14:ちょっといまから告白してくる
「シオン。いまだけ、王子と側近ではなく、年の近い兄弟として話しませんか。昔のように、敬語も使わなくていいですよ」
「……じゃあ、言うが。お前、ほんとにロクサーヌを嫁にする気はないのか?」
シオンは私の対面のソファに座って、鋭く睨みつけてきました。
さすがは武門の名家の嫡男です。睨まれると迫力があります。
「ありませんよ。シオンが長年彼女を想い続けていたことは、私が一番よく知っています。学年で首席を取ったのも、日々鍛錬を怠らないのも、全てはロクサーヌ嬢の関心を引きたいからでしょう? 他の誰でもなく、彼女に『凄い』と言ってほしいんですよね」
「……そうだけど……でも、ロクサーヌは四大公爵家の娘だ。学園でも『高嶺の花』扱いされてたのはお前も知ってるだろ。俺と彼女じゃ身分が違うんだよ。あー、なんで俺、王子として生まれなかったんだろ。俺がお前だったら、まどろこっしい王子妃選定なんてするまでもない。絶対ロクサーヌを嫁にしてたのに」
シオンは大いに嘆いています。
「シオンだって、由緒正しいグランシェル侯爵家の嫡男ではないですか。政治的にも、十分に釣り合う家柄ですよ。四大公爵家と侯爵家の縁が固く結ばれるのは王宮としても好ましいですし、シオンさえその気なら、私は全力で応援しますよ? 前から言っていますよね?」
「俺だけがその気になったって、肝心のロクサーヌに気がなけりゃ、どうしようもねーだろ!」
シオンは苛立ったように、バシンとテーブルを叩きました。
「あいつ、本当に何なの。俺が何言っても微笑むばかりで、何考えてんのか全っ然わからん!! 小悪魔か!! でもそこが好きなんだから俺もどうかしてる!!」
シオンは頭を抱えて仰け反り、そのままばたりとソファに倒れてしまいました。
何やら唸っているようですが、聞き取れません。
『品行方正で有能な側近』の仮面は完全に剥がれ落ちてしまっていますね。
彼に想いを寄せる数多の令嬢たちも、この姿を見たら幻滅してしまうのではないでしょうか。
「拗らせてますねえ……まあ、十年以上も片思いをしていれば、無理もないのかもしれませんが」
「うるせえ」
のんびり紅茶を飲みながら言うと、間髪入れずに怒られました。
しかも、寝転がったまま、こちらを見もせずにです。
私は王子だというのに。不敬です。
「仕方ありませんね。このままだと、本当にロクサーヌ嬢と結婚することになりそうなので、少しばかりお節介を焼くことにします」
「なんだよ」
シオンは不貞腐れた顔を私に向けました。まるで子どもです。不思議なことに、ロクサーヌ嬢のことになると、シオンの知能指数は極端に落ちてしまうんですよね。
「有益な情報をあげます。私はさっき、 ロクサーヌ嬢と歴史や歌劇の話をしたと言いましたよね。それらの話題を提供したのは私です。では、ロクサーヌ嬢からは普段どのような話題が提供されるかというと、共に通った学園のことが多い。もっと言えば、シオンのことばかりなのですよ」
「…………えっ?」
ソファに倒れていたシオンが、起き上がりました。
緑色の目が、期待に輝いています。
あまりにわかりやすくて、私は笑ってしまいそうでした。
でも、笑うと怒られるので我慢です。
「シオンのことを語るとき、ロクサーヌ嬢は楽しそうではありますが、同時に寂しそうでもあります。シオンは昔から、身分の差を気にして、当たり障りのないことを言うばかり。彼女も公爵家の令嬢ですから、滅多なことは言えません。私の婚約者候補として選ばれたことで、ネージュ公爵は張り切って外堀を埋め始めているそうです。ロクサーヌ嬢は公爵の暴走を必死で止めているそうですが、このまま本当に私の婚約者として選ばれたらどうしようと、内心は不安でいっぱいだそうですよ」
これは実際にロクサーヌ嬢から引き出した言葉なので、間違いありません。
私もロクサーヌ嬢がシオンを見ていることにはとっくに気づいていましたので、今日のデートでは、思い切って本心を尋ねてみたのです。
そしたら、案の定の返答でした。
ロクサーヌ嬢はシオンが好きだったから、山のような縁談を断り続けてきたのです。
シオンがロクサーヌ嬢に告白していれば、この二人はとうの昔に婚約していたはずなんですよね。ともすれば、結婚していてもおかしくはないのです。
「ここまで言えば、もうわかったでしょう? ロクサーヌ嬢はシオンの行動を待っています。想いを受け止めてくれる女性がいるのなら、男としてやるべきことは一つではありませんか?」
「……ちょっといまから告白してくる」
シオンは立ち上がりました。
おお。いまからですか。
さすがはシオンです。決断したら即実行ですね。
できればもっと早く行動してくれたら、ロクサーヌ嬢を婚約者候補にせずに済んだのですが……いえ、過ぎた話は止めましょう。
「いってらっしゃい」
ロクサーヌ嬢の返事は「はい」以外にありえないので、私は笑顔でシオンを見送りました。
「――さて。次は、キアラ嬢の想い人に頑張っていただかなくてはなりませんね」
扉が閉まった後で、私は呟きました。
シオンは少し押せば動いてくれましたが、キアラ嬢の想い人は、それほど簡単には動かないでしょう。
とにかく、まずは舞台に立っていただかなければなりません。
ここはひとつ、王子としての権力を使う必要がありそうです。




