第26話:敗北の方程式
見知らぬ天井が目に入った。
このところこういうことがよくある。
のされては知らない天井とご対面する展開。
クラウンはここ数日で、失われた自尊心がまた一つ失われた。
敗北の味に慣れすぎると、どうしてもマインドが維持できなくなる。
クラウンは悩んでいた。
こんな精神状態でこの先、命のやりとりをする革命軍に所属し続けていいものか?
最近、悩む事が多くなった。
その度支えられてきたが、今回は違う。
こうも連続で敗北が続くということは、自分は弱いのではないか? と唐突に思い至ってしまった。
自分より強者がいるのはいい、最強の自負などないのだから。
だが、弱者であると理解させられるのは違う。
これからも命のやりとりを戦場で繰り広げる以上、『強者である。』という自負がなければ戦うことはおろか、その場に立つことすら難しくなる……。
(……。)
クラウンはこれ以上の思考を放棄した。
この先を考えれば、戦えなくなる自分がいると理解していたからだ。
クラウンは状況を把握するために体を起こした。
「お目覚めだね?」
女の声が聞こえた。
クラウンはそうだ! ここは敵の敷地だ、と思い出し、急いで彼女を正面にとらえた。
「身体は動く?」
「ええ、問題ありません」
身体には何の戒めも施されていなかった。
それどころか、クラウンに語りかけてきた——背後をとったあの女性は、ベッドの対面にある椅子をこちらに向け、目元と口元を覆い隠した護衛の服を脱ぎ捨て、ラフな格好で優しく語りかけてきた。
クラウンは判断に困り、周囲をぐるりと見渡す。
クラウンが見た限り、ここは娼館内のとある一室のようであった。
「ここがどこか気になる?」
女性の声は、落ち着いていた。
戒めがないことからも、クラウンの正体に感づいたわけではないようだったが、投薬してわざわざこんなところまで連れてきた以上、何かしら目的はあるはずだ。とクラウンは警戒をする。
「そうですね。ここはどこなんですか?」
「ここは娼館のスタッフルームだよ。ここに来るときは、護衛は新しい娼婦(新商品)の使い心地を調べることになっているんだよ」
「つまりそれって。シナモンさんのおこぼれを貰ってるってことですか?」
「そうだね」
「ッ!?」
クラウンは先程のメロンの件がフラッシュバックし、腹の底から湧き上がった怒りに突き動かされ、急いで扉へと向かう。
「どこに行くの?」
「止めてきます!」
「やめときなよ。君には、やることがあるんじゃないの?」
女性の言葉に、クラウンは静止した。
確かにそのとおりであった。クラウンにはやるべき事があった。
スイレンの作戦に従っていない以上、クラウンはクラウンで彼女のサポート、あるいは単独でのミッションを完遂する義務があった。
それに、
「君が何をしたいのか知らないけど、メロン(あの子)を助けるなら今が一番の好機だよ」
またしてもそのとおりであった。
護衛が外れ、シナモンと二人きりでいるであろうメロンを先に救出をするにせよ、今の状況は好機と言える。
しかし、なぜ彼女はそんな事をクラウンに言う必要があるのだろうか?
「なんで僕にそんな事をいうんですか?」
「なんでだろうね。もしかしたら、私が個人的に君を気に入っていたからかな? あとは、助けてほしかったからかな」
「助けてほしかった?」
「この国のお偉いさん方は、自分の保身と体裁にしか興味がない。国民には増税を課し、他国の一時的な風潮や自らの保身のために金を他国にばら撒き、時にはこの国の文化すら簡単に破壊しようとする。きっと、国民の血税をただの資源や予算とかとしか見ていないんだろうね。私が小さかった頃と何も変わってない。でも、汚いのは私も一緒かな? 私は生きるために権力者に媚びる道を選んだ。けど、あの子は違う。あの子は戦ってる。奪われたものを取り戻すために、あの子は一人でここまで来たんだ。だから、助けてあげてほしかった。」
「……もしかして、メロンちゃんがここに来た理由を、あなたは知っているんですか?」
クラウンの問いに、女性は力なく首を振った。
「知らないよ。でも、誰かを助けに来たんでしょ? じゃなきゃ、あんな子供が自分から『シナモン様に雇ってください』なんて、死ににいくような真似はしないよ」
「……」
「あの子を助けたいなら、まずはあの子が『助けたい人』から助けたほうがいい。あの子の目は、自分の命なんて最初から勘定に入れてないもの。」
「でも、どうやって?」
「地下にセリ場がある。複雑に入り組んだ下水道を利用して、『商品』を秘密裏に運搬しているんだろうね。今日はシナモン様のお父上であるディアファン様もくる。規模はこれまで以上に大きくなる。おそらくその中に、あの子の助けたい人もいるんじゃないかな」
「……!」
「ありがとうございます!」
クラウンが弾かれたように部屋を飛び出そうとすると、
「それから、私から一つアドバイス。さっき、自分を『弱い』なんて思ってなかった?」
「ッ……」
「強いか弱いかなんて、終わってみなきゃ分からないよ。好きにやりなよ。私たちみたいに命を賭す職業に就く者が、敗北が頭を過ったらその時点で負けだよ。常に勝つための方程式だけを見据えて戦いなよ。恐れた相手ほど怖くない相手はいないよ」
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