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憧れの『英雄』に殺されかけた僕は、革命軍に拾われたので、生まれ持った『未来視』で偽りの聖域を壊し尽くす  作者: 日影 聖真


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第27話:やらない理由を探すな

 地下通路を抜け、クラウンは地下牢へと足を踏み入れた。


 ほの暗く冷たい空気が頬を撫でる。かすかに水の匂いがするそこは、ネズミが這いずり回り、カビと鉄錆の混じった悪臭が立ち込めていた。


 身体と衝動が、激しく乖離かいりしていた。

 胸に刻まれた信念という名の衝動は、磁石に引かれるようにクラウンを前へと進ませる。だが、本能は恐怖を感じ取り、爆音を奏でる心音とともに「逃げろ」と本能が警鐘を鳴らしていた。


 地下牢に繋がれた女性たちはクラウンを見るなり身体を震わせる。その瞳に宿る絶望に、クラウンは思わず救いの手を伸ばしたくなるが――拳を強く握りしめ、それを振り切った。


「クラウン……さん?」


 呼びとめる声に、視線を向ける。そこには、スイカがいた。


「スイカさん! 大丈夫ですか!」


「ええ。なぜ、こんなところに……」


 平然を装ってはいるが、その表情には隠しきれない疲労が滲んでいた。食事もほとんど与えられていないのだろう。


 牢屋に鎖もなく放置されているのは、彼女が「最高級の商品」であることを奴らが理解している証拠だ。乱心して傷でもつけば、値打ちが下がる。彼女は他とは明らかに別格の扱いを受けていた。


「あなたを助けに来ました。メロンちゃんも来ています!」


「メロンも!?」


「はい! 今すぐここを出ましょう!」


「どうやって?」  


 背後から、気配もなく声がした。

 急ぎ振り向くと、そこにはスイレンが立っていた。


「スイレンさん!」


「何で君がここにいるの? 僕は商人に扮して脱出路を確保しろって言ったはずだけど」


「それは……いろいろあって……」


「そう。でも、今ここで彼女を助けることはできないよ」


「どうしてですか!」


「脱出路も確保できていないのに、素人を連れてどうやって逃げるの? それに――任務に私情を持ち込んでも、いいことは一つもない」


「任務?」


 スイカが、静かに問いを投げかけた。


「えっと、それは……」


 テンパるクラウンに、スイレンは冷徹に口を開く。


「行くよ」


「本当に、これでいいんですか!?」


「いいも悪いも、それが仕事でしょ」


「仕事? 違いますよね! 僕たちが目指したのは、この国で虐げられている人たちを助けることだったはずだ! なら、ここでスイカさんを助けるのが僕たちのやるべきことじゃないんですか!」


「……。仮にそうだとして、彼女だけを助けるのが君の正義なの?」


 クラウンは返答に詰まった。

 確かに目の前のスイカを救うのは正しい。だが、道中で出会った他の囚われの身の人々を見捨てて彼女だけを連れ出すのは、正義などではない。それはただのエゴだった。


「……それは」


「僕たちがやるべきことは、数十人の命を救うことじゃない。この国のシステムと、その管理者たちを倒すことだ。だから彼女はここに置いていく」


 正論であった。

 だが、もしここで「正しいのだ」と認めてしまえば、クラウンは何のために憧れを捨てたのだろう。


 かつて憧れたフォルラに逆らってまで、自分の信念を貫こうとしたのはなぜか。皇国の正義や冷徹な正論に従うのではなく、己の魂が叫ぶ「信じたいもの」を貫きたかったからではなかったか。


 ここで彼女を見捨てることは、自分自身を否定することに等しかった。


「スイレンさんは、それでいいんですか」


「いい悪い話じゃない。それが正しい判断でしょ」


「『正しい』って、なんですか? 少なくとも僕は、ここでスイカさんたちを見捨てることが正しいとは思えません!」


「なら、どうするの」


「僕が、今日ここでディアファンとシナモンを殺します!元凶がいなくなれば、取引も何もかもなくなってここにいる全員を救い出せます。スイレンさんは、脱出してください」


「君一人でそんなことできるわけ――」


「できるかどうかなんて、終わってみなきゃわかりません!」


 クラウンは、腹の底から声を絞り出した。


「『恐れた相手ほど、怖くない相手はいない』……さっき、ある人に言われた言葉です。斬るべき相手が目の前にいるのに、やらない理由を探してどうするんですか!」


「……っ」


「そんな事を言っていたら、僕らみたいな弱者はいつまで経っても戦えない! 恐れたら負けなんです。僕は、勝ちにいきます!」


 沈黙が流れた。

 スイレンは目を見開き、クラウンをじっと見つめ、やがて短く溜息を吐いた。


「……好きにしなよ。でも、君一人じゃ無理だね。作戦を変更するよ」


「え?」


「僕がディアファンを殺す。君は、シナモンを殺しなよ。……あいつには、何か因縁がありそうだしね」


「でも! ディアファンには護衛がついてますし、二人で――」


「『恐れた相手ほど、怖くない相手はいない』……だろ?」


 スイレンは、先ほどクラウンが言った言葉をそのまま返し、不敵に笑った。


「……。はい、ディアファンはお任せします!」

お読み頂き、ありがとうございます。


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