21:当て馬王子は幸せを祈る
「キアラ嬢。告白に対する返事をいただけませんか?」
私はキアラ嬢の手を取り、彼女の揺れる瞳をひたと見つめました。
「……。……もちろん、喜んで……受け入れます、わ……」
夜でもわかるほど顔面蒼白で、ほとんど半泣きになって震えているというのに、受け入れてしまうんですか。これは、ロクサーヌ嬢が手を焼くわけです。
仕方ありません。
では、これでトドメといきましょう。
「ありがとうございます。それでは、キスをねだっても?」
「えっ――」
嫌だとハッキリ顔に書いてありますが、問答無用です。
私がキアラ嬢の肩を掴んで引き寄せた――次の瞬間でした。
「――お待ちください!!」
悲鳴のような男性の声が夜の帳を切り裂きました。
振り返るまでもなく、声でわかります。
レムナス伯爵家の次男、カイト殿です。
ようやくのご登場ですね。
ああ、長かった……ホッとしましたよ、本当に。
「殿下、どうか無礼をお許しください!! キアラ!! 私は……いや、ぼくは!! 出会ったときから、君のことが好きだったんだ!!」
黒髪緑目の気弱な騎士は、必死の形相で愛を叫びました。
「……っ!!」
キアラ様は目に溢れんばかりの涙を浮かべ、私の腕を振り払ってカイト殿に駆け寄りました。
「馬鹿っ!! 遅いのよ、もうっ!!」
キアラ嬢は駆け寄った勢いそのまま、カイト殿の胸へ飛び込みました。
カイト殿は衝撃に一歩足を引きましたが、それでもキアラ嬢を抱きしめ返します。
「待たせてごめん……」
自分の胸で泣きじゃくるキアラ嬢を見て、カイト殿はしょんぼりしています。
「もうっ、ほんと、馬鹿なんだから。いつまで待ったと思ってるのよ。もう少しで本当に王子妃になるところだったじゃない……」
キアラ嬢は肩を震わせながら語りました。
家を出る前に、父親であるベルムーン侯爵と賭けをしたこと。
キアラ嬢はカイト殿が勇気を出して告白をしてきたなら結婚を許すという約束を取りつけていたそうです。
侯爵はキアラ嬢が私と婚約することを望んでいましたが、一方では幼い頃からキアラ嬢に仕えていたカイト殿を認めていたようです。
侯爵の許可が出ているのならば、何の問題もありませんね。良かったです。
もはや二人の目に私は映っていないらしく、二人は固く抱き合いながら愛の言葉を囁き合っています。
見守る私の胸も晴れやかでした。
二人が幸せになれたのなら、頑張った甲斐があったというもの。
ええ、私は喜んで当て馬になりますとも。
「あっ。しまった、殿下……!!」
しばらくして私の存在を思い出したらしく、キアラ嬢は急にカイト殿を突き飛ばし、慌てた様子でその場に跪きました。
カイト殿は驚いた顔をしたものの、キアラ嬢の隣で跪きました。
さらに、剣を外して地面に置きます。
これは騎士が深い謝罪の意を示す行為――『この剣で首を刎ねられても当然の行いをした』ということです。
「殿下、本当に申し訳ありません! ですが、どうか――どうかお許しください! 私が共に未来を歩みたいのは、ここにいるカイトただ一人だけなのです!」
キアラ嬢は深く頭を下げました。
「二人とも、顔を上げてください。謝罪など不要です。二人が互いに想い合っているのは、とっくにわかっていましたから」
「…………えっ?」
「学園に通っていた生徒の中で、気づいていない生徒など一人もいませんでしたよ? 見ればわかるではありませんか」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている二人を見て、私は苦笑しました。
「で、でも……殿下はさっき私に……」
地面に跪いたまま、キアラ嬢は戸惑っています。
「あの告白は本気ではありませんから安心してください。私はただ、二人が互いに想いを告げる時を待っていただけです。カイト殿が飛び出してくれなければどうしようかと思っていました」
「……では、三日連続デートという特別待遇は……?」
「わかりやすく特別待遇をすることで、私はキアラ嬢に心が傾いています、とカイト殿に精神的な重圧をかけたつもりでした」
カイト殿はなんとも言えない顔をしています。
きっとこの三日間、気が気ではなかったのでしょうね。
「できればカイト殿には、もっと早くキアラ嬢に告白してほしかったのですが。まあ、終わり良ければ総て良しということで」
私はニッコリ笑いました。
「婚約おめでとうございます。しかし、王子妃選定期間が終わるまで、キアラ嬢は私の婚約者候補です。言動には気をつけてくださいね。ここは王宮ですから、どこに誰の目が光っているかわかりません。キアラ嬢の名誉を守るためにも、常日頃から節度ある振る舞いを心がけてください」
「心得ております」
二人は真顔で頷きました。
「カイト殿は剣を腰に戻してください。その剣は愛する人のために振るうべきです」
「ありがとうございます。殿下のご慈悲に感謝します」
カイト殿は頭を下げてから、地面に置いた剣を自分の腰に戻しました。
「殿下。本当にありがとうございました」
二人は私にお礼を言い、仲良く肩を並べて去りました。
……さて。
ロクサーヌ嬢とキアラ嬢は事実上、王子妃選定から辞退となりました。
これでようやく、私はフィオレット嬢一人に愛を囁くことができます。




