスタートだ。
俺はそれを、ちゃんとわかっていた。




