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結婚式当日に捨てられた男爵令嬢は王子に甘く溺愛される  作者: 星名柚花


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12/20

13:王子と側近

 ◆   ◆   ◆


「本日は、心に残るひとときをいただき、ありがとうございました」

 二回目の個別デート終了後。

 ロクサーヌ・ネージュ嬢は雪の宮の前で、柔らかく微笑みました。


 前庭では、たくさんの花が風にそよいでいます。

 ロクサーヌ嬢の微笑みは、足元で咲き誇る花に負けないくらいに美しいものでした。


「その言葉は、そのままお返ししますよ。ロクサーヌ嬢と過ごす時間は、実に穏やかで心地よいですから」

 微笑み合う私たちの間を、春の風が吹き抜けていきます。

 雪の宮の窓から私たちの様子を眺めている侍女たちは、何やらウットリしたような顔をしています。

 もしかして、お似合いの二人だとでも思われているのでしょうか?


 そういえば、少し前まで通っていたエスノリア学園でも、私とロクサーヌ嬢が一緒に歩いていると、皆からヒソヒソ言われましたね。


 私は生徒会長、ロクサーヌ嬢は副生徒会長だったので、自然と行動を共にすることが多かっただけなのですが。

「会長と副会長は、いつご婚約されるのですか?」と無邪気な後輩に聞かれたときは、苦笑するしかありませんでした。

 確かに、ロクサーヌ嬢は完璧な淑女です。

 理想の結婚相手と言っても過言ではありません。

 王子妃となれば、彼女は陰になり日向になり、私を支えてくれることでしょう。

 しかし、私が彼女と結ばれることはありません。ええ、絶対に、です。


「それでは、再び殿下とお会いできる日を楽しみしております」

「こちらこそ。それでは、また」

 社交辞令を交わし、互いに張りつけたような微笑みを浮かべたまま、私たちは別れました。

 王宮の一角にある私室へ戻ると、シオンが書類を整理していました。


 側近として常に私の傍にいるシオンですが、ロクサーヌ嬢と二人きりのデートの日だけは遠慮してもらっています。

 それがきっと、私たち全員のためでしょうからね。


「お帰りなさいませ、殿下。少し休まれたら、こちらの書類に目を通してください」

 シオンは机の上に置かれた書類を、手のひら全体で示しました。


「わかりました」

 私は上着を脱いで、ソファに座りました。

 シオンが素早く動いて、紅茶を淹れてくれます。

 シオンは侍従の役割まで果たしてくれる、実に有能な側近です。


「ロクサーヌ嬢とのデートはこれで二回目となりますが、いかがでしたか?」

 ティーカップを差し出して、シオンが尋ねてきました。


「そうですね。ロクサーヌ嬢は幼い頃から高等教育を受けてきた、教養のある女性ですから。歴史の話をしても、流行の歌劇の話をしても、的確に返してくるんですよ。彼女との会話は実に楽しいです」

「……左様ですか」

 シオンの返答には、不自然にならない程度の微妙な間がありました。

 シオンはふいっと顔を背けて、再び棚の前に立ち、書類の整理を始めました。

 棚の書類はきちんと分類され、見た目も整っています。

 つまり、シオンはやらなくてもいい仕事をしているわけなのですが、私は気づかないふりをして言いました。


「彼女を選ぶのもありかもしれませんね」

 ぱさっ、と、乾いた音がしました。

 ティーカップを持ったまま振り返ると、シオンが抱えていた書類一式を、床に落としていました。


「失礼しました。大切な書類が……」

 慌てたように、シオンは屈んで書類を拾い集めました。


「手伝いますよ」

 腰を浮かせようとしたら、当のシオンに止められました。


「いいえ、これは私の仕事ですから」

 きっぱりと言われては、腰を下ろさざるを得ません。


「……そんなに驚きましたか?」

「……まあ、そうですね。殿下は学園でも、恋人を作ろうとはなさいませんでしたし……しかし、ロクサーヌ嬢ならば、申し分のないお相手です。殿下の判断は正しいと思います」

 書類を拾い上げて、シオンは立ち上がりました。


「しかし、その言葉には感情が全く籠っていないように感じるのですが?」

 自分でも意地が悪いと思える微笑みを浮かべると、シオンは顔をしかめました。


「何を仰りたいのですか?」

「いくら正しかろうと、周囲やネージュ公爵に無言の圧力をかけられようと、私がロクサーヌ嬢を選ぶことはないということですよ。兄の想い人を妻にするほど、私は悪趣味ではありません」

「兄って……えっ!? レグナート様にはアルテミシア様がおられるのに!?」

 盛大な勘違いをしたらしく、シオンは青ざめました。

 アルテミシア様は隣国の姫です。

 彼女を冷遇しようものなら、二国間の戦争にまで発展してしまいかねません。


「違いますよ」

 私は苦笑しました。


「心配しなくとも、兄上はアルテミシア様一筋です。何しろ、会うたびに嫁自慢をされますからね。お二人は砂糖を吐きたくなるほどの熱愛ぶり……いえ、それは置いといて」

 咳払いして、私は話題の軌道修正にかかりました。


「兄というのはあなたのことですよ、シオン。血は繋がっていませんが、私はシオンをもう一人の兄だと思っています。迷惑でしょうか?」

「……迷惑なわけがありませんよ」

 見つめると、シオンはそう言ってくれました。

 嬉しくて、自然と頬が緩みます。

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