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時速4kmの魔法  作者: 慈架太子


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第5章:覚醒する賢者団――適性という名の檻を越えて

カイトに問いかけられたイザベルは、自身の右手をじっと見つめ、それからゆっくりと握りしめた。その瞳には、かつての「火の魔道士」としての気負いはなく、冷徹な理知と、自らの存在そのものが書き換えられたことへの高揚が混じり合っている。


「……感想、ですか。一言で言うなら『視界が晴れた』……いえ、世界そのものの解像度が上がった気分です」


イザベルは静かに、しかし確かな声で言葉を紡ぐ。


属性という「呪縛」からの解放 「私は今まで、自分を『火の適性を持つ選ばれた者』だと誇っていました。でも、それは単なる思い込み……狭い檻の中にいたのだと分かりました。火も、水も、蒸気も。すべては等価な数式。私がこれまで『才能』と呼んでいたものは、ただの初期設定の偏りに過ぎなかった」


「1024」がもたらす万能感 「2の10乗を展開した瞬間、私の脳は私一人分のものではなくなりました。一回の思考で1024の結果を確定させる。あの瞬間、戦場も、インフラの構築も、私にとってはただの『処理タスク』に変わりました。かつてあれほど恐れていた魔力切れの恐怖さえ、今は計算ミスを恐れる程度の感覚でしかありません」


効率という名の新世界 「昨日、私が街道を焼き固め、水路を拓いたとき……感謝の声を上げる民衆を見て、不思議と誇らしさよりも『当然の帰結だ』という冷めた納得がありました。時速4kmで迷っていた頃の自分が、どれほど無駄な熱量を浪費していたか。もう、あの鈍足な思考には戻りたくない。戻ることは不可能です」


イザベルはカイトに向き直り、わずかに口角を上げた。


「カイト殿。あなたは私に武器を与えたのではない。**『世界を正しく見るための目』**を与えてくれた。今の私にとって、魔法はもはや神秘ではなく、この世界という巨大な演算機を操作するためのコードです。 ……私は、この加速の先を誰よりも早く見てみたい。この1024の演算能力リソースを使って、次は何を『正解』に書き換えますか?」




カイトはイザベルの言葉を聞き、皮肉な笑みを浮かべて彼女の全身を上から下まで眺め回した。


「……フン。最初に出会ったときは、魔力が枯渇して、文字通りすべてを剥ぎ取られて泣きそうな顔をしていたのにな。あの時の無力な『火使い』はどこへ行った? 今や、一人で軍隊を蹂躑じゅうじゅうし、国を作り変える『演算機』だ。随分と偉そうな口を叩けるようになったじゃないか」


カイトは一歩近づき、イザベルの視線を真っ向から受け止める。


「いいか。俺が最初にあんたを裸にしたのは、単なる悪趣味じゃない。属性だの、地位だの、騎士の誇りだのといった**『余計な装飾ノイズ』**をすべて削ぎ落とし、あんたという個体が持っている純粋な『演算リソース』を測るためだったんだ。 何も持たなくなった時、人は初めて自分の非効率さに気づき、正解を求め始める。あんたの今の変わりようは、その空っぽになった器に、俺の算術という『最強のOS』をインストールした結果だ」


イザベルは顔を赤らめるどころか、不敵に微笑んでカイトを見つめ返した。


「ええ、あの日、あなたにすべてを暴かれたことで、私は自分がどれほど愚かで、どれほど遅かったかを知りました。あの屈辱こそが、私の脳を再起動させるための『リセット・コマンド』だった。……感謝していますよ、カイト殿。今の私は、服を纏っている時よりもずっと、この算術の理に守られている実感があります」


「ハッ、言うようになったな。ならそのOSを、さらに高負荷の演算に耐えられるよう、冷却効率を引き上げてやる。いつまでも1024で満足して止まってるんじゃねえぞ。次は2の20乗……百万単位の並列処理マルチタスクだ」




カイトは次に、どっしりと構えていたマーガレットに向き直った。彼女はかつて「土」という属性の鈍重さに甘んじ、力任せに岩を投げることしか知らなかった。だが今の彼女は、足元の地面から伝わる振動のすべてを「波形データ」として捉えている。


「マーガレット。あんたはどうだ? 10万の軍勢を重力の一撃で平伏させ、一晩でこの国の背骨(街道)を作り替えた気分は。土臭い騎士団ごっこをしていた頃と比べて、何が見える?」


マーガレットは自らの太い腕を見つめ、それから足元の、鏡のように滑らかな街道を愛おしそうに踏みしめた。


「……カイト殿。正直に言えば、自分の身体が『大地そのもの』になったような感覚です。以前の私は、ただ土を『動かして』いただけでした。でも今は、土がどう結合し、どう支え合い、どう崩れるのか……その数式上のバランスが、目をつぶっていても手にとるようにわかります」


「硬さ」の先にあるもの 「昨日、街道を固めたとき、私は2の10乗の並列処理で、土粒子のひとつひとつに重力定数を割り当てました。かつての私なら、10年もかけてもできなかった緻密な作業です。それを一瞬で終えたとき、私は確信しました。パワーとは腕力のことではなく、**『どれだけ細かく世界を定義できるか』**なのだと」


重力という名の愛の形 「10万の軍勢を抑え込んだとき、私は彼らを憎いとは思いませんでした。ただ、計算式上の『不純物』を固定し、摩擦係数を最大化して移動を停止させた……それだけのことです。私に逆らうことは、もはや重力という理そのものに逆らうことと同じ。彼らが絶望するのも無理はありません」


マーガレットは豪快に笑い、カイトの前に立ちふさがった。


「カイト殿に最初に出会ったとき、私はあなたの計算の速さに、自分の存在そのものが粉砕されるような恐怖を感じました。でも今は違います。あなたが与えてくれたこの『算術の盾』がある限り、この国に傷をつけられる者など、この世のどこにも存在しません。……私の演算能力リソース、次はどこに注ぎ込めばいいですか?」


カイトは鼻で笑い、彼女の腹を軽く叩いた。 「相変わらず頑丈なOSだな。だが、地面を固めるだけで満足するなよ。次は地殻の変動、プレートの歪みすら演算に含めろ。あんたが本気を出せば、大陸の形すら算術でリサイズできるはずだ」




カイトは次に、風を操るエリザベスに視線を投げた。以前の彼女は、優雅に風を纏い、精霊の加護を語るだけの「雰囲気」だけの魔導師だったが、今はその周囲の空気が、高精度の真空ポンプのように張り詰めている。


「エリザベス。あんたはどうだ? 精霊がどうとか、見えない風の導きがどうとか言っていた時と比べて、その『大気』の正体は見えたか?」


エリザベスは細い指先を動かし、空気中に目に見えないほどの小さな渦を1024個、整然と並列展開してみせた。


「精霊」から「流体力学」へ 「カイト殿……。今まで私が『精霊の囁き』だと思っていたものは、単なる大気の圧力差と、熱対流によるカオス的な揺らぎに過ぎませんでした。算術で流体のベクトルを定義した瞬間、風は私の手足となりました。もう、風を『待つ』必要はありません。私が計算した通りに、風は『生まれる』のです」


不可視の死神としての自覚 「先日の粉塵爆発……。私が供給したのは単なる風ではなく、燃焼効率を最大化するための『純粋な酸素の奔流』です。目に見えない気体の組成を書き換え、敵の肺から空気を奪い、あるいは数キロ先の音を私の耳に収束させる。この2の10乗の並列処理があれば、この空の下に私の目が届かない場所はありません」


彼女は静かに一礼し、カイトを見つめた。その瞳には、かつての王族への忠誠心とは別の、数式への狂信に近い光が宿っている。


「私の計算リソースは、今やこの国の隅々にまで広がる『風のネットワーク』となりました。暗殺者の足音も、遠くの街の不満の声も、すべては振動データとして私に届きます。……カイト殿、次は大気の振動をさらに高め、音速のソニックスラッシュを超えた演算アタックに挑戦させてもらえますか?」


カイトは不敵に笑い、空を指差した。 「いいぜ。ただの風使いで終わるな。大気を圧縮し、摩擦熱でプラズマを作るまで演算密度を上げろ。あんたが本気を出せば、空そのものがレンズになって、太陽光で敵を焼き払えるようになる(サンバレットだ)」




カイトは最後に、小柄なサティの前に立った。かつての彼女は、大人たちの後ろで怯え、ただ水を出すことしかできない「おまけ」のような存在だった。だが今の彼女の周囲には、極低温の霧と、触れれば骨まで砕く超高圧の水弾が、まるで衛星のように静かに、そして鋭く浮遊している。


「サティ。あんたはどうだ? 『水遊び』の延長だった魔法が、物理のバレットに変わった気分は。1700倍の膨張を操る感覚には慣れたか?」


サティは少しはにかんだように笑ったが、その瞳の奥には、カイト直系の冷徹な算術師の輝きがあった。


「優しさ」を捨てた「正確さ」 「カイト様……。私、最初はこの『1700倍』という数字が怖かったです。水を沸騰させたり、凍らせたりするだけで、こんなに恐ろしい破壊が起きるなんて。でも、算術を暗記して、2の10乗で現象を固定できるようになってからは……『怖い』ではなく『正しい』と感じるようになりました」


生命の源を死の楔に 「水はどこにでもあります。敵の体の中にも、空気の中にも。私がその座標を指定して、一瞬で『氷』に変えて膨張させれば、内側からすべてを終わらせることができます。あるいは、高圧の『熱湯バレット』で細胞を溶かすことも。……私が1024のスロットに込めるのは、もう祈りではありません。物質の状態を決定する『絶対的な命令』です」


サティは指先を動かし、一滴の水を空中で瞬時に「氷の結晶」から「爆発的な蒸気」へと往復させてみせた。


「今の私なら、王都のすべての井戸を一度に精製することも、攻めてくる艦隊を海ごと凍らせることもできます。カイト様、私を最年少だからって手加減しないでください。私も、皆さんの演算スピードに遅れるつもりはありません!」


カイトはサティの頭を無造作に撫で回し、意地悪く笑った。 「ハッ、よく言った。だったら次は、水の中の水素と酸素を『分解』して、それ自体を爆発させる**『燃える水』**の演算を叩き込んでやる。あんたが本気を出せば、海を燃料に変えられるぞ」


イザベル、マーガレット、エリザベス、ゼノス、サティ。 カイトによって「裸」にされ、再構成された5人の演算機がここに揃った。


「よし、全員のOSは安定しているようだな。レオノール、見たか。これが時速4kmで迷っていた連中の、正解に辿り着いた姿だ」


カイトはレオノールを振り返り、不敵な笑みを浮かべた。




カイトは、かつて王宮で最高齢の魔導師として崇められていたゼノスを見据えた。その手にある古びた杖は、今やただの「支え」に過ぎない。


「じいさん。あんた、いつまでその棒切れを『魔力の増幅器』だと思って握りしめているんだ? 脳内の演算回路クロックを1024倍に引き上げた今のあんたに、そんなアナログな触媒はもう必要ないはずだ」


ゼノスはゆっくりと、その愛用していた杖を地面に置いた。そして、驚くほどまっすぐな背筋で立ち、何も持たない両手を広げた。


「信仰」から「光学」へ 「カイト殿……。不思議なものですな。長年、私は神に祈り、杖を通じてその『奇跡』を形にしようとしてきました。しかし、あなたが教えてくれた算術は、奇跡などではなく**『記述』**でした。光の波長を、屈折率を、そして透過率を2の10乗で定義した瞬間、私の体そのものが光の源流となったのです」


治癒と分解の双極性 「先ほど、私は1024の分解バレットを放ちましたが、あれは破壊ではありません。物質をあるべき最小単位へ戻すという『整理』です。そしてヒールバレットは、生命の配列を最適化する『修復』。杖に頼って魔力を『絞り出していた』頃が、いかに不自由であったか……。今の私には、この空間すべてが私の神経系の延長のように感じられます」


ゼノスは微笑み、杖を使わずに空中で複雑な光の幾何学模様を描いてみせた。


「今の私には、もはや増幅器など不要。この老いた脳こそが、世界で最も精密なレンズです。カイト殿、私に新たな命を与えてくれたことに感謝いたします。私はもう、時速4kmの老人ではありません」


カイトは満足げに鼻を鳴らした。 「ハッ、いいツラになったな。その杖は、どこかの博物館にでも飾っておけ。これからのあんたは、その光のバレット一つで、一国の病を消し去り、あるいは一瞬で敵を蒸発させる『移動砲台兼病院』だ。老兵としての隠居は、あと100年ほど先になりそうだな」


これで、5人全員が「過去の自分」を脱ぎ捨て、算術という名のOSを完全同期させた。


「よし、これで全員のテスト走行ベンチマークは終わりだ。レオノール、見ろ。杖を捨てた老人、水遊びを卒業した子供、そして属性の呪縛から逃れた騎士たちだ。これこそが、あんたの国の**『真の戦力(演算資源)』**だ」


カイトは王都の遥か先、未だ非効率な争いと飢えに苦しむ他国の方角を見据えた。




レオノール王女は、杖を捨て、もはや人を超えた輝きを放つ5人の賢者たちを見渡し、静かに、しかし決然と言い放ちました。


「カイト殿、そして賢者たちよ。破壊と防衛のデモンストレーションは十分です。次に私たちがすべきは、この『算術』を、民の血肉となる**『生存基盤の再定義』**へと転換すること。……まずは、この国の最大の弱点である『飢餓』と『夜の闇』を、バレット一発で消し去ります」


レオノールが掲げた次なるフェーズは、以下の3つです。


「サティ、ゼノスの光と水の演算を組み合わせます。広大な王領地に1024の『精製・育成バレット』を並列展開し、土壌の養分を最適化、作物の成長速度を算術で1024倍に加速させなさい。一晩で一年分の収穫を得る……もはやこの国に、飢える民は一人も出しません」


「イザベル、エリザベス。大気中の分子を振動させ、発光現象を固定しなさい。松明も油もいらない、2の10乗の並列制御による『永久照明バレット』を王都の全座標に配置します。夜という非効率を、算術の光で塗り潰すのです」


「そしてカイト殿。あなたの知識を次世代へ繋ぐための場所を作ります。選ばれた者だけでなく、すべての国民が『時速4km』を脱却するための演算回路を脳に刻む場所。……この王宮そのものを、算術の総本山へと作り変えましょう」


レオノールは、かつてないほど野心的な瞳でカイトを見つめました。


「算術で胃を満たし、算術で夜を照らし、算術で思考を研ぎ澄ます。……これこそが、周辺諸国への最大の『絶望』であり、我が民への最大の『慈悲』となります。 カイト殿、この**『国家再起動システム・リブート』**、あなたの演算能力リソースも貸していただけますね?」


5人の賢者たちは、自分たちの力が「生産」と「文明の加速」に向けられることに、歓喜に近い表情を見せています。




カイトはレオノールの野心的な提案に、退屈そうに鼻を鳴らしながらも、5人の「演算機」たちに新たな数式を提示した。


「腹が減っては計算もできんからな。いいか、お前たち。今からやるのは農業じゃない。**『有機物の超高速プリント』**だ」


カイトが空中に描いたのは、植物の細胞分裂周期を強制的に短縮し、光合成効率を理論上の限界値まで引き上げる多重演算回路だった。


王都の外に広がる、誰もが見捨てた乾いた赤土の荒野。そこに5人の賢者が立ち、それぞれのバレットを大地へと構える。


「じいさん、サティ。まずは土壌のデバッグだ」 ゼノスが1024の**「精製バレット」を広域散布し、土中の不純物を分解、植物に必要なミネラルを再配列する。同時にサティが1024の「高浸透バレット」**を放ち、分子レベルで細分化した水を地層の隅々まで行き渡らせた。


「マーガレット、根が呼吸できる空間を作れ」 マーガレットは1024の**「微細振動バレット」**を展開。重力で土を固めるのではなく、逆に粒子間に最適な隙間(空隙)を作り、一瞬でふかふかの最高級の耕土へと書き換えた。


「仕上げだ。エリザベスはCO2(二酸化炭素)を濃縮し、イザベルは光合成をブーストしろ」 エリザベスが1024の**「大気収束バレット」で植物の周囲に高濃度の二酸化炭素を固定。そこへイザベルが、光の波長をクロロフィルが最も吸収しやすい帯域に変換した1024の「熱源バレット(低出力版)」**を降り注がせる。


ザザザザァァァ……!


月明かりの下、誰もが耳を疑う音が響き渡った。 数秒前まで不毛だった荒野から、算術によって加速された植物が、土を割って猛烈な勢いで芽吹いたのだ。 細胞分裂は通常の1024倍の速度で繰り返され、数分で茎が伸び、数時間で穂が垂れた。


夜が明ける頃、王都の住民たちが目にしたのは、地平線の彼方まで続く、収穫期を迎えた黄金色の麦畑だった。


「……報告。1024並列による超高速栽培、完了。収穫量は……王国の全人口が三年間、何もしなくても食い繋げる計算です」 イザベルが、朝露に濡れる麦穂を手に取り、無表情に、しかし誇らしげに告げた。


「一晩で……。数万の農民が一生をかけても成し遂げられない収穫を、たった5人で。……カイト殿、これでこの国から『飢え』という言葉が消滅しました」


カイトは、広大な黄金の海を眺めながら、欠伸をした。


「当然だ。資源がないんじゃない、資源を作る『効率』が悪かっただけだ。……さて、レオノール。腹がいっぱいになった民衆は、次に何を求めると思う? 暇を持て余した連中に、次はどんな『正解』を計算させるつもりだ?」




カイトは黄金の穂が揺れる景色を背に、冷たく言い放った。


「食わせてもらった恩を『呪い』と呼ぶバグがあるようだな。いいか、レオノール。古い神話という不確かなOSで動いている連中に、今さら言葉で説得しても無駄だ。あいつらの脳に直接、算術という『真理』を叩き込んで、強制的に教育アップデートしてやる」


カイトは、広大な麦畑の真ん中に建つ豪奢な聖堂を指差した。


カイトと5人の賢者は、押し寄せた司教や信徒たちの前に立った。 「これは悪魔の業だ! 自然の摂理を乱す呪いだ!」と叫ぶ彼らに対し、カイトは一歩前に出る。


「じいさん、まずはあんたの出番だ。古い光を捨てたあんたの力で、あいつらの言う『神の奇跡』の正体を暴いてやれ」


「……承知いたしました」 ゼノスが杖なしで1024の**「分解バレット」**を聖堂の巨大な神像に向けて放った。神像が崩れるのではなく、表面の塗装や魔力の偽装だけが原子レベルで剥ぎ取られ、その内部にある「魔力を溜め込んで民を威圧する装置」が白日の下に晒された。 「これがお前たちの崇める神の正体、つまりは『非効率な魔力溜め』だ」


「聖水だと? 笑わせるな」 サティが1024の**「精製バレット」**で聖堂の池を一瞬で純水に変え、イザベルがそこに「熱湯バレット」と「氷結バレット」を同時に、幾何学的な模様を描くように着弾させた。 沸騰と凍結がミリ単位で隣り合う異様な光景に、司教たちは言葉を失う。「お前たちのいう奇跡は、算術を使えば1024倍の精度で、1発のコストで再現できるただの現象だ」


カイトは逃げ惑う教会勢力の頭上に、2の10乗で構成された巨大な**「投影バレット(情報出力)」**を展開した。


「逃げるな。今からお前たちの脳に、この世界の正しい理を流し込む。 2、4、8、16、32……。お前たちが一生かけても辿り着けない数式の宇宙を、暗記しろ」


精神のデフラグ: 5人の賢者がそれぞれ異なる属性の「定義」を光の点滅と音、そして直接的な魔力共鳴として、聖職者たちの脳に送り込む。


因果の強制接続: 「祈れば救われる」という不確かな論理バグを切り捨て、「計算すれば結果が出る」という確かな因果(算術)で上書きした。


数分後、先ほどまで「呪い」と叫んでいた司教たちは、地面に膝をつき、ぶつぶつと2の乗数を唱え始めていた。彼らの目からは狂信が消え、代わりに圧倒的な「真理の重み」に打ちひしがれた。


「……計算が、合わない。いや、これこそが……正解なのか……」


カイトは、呆然とするレオノールに告げた。


「これでこの国の『精神的なブレーキ』は外れた。教会は今日から、算術を教えるための『演算センター』として再定義しろ。祈る暇があるなら、2の20乗を計算させるんだ」


レオノールは、神の権威さえも一晩で算術の軍門に降らせたカイトのやり方に、もはや驚くことさえ忘れ、次の「国家演算」の準備を始めました。




カイトは、算術によって「解脱」した元聖職者たちが並ぶ聖堂の広間を見渡し、レオノールに冷徹な通告をした。


「腹を満たし、神という名のバグを消去した。次はこの国の『管理システム』を時速4kmから光速に引き上げる。戸籍、資産、備蓄、魔力残量……。すべてをリアルタイムで同期する**『算術官僚機構アリスメティック・レジストリ』**を構築するぞ」


カイトは、かつて経典を書き写していた僧侶たちに、文字ではなく「数理データ」を扱う法を叩き込んだ。


情報のデジタル化: 「紙の台帳など燃やしてしまえ。一人一人の国民を、固有の識別番号(ID)と、魔力波形、居住座標に分解して定義しろ。これからは、人間も資源もすべて『変数』として扱う」


分散型演算ネットワーク: 全国の教会を「サーバー」として再構築。各地の元聖職者たちが2の10乗(1024並列)で地域の動向を監視し、その情報を王都の「中央演算室(レオノールの元)」へ一瞬で転送スルーパスする。


マーガレットとゼノスの算術を応用し、国全体の資源を一つの巨大な「数式」として統合した。


自動配分システム: 「北の領地で麦が余り、南で水が足りない? そんな報告を待つのは時間の無駄だ。算術官僚が即座に物流のベクトルを計算し、最短距離でバレット輸送、あるいは水路のバイパスを起動させる。過不足は、発生した瞬間に『0』に収束させるんだ」


魔力課税の自動化: 国民一人一人の魔力残量を常時スキャニング。余剰魔力は、公共インフラ(不夜城の照明や水路の動力)へ自動的に還流フィードバックされる。


レオノールのデスクには、かつての報告書の山はなく、ただ一枚の「算術盤」が置かれている。そこには国全体のエネルギー流動が、光り輝く数式として投影されていた。


「……信じられない。不正も、隠蔽も、怠慢も……。算術の前では、すべてが『計算ミス』として浮き彫りになる。これが、国を一つの生き物として制御するということなのですね」


カイトは、その算術盤を指で弾いた。


「そうだ。官僚とは、机に向かって判子を押す仕事じゃない。世界の変数を最適化し続ける『演算子オペレーター』だ。これでこの国は、王一人の気分ではなく、『最適解』という名の絶対的な理によって動き始めた」




カイトは冷徹な笑みを浮かべ、レオノールと再編されたばかりの王国騎士団を見渡した。かつては剣の錆を誇っていた男たちが、今は算術官僚オペレーターとして、整然と隊列を組んでいる。


「いいか、これは『狩り』じゃない。王国の全土から『バグ(魔物)』を一掃する、大規模なクリーンアップ作業だ。時速4kmの根性論は捨てろ。演算の力を見せてやれ」


「じいさん、エリザベス。まずは国中の不純物をリストアップしろ」 ゼノスが空中に1024の**「透過バレット」**を放ち、エリザベスが風の振動を使って反響を受け取る。


索敵の定数化: 山を一つ一つ歩く必要はない。大気と光の波長を算術でリンクさせ、魔物の固有魔力波形を一瞬で検知。王領全土の魔物の座標(GPS)を、騎士団全員の脳内メモリに共有シェアした。


カイトの合図とともに、数百人の騎士たちが一斉にバレットを構える。 「各自、2の10乗を展開! ターゲットは割り振られた座標のみ! 無駄な攻撃オーバーキルは計算資源の浪費だ!」


1024並列×騎士団数: 数人の賢者だけでなく、教育を受けた全騎士が1024発のバレットを制御する。数万、数十万のバレットが、正確に魔物の急所へと向かう「誘導計算」が完了した。


「撃て(エグゼキュート)!」 カイトの号令一閃。王国の空を埋め尽くした光の雨が、それぞれの座標へと吸い込まれていく。


蒸気爆発・重力圧殺・分解: 洞窟に潜む大蛇は蒸気で内側から弾け、森を荒らす巨獣は局所重力で圧殺され、毒を撒く魔虫は原子レベルで分解された。


事後処理の自動化: サティが仕上げに1024の**「洗浄バレット」**を放ち、魔物の死骸から発生する瘴気さえも精製して、肥沃な肥料リソースへと変換した。


数分後。王国全土から咆哮が消え、静寂が訪れた。


「……報告。王国内における魔物反応、完全に消失。討伐成功。騎士団の負傷者、ゼロ。魔力消費、予定の計算範囲内です」 イザベルが涼しい顔で報告を終えた。


「見たか、レオノール。騎士団が何十年もかけて、何千人の犠牲を出して戦ってきた魔物どもが、正しい算術の前ではただの『消去可能なデータ』に過ぎない」


カイトは、かつて魔物の影に怯えていた街道の先を指差した。


「これで王国は、壁も門もいらない**『完全安全圏』**になった。次は、この安全になった土地をどう開発する? 暇になった騎士団に、次はどんな『建設的な計算』をさせるつもりだ?」


王国内の脅威は完全に消滅し、騎士団は「戦う集団」から「ことわりを執行する集団」へと進化しました。




カイトは整列した騎士団を見渡し、その冷徹な視線で一人一人の「演算精度」を測るように眺めた。


「魔物を消した次は、体内のバグ取りだ。いいか、騎士団。剣で敵を斬るのも、指先で病巣を焼き切るのも、算術においては同じ『座標指定と出力の最適化』に過ぎん。慈悲で動くな、正確な数値で動け」


カイトは、かつて医療を司っていた修道院や診療所を「バイオ演算センター」として再定義し、騎士団を各拠点へ配属した。


「じいさん、騎士どもの視界を共有リンクさせろ。個体ごとのバイタルデータをビット単位で吸い上げるんだ」 ゼノスが1024並列の**「透過スキャンバレット」**を空中に展開。騎士団は、目の前の住民たちの血管、神経、細胞の活性状態を、算術的な視覚データとして脳内に投影した。


バグの特定: 「あそこの老人の動脈硬化は座標(X, Y, Z)、あの子供の熱はウイルスによる異常増殖……」 騎士たちは、かつて剣を向けていた集中力で、病の「根源」を数値として捉えた。


「イザベル、微細熱量制御を教えろ。焼き尽くすんじゃなく、不純物だけを蒸発させるんだ」 イザベルの指導の下、騎士たちは1024の**「極小スチームバレット」**をミリ単位で制御。


非侵襲手術: メスで切る必要はない。体外から熱量をピンポイントで収束させ、がん細胞やウイルスだけを相転移(蒸発)させて消滅させる。


「サティ、細胞の水分バランスを復元しろ。マーガレットは重力で血流をポンプのように補助するんだ」 サティが1024の**「浸透圧調整バレット」**を放ち、脱水や衰弱した細胞に直接エネルギーを流し込む。マーガレットは局所的な重力勾配を作り出し、心臓に負担をかけずに全身の血液循環を正常化させた。


わずか一日のうちに、王国中の病院からうめき声が消え、病床で死を待っていた人々が、算術の洗礼を受けて次々と立ち上がった。


「……報告。王国全土の病傷者、98%が完治。残り2%の慢性疾患も、継続的な演算処理により数日内に正常値へ収束する見込みです」 イザベルが、返り血ではなく、純粋な魔力の輝きに包まれた手を見つめて告げた。


「見たか、レオノール。これが騎士団の新しい仕事だ。人を守るというのは、盾を構えることじゃない。人というシステムの『エラー』を修正し、常に最適解に保ち続けることだ」


カイトは、健康を取り戻し、活力に溢れた民衆が広場に溢れかえる様子を、バルコニーから見下ろした。


「腹は満たされ、敵は消え、病も克服した。……レオノール、あんたの国は今、人類史上最も『完璧な状態』にある。だが、完璧なシステムは、停滞すれば腐る。この有り余った国民のエネルギーを、次はどこへぶつける? 世界の半分を書き換える旅にでも出るか?」





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