第9話 :汚れた猟犬
ロビーにて、クラウンと革命軍のメンバーが揃っていた。
ヴェーラはL字型のソファに一人陣取り、クラウンをはじめとする残りのメンバーが向かい合う形となっていた。
部屋の空気は、ヴェーラの持つどこか気怠げな空気に、静かに支配されていた。
しかし、ノッチだけはヴェーラのお茶請けを用意したり、ヴェーラが散らかしたお菓子を片付けたりとせかせか動き回っていた。
その動作には、序列の最下位たる者の妙な献身が窺えた。
革命軍に入りたてのクラウンですら一発で理解できるほど、誰が一番序列が低いのか如実に物語っていた。
「まぁ、私としちゃあとっとと本題に入りたいわけだが。今回は新入がいるからな。まずは、革命軍の目的と仕事内容について説明する。ノッチ頼む」
ヴェーラが気怠げに話す。
普段から気怠そうにするヴェーラであったが、仲間が入るたびに毎度同じ話をするのも面倒になってきたヴェーラは、その面倒臭さを隠そうともしなかった。
ノッチはお茶請けをヴェーラの前にちょうど運び終わったタイミングで話を振られ、彼特有の甲高い声とともに勢いよく立ち上がる。
「頼まれたでヤンス。まず革命軍は幾つかの組織に分かれているでヤンス。それぞれの主張や思惑があるでヤンスから、一口に革命軍と言っても違う組織なのでヤンスよ。ちなみに我々が所属している組織はエプシオンでヤンス。しかしながら我々は本家のエプシオンではないのでヤンス。」
「どう言うことですか?」
クラウンの頭上に『?』が浮かび上がり、彼の顔は瞬時に困惑した。
「それがでヤンスね。我々はエプシオンの中でも過激派でヤンして、追放されたでヤンス」
ノッチは声を張り上げながらも、ヴェーラの様子をチラリと伺った。
「え?」
クラウンは思わずその言葉が漏れた。まるでため息でもするかのように、無意識に――ポロリと本音が出たのだ。
「つまり我々は分家。でも、エプシオンが2つあると紛らわしいって訳で我々は、汚れた猟犬と呼ばれているでヤンス」
ノッチは胸を張って言ったが、その二つ名に誇らしさは感じられなかった。
「でも、すべてが敵対しているわけじゃないよ。できるところは協力するし、情報交換だってする。」
誤解を招かないようにすかさずミロットが補足する。彼女はにこやかに笑い、場の重さを和ませようとした。 しかし時すでに遅く――
「つまり……?革命軍が事実上内部分裂してて、僕たちがどれだけ頑張っても功績は認められないからジリ貧って話じゃないですか!」
頭が痛くなる話であった。
殺されそうになるわ、憧れの皇都は腐っているわ、覚悟を決めて入隊した革命軍は火の車だわ。
村を出てからろくなことがない。 今日が厄日だとクラウンは聞かされても動揺しないほど心当たりがあり過ぎた。
「あ、バレた?だから仲間集め大変なんだよねー」
ミロットは少しも悪びれた様子も見せなかった。むしろ楽しんでいるように、いつもと変わらずあははと軽く流す。 彼女がナイスバディの美少女じゃなかったら、思わず一発入れていたかもしれない。
「笑ってる場合ですか!」
「まぁそんなに慌てるな。金よこさないとうちと狂犬派遣するぞって脅して本家からは多少の援助は受けてるし、独自の収入ルートだってある」
慌てふためくクラウンに、ヴェーラが横槍を入れた。 ソファで胡座をかき、前かがみになりながら右膝を立て、そこに肘を突きながら。その姿は、まるで小さな王のようだった。
「は。はぁ、そうなんですか?」
ヴェーラの言葉にクラウンは一旦落ち着きを取り戻す。 小柄で小学生ほどの身長しかないのにも関わらず、妙な落ち着き具合と大物然とした態度にクラウンは思わず圧倒された。
「逆に言えばそのせいでこちらは本家の命令にある程度従わなければなりません。ですので、本家から来る命令はたいてい手に余る無理難題が多く、最悪死に直結します」
フレーネの言葉に、クラウンは冷や汗が出る。彼は自分の未来が、薄氷の上に立っていることを悟った。 そんなクラウンに気を使うように――
「折れるなよ少年。それだけ私らの汚れ仕事には意味がある」
ミロットが背をポンと叩き、勇気づける。
そんな様子を見つめていたヴェーラは静かに口を開いた。
「まぁ、なんだ。私らがやろうとしていることはいたってシンプル。この国を取り戻すことだ。そのために、他国のスパイと、他国に通じている敵性皇国人をぶっ潰して、この国にはびこる不法移民を排除すること。そして、ちゃんとした国家観のもとこの国の人々を中心とした新たなルールの制定をすることだ。これを怠った故に、移民によって崩壊した諸国は幾らでもあるからな。」




