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結婚式当日に捨てられた男爵令嬢は王子に甘く溺愛される  作者: 星名柚花


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3/20

03:元・婚約者たちがウザ絡みしてくる

 王都の中心にそびえる王宮は、さすがの壮麗さだった。

 庭園は美しく整えられ、大きな噴水が高く水を噴き上げている。

 会場に続く玄関ホールには、色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちとエスコート役の男性たちが並んでいた。


 今日の令嬢たちのエスコート役は親や兄弟が務めている。

 家族以外の異性は控えるよう書状に書いてあったのだ。

 お父様の話によると、今日のパーティーで、三名の婚約者候補が選ばれるらしい。


「……なあ、フィー。本当に、そのドレスで良かったのか?」

 エスコート役を務めてくれているお兄様が、渋い顔で私を見た。

 ピンク、水色、黄色、赤、オレンジ、青。

 令嬢たちは誰よりも美しく見られようと華やかな色のドレスを纏っているというのに、私が着ているドレスの色は緑。


 それも、くすんだ苔のような、なんとも微妙な色だ。

 化粧だって控えめにしてもらったから、人目を引くことはきっとない。


「いいのよ。万が一にも目立って、王子の目に留まったり、他のご令嬢たちから怖い目で睨まれたりしたくないもの。私は立派な壁の花になってみせるわ。そして、ビュッフェを楽しむの!」

 笑顔を作ってみせた、そのときだった。


 目の端に映った人物を見て、私の顔はみるみるうちに強張った。

 お兄様も気づいたらしく、まるで親の仇を見るような顔でそちらを睨んでいる。


 会場には爵位の低い者から順番に入っていく。

 だから、辺境伯家や侯爵家、公爵家といった身分の高い家の令嬢は、自分の順番が来るまで待機するための部屋が用意されている。


 列に並ぶ下級貴族わたしたちの傍を通り抜け、エスコート役のエイモン様の腕に手をかけ、悠然とした足取りで別室へ向かったのは、エイモン様の妹――マチルダ・クルーエル様だった。


 マチルダ様とエイモン様は、私を見て口の端をつり上げた。

 それは、どう見ても――嘲笑だった。




 巨大なクリスタルのシャンデリアの下で、美しい令嬢たちがお喋りしている。

 会場の壁沿いには豪奢なビュッフェ台。

 肉料理に魚料理。

 様々な具が挟まれたサンドイッチに、芸術品のようなお菓子。

 家を出る前はあの料理を全て制覇しようと勢い込んでいた。


 せっかく王宮に来たのだから、思い切り楽しもうと。


 ――でも、そんな気力は、すっかり失くなってしまった。


 あの後、エイモン様は私に声をかけてきた。

 お兄様が離れたタイミングを見計らって、私に近づいてきたのだ。


 ――久しいな、フィオレット。そのドレスはお前が選んだのか? 地味なお前にはお似合いだ。お前のおかげでさぞ周囲は映えるだろう。


 値踏みするように、私を頭のてっぺんから足のつま先まで見て、エイモン様は下卑た笑みを浮かべた。


 ――ええ、本当に。フィオレット嬢は素晴らしい引き立て役になるでしょう。分を弁えるのは立派なことです。その調子で是非、頑張ってくださいませ。


 エイモン様の隣で、マチルダ様も笑っていた。


 ――エイモン様たちは、何のつもりなのだろう。

 手紙では『一切の連絡を控えてほしい』なんて言っていたのに、どうして声をかけてきたのかしら。


 会場の中央では、一人の美青年が大勢の令嬢たちに取り巻かれている。

 穏やかに微笑み、令嬢たちのお相手を務めているのは、本日の主役である第二王子ユーリス様だ。

 太陽の光を集めて紡いだような金糸の髪。煌めく瞳はアメジスト。

 すっと通った鼻筋に、薔薇色の唇。

 噂に違わず、ユーリス王子は神の化身と言われても納得の美しさだった。


 隅にある椅子に座った私に目を向ける者はいない。

 誰よりも地味なドレスを着て、暗い顔で俯いている令嬢をライバルとみなす者など、いるはずがなかった。


 不意に、目の前を通り過ぎた令嬢から、柑橘系の香りがした。

 令嬢たちが色んな香水をつけているせいで、会場には複雑な匂いが立ち込めている。


 甘い香り、爽やかな香り、濃密な香り……複数の香りが混じり合って、空気そのものが重たく感じるほどだ。


 ――早く、帰りたいな……。

 私は手にした葡萄酒を一気に呷り、会場の外に出た。


 あまり遠く離れてはいけないが、明かりの届く範囲内にいれば大丈夫だろう。

 そう思って、噴水池の縁に腰掛け、ぼんやりと風に当たった。

 会場からは楽しそうな輪舞曲ロンド舞踏曲タンゴが流れてくる。

 眩い光の下で、ユーリス王子も令嬢たちと踊っているのだろうか。


「…………」

 どうでもいい。興味などない。

 もう二度と会いたくなかった昔の婚約者と出会ってしまったいま、パーティーを楽しめるほどの精神的な余裕なんて、あるわけがなかった。


「こんな暗いところで、何をなさっているの?」

 項垂れていた私に、声がかかった。


 ――この声は。

 びくりと肩を震わせて振り返れば、マチルダ様が立っていた。


 エイモン様と同じ赤毛に緑の目。妹だからか、顔立ちもよく似ている。

 マチルダ様が着ているのはピンク色のドレスだ。

 耳元と首元は瞳と同じ色の緑柱石で飾り、赤毛は編み込んで後ろに流している。

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