第35話:男の娘
軽薄な笑みを浮かべたまま、レックスは室内をゆっくりと見渡した。値踏みするような目が、一人一人の顔で止まっては流れる。
「レックス。相変わらず嫌味だね。これから任務を共にするのに何がしたいの?」
「悪いね。愚図をみてるとイライラするもんで」
レックスはミロットを一瞥すると、不敵に、嫌味を含んでいそうな視線をスイレンへ向けた。
「スイレンじゃねーか。相変わらず不機嫌そうだな。そういやディアファンの暗殺しくじったそうだな。お前の暴走と、新人が無能なせいで。」
スイレンは自分の立場を理解しているかのように押し黙り、視線を逸らした。
そんなスイレンを珍しいと感じたのか、レックスは小馬鹿にしたように続けた。
「恥ずかしがっちゃって」
レックスはボソリと、独り言を言うように、それでいて確実にスイレンへ届いている声量で告げると、視線はミロットへと向く。
「ミロット、お前もお前だ。お前がついていながらなんてざまだ。もう少しタズナを握っていればマシな結果になっていたんじゃねーか?」
ミロットは表情ひとつ変えずに返した。
「本部の合流は昨日だったと思うけど、何で遅れたのさ?」
「わりぃな。お前らを信じてゆっくりしてたら遅れちまった」
「都合のいい言い分だね。」
一瞬の沈黙が漂った。互いに武器を握りしめこのまま火花が散るかと思われた空気を、ノッチがゴーグルに手を当てながら静かに打ち砕いた。
「そこまででヤンス二人とも!ミー達は仲間われをするためにここにいるでないでヤンス!大義を見失っているでヤンスよ!」
「そうだったなノッチ。わりぃ俺としたことが作戦も決めず揉めるとはな。早速作戦会議をするとしよう」
ミロットとレックス。互いに顔を見合わせ、反省するように武器を収めた。
しかし――
「違うでヤンス!ミー達がやるべきことは、自己紹介でヤンス!」
ノッチの勢いは止まらず続けた。
「自己紹介?」
レックスは少し拍子抜けしたように眉を上げた。
「そうでヤンス!ミー達はこれから任務を共にするでヤンス。ある程度仲を深めるためにも自己紹介は必須でヤンス。」
レックスは仕方ねぇなとでも言いたげに首を振ったあと、名乗りを上げた。
「わーったよ、ノッチ。今回はテメェの顔を立ててやるか。俺はレックス。今回の任務の隊長を任される予定の男だ。よろしくな」
それに続き、仕立ての良い深色のジャケットを着た女性も口を開く。
「名前は、カミラっす。先輩が迷惑をかけると思いますが、よろしくです」
「カミラ!何分家ごときに下手に出てやがる。舐められるだろ」
「わざわざこっちからケンカ売ることないじゃないですか!」
二人が言い合いを始めた隙に、残りのメンバーの男の娘も名乗りを上げた。
「シノンです。戦闘はそれほど役に立てないかも知れませんが、サポートではそこそこ役に立てると思います。よろしくお願いします!」
深く頭を下げるシノンを、ノッチはジッと見つめ一言呟いた。
「足りないでヤンス。」
「何が?」
ノッチはガニ股に足を開き、訴えるように主張する。
「情報が少ないでヤンス!自己紹介でヤンスよ!名前だけって分かりあえると思っているでヤンスか!女性ならスリーサイズと性癖の一つでも暴露するのが自己紹介でヤンス!そして一番の問題はそこの中性的なチミでヤンス!」
ノッチの指がシノンへと向く。
「僕ですか?」
「そうでヤンス!ミー達はチミが男か女かわからない影響でこのままでは夜も眠れず作戦行動に支障をきたすでヤンス!普通性別から言うでヤンスよ!さぁ!答えるでヤンス!男の娘か!それともただの美少女か!」
クラウンを含めたアッシュ・ドッグスの全員が気になっていたのか、ノッチの問いに室内の視線が一斉にシノンへと集まった。
「え、えーっと、なんか注目集めてて恥ずかしいんですが。性別は、はい。この見た目のせいで女の子に勘違いされてしまうことも多々ありますが、男ですよ」
「そうでヤンスか。」
改めてシノンの自己紹介を終えると、ノッチは穏やかな笑顔を浮かべた。視線が中性的な美男子の顔から全身へゆっくりと移動し、静かに、深く、息を吸い込む。次の瞬間、膝から崩れ落ち涙を流した。
「男の娘でヤンス!あ、あの!男の娘がついにミーの目の前に!」
「あの、別に僕は男の娘というわけでは。」
「何言ってるでヤンスか!昨今のバカな外国人達には、女装、男の娘、ニューハーフ、オカマ、性転換などをごっちゃにしてトランスジェンダー(トランスジェンダーだけ棒読み)なんて一括りにするでヤンスが!我が国のように他者を思いやり、譲り合いの精神をもつ皇国の民からすればシノン殿は立派な男の娘でヤンス!」
「それ、ノッチが男の娘好きなだけじゃん」
「違うでヤンス!これは男の夢であり、男の娘の価値を理解出来ない輩はアニメも漫画もみるべきじゃないでヤンス!」
カミラを除いたその場の全員が、思わず顔を見合わせた。そんな周囲をよそに、ノッチはグチャグチャになった顔で今一度立ち上がりシノンへ視線を向ける。
「それでは、早速ヤンスが。本当に男の娘でヤンスか確認するでヤンス。」
「え?」
「脱ぐでヤンス。」
「あのぅ何を」
「確認のために脱ぐヤンス!それが嫌なら無理やりでも脱がすでヤンスよ!サポートメカニック作動!」
ノッチの背負っているバッグから滑らかに動く手が伸び、シノンが後退りする間もなく、機械の手が迫る。
「逃さないでヤンスよオッ――」
ミロットの手刀がノッチの頭部に炸裂した。
「ごめんね。気にしなくていいから」
「え、あ、はい……。」
「じゃあ、自己紹介も終わったし早速だけど作戦会議でもしようか!」
「ちょっと待てミロット。その前に1つ言うことがある。俺らはお前らを信用できねぇ。班は俺が決める」
「はぁ?協働って話はどこ行っちゃったのかな?」
「何言ってやがる。そもそも協働って話からコッチは文句あるっつーの。そっちは分家、本部はこっちなんだ。お前らが俺等の下につくのは道理だろ?」
「何言ってんの?」
「勿論お前の力は信用してるさ。だが、俺らと別れた間に何やら新顔もいるらしいじゃねーか。」
レックスはクラウンを一瞥した。
「事実、そこの新人くんとスイレンのガキは何やら失敗したらしいし。信用出来ないのも無理はねぇとおもうが。」
スイレンは何も言わなかった。レックスは小馬鹿にするような視線をスイレンへと向けたまま、続けた。
「というわけでメンバーはこうする」
ボードに書かれたメンバーの組み分けには、ミロットとレックスチームと、その他で分けられていた。
「何ですか!この組み分け!」
カミラが声を上げた。
「何で一番頼りになりそうな人が先輩と組むんすか!そこはわけるでしょ!」
「先輩の言う事を聞け!」
「まさか先輩狙ってるんすか!あの人のこと?」
「なっ!?そんなわけないだろ!だが、その、何というか、ちょっと気になってるだけだ。別にそういうあれではない!」
「任務に私情っすか!」
「うるさい!お前らは人数が多いから別にいいだろう!」
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