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憧れの『英雄』に殺されかけたので。命を救ってくれた人殺しに脅されて、僕は革命軍に入ります  作者: 日影 聖真


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第6話:神を失った森と、革命軍の正体


 森の中。鬱蒼とした木々の間を、クラウンは心臓が軋むほど息を切らしながら走っていた。額には汗が滲み、足元の腐葉土と枝葉が耳障りな音を立てて砕ける。


「ハァハァ!」


 その息遣いは、焦燥と、まだ拭いきれない恐怖に満ちていた。


「ムダだって。今の君じゃ逃げられないって。下手したら死んじゃうよ。」


 ミロットは細い木の枝に軽やかに着地し、上からクラウンを静かに見下ろす。その姿は、追跡者というよりは天性の狩人のようだった。


「無茶でも行きます!僕が憧れた人達がなぜあんな事をするのか聞くまでは引けません!」


 クラウンは無理やり立ち止まり、ミロットを睨みつけた。その瞳には、真実への探究心という、揺るぎない決意が宿っていた。


「若いねぇ。でも、それは無謀だって言われたはずだよ。無謀と勇敢は違うって。」


 ミロットは音もなくクラウンの目の前に降り立ち、諭すように話す。その言葉には、過去に同じ過ちを犯した者のような響きがあった。


「くっ!?」


 クラウンは最大限の警戒心を露わにし、武器を構えた。本能が、目の前の女性の危険性を訴えている。


「もう諦めなよ。ここで私たちが争っても意味がないよ」


 ミロットは冷静な表情を崩さない。


「できません!」


 クラウンの顔には、信念を貫く者の強い意志が刻まれていた。


「仕方ないなぁ」


 ミロットが諦めたようにため息をついた瞬間、彼女の体から電光のような光が一閃した。


《未来視》


 世界が数倍に引き延ばされたように静止する。クラウンの脳裏に、ミロットの鋭い刺突が自分の心臓を貫く一瞬が、高精細な映像として焼き付いた。刃が肉を裂き、骨を砕く、生々しい感覚と、意識が冷たい闇に侵食される感覚。痛みと絶望が、現実の行動に先駆けて彼の魂を貫いた。


「…っ!」


 死の未来を目の当たりにし、クラウンの体が反射的に硬直する。


《現実》


「くっ!」


 クラウンは一歩下がり、身体を大きくひねった。危機を予知した本能により、ミロットがノーモーションで繰り出した刺突は、彼の身体を紙一重でかすめて通り過ぎる。


「嘘?」


 ミロットは目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。


「はぁあああああ!!!!」


 クラウンは死の未来を回避した高揚と恐怖を力に変え、その勢いそのままミロットの懐へ深く踏み込んだ。左手の剣を躊躇なく喉元へ突きつける。


 ミロットは素早く後方へ跳び、剣をかわす。次の瞬間、彼女は超高速でクラウンの背後に回り込み、拘束するように羽交い締めにした。


 ミロットはクラウンの耳元で囁くように話す。


「やっぱ君、視えてるね。でも、頼りすぎかな?相手が私みたいに君の能力悟ってたら誘ったら逆効果だよ。君は駆け引きとかの心理戦が少し苦手かな」


 クラウンは必死にもがいた。屈辱と焦りが彼の全身を支配する。


「離してください!僕は!」


「僕は皇都へ行って無駄死にするのかな?そして君の故郷に君の首が届けられる。そんな未来にしたいのかな?」


 その冷徹な言葉は、クラウンの唯一の弱点を突いた。故郷を巻き込むという未来に、彼の動きがピタリと止まる。彼の心に、自己犠牲の衝動と絶望的な無力感が芽生えた。


 クラウンはうつむいた。


「……。」


「冷静になりなよ少年。ほら、見てみなよ」


 ミロットはクラウンを解放し、目の前の景色を指し示した。


「ここは?」


 クラウンの目に映ったのは、生気が完全に失われた、枯れ果てた森だった。木々はすべて黒ずみ、炭のように変色し、地面は干上がってひび割れていた。風も音も死んだように静かだ。


「ここは土地神を失った森だよ。君の故郷もいずれこうなる。そして、今の皇国を放っておけば皇国中がこうなるだろうね」


 ミロットの表情は真剣そのものだった。一切の冗談や誇張がない、冷酷な事実を突きつけている。


「そんな……」


 クラウンは呆然と立ち尽くし、底知れぬ絶望に打ちひしがれた。彼の胸の奥に、信じていた世界が終わりを告げる冷たい感覚が広がっていく。


 そのとき、背後から柔らかな声が響いた。


「一度戻られませんか?」


 振り返ると、そこにはフレーネが立っていた。彼女の瞳は、クラウンの動揺をすべて受け止めるように優しく揺れていた。


---


アジトのロビー。


 クラウン、ミロット、フレーネの三人が並んでロビーの入口をくぐる。ロビーは先ほどとは打って変わって、穏やかな光と生活の音に包まれていた。壁際のソファには無邪気な笑顔の子供が一人、お菓子を頬張っていた。


「こ、子供!?」


 クラウンは言葉を失い、目を見開く。


 革命軍──彼が想像していたのは、武装した過激派の集団だった。だが、目の前にあるのは、希望の象徴だった。


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