20:偽りの告白
◆ ◆ ◆
三日間、私はキアラ嬢とデートを重ねました。
一日目は王宮の池に小舟を浮かべて語り合いました。
二日目は王宮美術館を見学した後でお茶を飲み、三日目は共に楽器を演奏しました。
とても楽しい三日間でしたが、キアラ嬢に特別な感情があるわけではありません。
私の心はフィオレット嬢に向いていますし、キアラ嬢の想い人が私ではないことも承知しています。
それでも、私はキアラ嬢に甘い言葉を囁き、思わせぶりな台詞を何度も言いました。
全ては、キアラ嬢とカイト殿に奮起を促すためです。
カイト殿がキアラ嬢に告白するのが最良ですが、キアラ嬢がカイト殿に告白しても良いのです。
最終的に二人が結ばれてくれれば、途中経過はどうであろうと構いませんからね。
私の奮闘の裏で、シオンとロクサーヌ嬢はキアラ嬢やカイト殿に発破をかけてくれていました。が。
「……殿下、申し訳ございません。カイト殿が奥手すぎて、どうにもなりません」
「わたくしも精一杯、背中を押したのですが……」
キアラ嬢とのデートが終わった三日目の夜。
シオンとロクサーヌ嬢は私の部屋のソファに座り、揃って項垂れました。
「わかりました。二人とも、これまでの協力に感謝します。やはり私が全力で後押ししなければ、どうにもならないようですね」
「後押しって、どうするおつもりですか?」
シオンは不思議そうな顔をしています。
「任せてください。私は立派な当て馬となってきます!」
私は力強く宣言し、拳を握り締めました。目指すはダニエルです。
「……は?」
「当て馬?」
唖然としている二人に計画を話し、私は夜の庭園にキアラ嬢を呼び出しました。
都合の良いことに、今日の天気は快晴。
空には満天の星、地には花々。
そんな素晴らしい景色の中、私は停止中の噴水の傍でキアラ嬢と向かい合いました。
キアラ嬢は気づいていませんが、噴水の裏には腰に剣を佩いたカイト殿が身を潜めています。
私が「これからキアラ嬢に告白するため、邪魔が入らないように見張っていてほしい」と頼んだのです。
さて、カイト殿は『幼い頃より恋焦がれていたキアラ嬢が王子に奪われる』という状況に耐えられるでしょうか。
できれば耐えないでほしいです。
叶うなら、いますぐにでも「ちょっと待った!」と飛んできてほしいのですが……少し待ってみても、彼が女神像の裏から出てくる気配はありませんね。残念です。
「……あの、ユーリス殿下。こんな夜更けにお呼びになるなんて……。何か……大切なお話なのでしょうか……?」
いつもの明るい笑顔はどこへやら、キアラ嬢は不安げな顔で私を見つめます。
「キアラ嬢」
私が名前を呼ぶと、キアラ嬢は怯えたように肩を震わせました。
「私は貴女に深い親愛感情を抱いています。この三日間、貴女と過ごした時間は、私にとって特別でした。池に船を浮かべ、お茶会で笑い合い、共に奏でた音楽を通して語り合った。その一瞬一瞬が、宝物のように胸に残っています」
胸に手を当てて微笑む私を呆然と見つめながら、キアラ嬢は何度も瞬きをしました。
現実が信じられないのか、信じたくないのか。
「……殿下。それは……私も、同じですわ……」
キアラ嬢は必死で作り笑いを浮かべていますが、声が震えていますよ?
「嬉しいです」
私は微笑みを浮かべたまま、ゆっくりとキアラ嬢に近づきます。
キアラ嬢のドレスがわずかに動きました。
恐らくは、下がろうとして踏みとどまったのでしょう。
ですが、私はあくまで気づかないふりを貫きます。
「率直に言います」
私はそこでいったん言葉を切り、呼吸音が聞こえるほどの至近距離からキアラ嬢を見つめました。
そのとき、ざあっ――と音を立てて風が吹き、花びらが空に舞い上がりました。
なんと良いタイミングで吹く風なのでしょう。
演出としては満点。褒美を上げたいくらいです。
「私は貴女のことが好きです。貴女が私と未来を共にしてくださるのであれば、それ以上の喜びはありません」
「……!!」
キアラ嬢の目が大きく見開かれました。
その瞳の奥に宿ったのは喜びではなく、驚きと焦り。
……ここまで言ってもカイト殿は駆けつけてくれませんか。
いまこそ待ったをかける絶好のチャンスだというのに。
どうやらカイト殿を動かすには、さらなる追撃が必要なようです。




