第25話: 残酷な未来視
しかし、その手が刀にかかる直前。
クラウンは少女と目が合った。――その瞳には、助けを求める光などなく、ただ「私に関わらないで」という拒絶にも似た強い意志が宿っていた。
突きつけられた現実に、クラウンの思考は硬直する。
これは自分のエゴだ。一度その手を振り払った自分には、今さら彼女を救う権利すら万に一つもないのだと自覚させられた。
緩んだ手が、力なく垂れる。
その瞬間、クラウンの脳内に強烈な閃光が走り、惨劇と呼ぶべき光景が脳裏を駆け巡った。
少女であるメロンの目の前で、何十人という若い女性が引きずり出されては、無残な骸へと変えられていく惨劇。
なぜそんな事をするのか? 理由はシンプルであった――少女は失敗したのだ。実の姉であるスイカの救出に。
まさに地獄絵図であった。
誰が「実の姉」なのか、その正体を知らぬシナモンは、メロンの顔色を愉悦混じりに観察しながら、一人、また一人と無造作に命の灯を消していく。
喋れば姉が死に、喋らなければ関係のない他人までが身代わりに間引かれる。
メロンの瞳が絶望に揺れる瞬間を、その「正解」を求めて、シナモンはまるでクイズでも解くかのように、スイカに辿り着くまで処刑を繰り返していたのだ。
どちらにせよ誰かが死を迎える救いのない未来に、クラウンは胃酸が逆流するほどの吐き気を催す。
だが、同時にクラウンは覚悟を決める。
未来は見えた。ここで少女がどれほど虐待に耐えようと、辿り着く結果は何も変わらない。
なら――!
クラウンの右手に再び力が宿り、刀へと指をかける直前――背後から忍び寄った「静謐な影」に完全に間合いを詰められ、耳元で甘い声が囁かれた。
「愛刀に手をかけたら、君も死んじゃうよ?」
心臓を冷たい手で直接握られたかのような悪寒が体中を駆け巡る。
背後の女性はクラウンの右手に自分の手を絡め、指の間に指を滑り込ませた。それはまるで恋人同士が睦み合うような――しかし自由を完全に奪う、冷徹な拘束(恋人繋ぎ)だった。
「焦っちゃダメ。感情的になっても誰も納得しないし、誰も認めない。まずは対話から始めないと。ほら、言いたいことがあるなら口に出してごらん?」
「何を?」
「ダメダメ。今は私より彼女が大事でしょ?」
「……」
心音が爆音を奏で、死すら予感する中、シナモンは背後を取られたクラウンが不覚にも漏らした殺気を敏感に感じ取りながらも、極めて友好的に語りかけた。
「どうした、そんなに怖い顔して。まるで僕がものすごく悪いやつみたいじゃないか。君だって生きるために動物を食らうだろ?それと一緒さ。快楽を得るために弱者をもて遊ぶ。君もわかるようになるさ。なんなら、この子の教育を手伝ってくれないかな。そうすれば君にもわかるだろう?」
シナモンから、まったくと言っていいほど悪意を感じなかった。どんな悪人であれ、悪を行う以上は悪意や何らかの感情が動くものだ。しかし、彼から伝わってくるのは、爽快感と幸福のみ。それが何よりもクラウンを戦慄させた。
「……」
「大丈夫。未来は誰にも分からない。君が彼女に気を使っても、使わなくても後悔するなら、君の正しい選択を取ればいいんだ。大丈夫。例え失敗しても、私が後で慰めてあげるから」
耳元で囁く女の言葉に、クラウンは絞り出すように答えた。
「……嫌がっているじゃないですか」
「あー、そういう事。大丈夫、大丈夫。僕は優しいからね。ちゃんとこの子が痛みを快楽に、苦痛が幸福になるまで教育するよ。そうなったら僕は興味ないけどね」
シナモンの言葉に、クラウンはかろうじて保たれていた心の糸が切れ、思わず戦闘モーションに入りかけると――唐突に視界が揺らぎ、強引に姿勢を崩された。直後、熱い感触が唇を塞ぐ。
「!?」
姿勢を崩された瞬間、(死ぬ!)と予感しただけに、あまりに予想外の展開に脳がフリーズした。
しかし、そこから僅か一瞬、理解が追いついた時にはもう遅かった。
背後の女性は、不意を突いて開いた口の中へ、仕込んでいた薬を滑り込ませ、強引に飲み込ませた。
「はい。終了ー。君の負けだよ。2ターンも貰ってシナモン様を説得できなかった君が悪い」
薄れゆく意識の中、最後に背後の女性の声だけが聞こえた。
「シナモン様。この子、今夜私にくださいな」
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