第21話:刃に宿す誇り
刃が交わる剣戟の音が鳴り響く。
男と男の研鑽の日々を刃に乗せ、互いに武をぶつけ合う。
それは互角の戦いであった。互いに決め手は欠けていたが、間違いなく傍目からは名勝負であった。
しかし、一人失望する男が、溜め息を落とすように弱々しく鼻息を吐き、声を張り上げる。
「そこまで!」
ヘインドルの制止の合図に両者はピタリと止まり、互いに肩で息をする。
「君、強いね。正直余裕かと思ったけど、完全に互角だったね」
「ありがとうございます」
シナモンの讃辞に、クラウンは笑顔で応える。そのクラウンの笑顔を前に、少しシナモンは考え込んだあと、口元を緩ませる。
「うん、気に入った。君を僕の指南役として正式に認めるよ。でも、ヘインドルにもう少し稽古してもらう必要があるかな。僕を指導するんだ。僕より強くないとね」
「は、はい! 謹んでお受けいたします!」
「じゃ、後片付けは頼んだよ」
シナモンは上機嫌に稽古場から出ていった。
「かしこまりました!」
クラウンは安堵していた。勝利こそ手にしていないが、指南役として潜入することに成功した。間違いなく作戦の第一段階はクリアだ。だが、そんなクラウンとは裏腹に、ヘインドルの表情は少し強張っていた。
「クラウン殿。なぜ攻めを捨てたのですか?」
クラウンの背後に立ち、平常時より数トーン低い声音で問いを投げかけた。
「え?」
「革命軍であるあなたが潜入するためにこの場から逃げなかったことも、何かしらの目的でまだ事を荒立てないことも承知しております。ですが、なぜ勝ちにいかなかったのですか?」
「それは……」
クラウンは言葉が出なかった。何を伝えればいいのか。革命軍であることを理解した上で、なぜここまで自分に肩入れをするのか、クラウンには全くもって理解ができなかった。しかし、ヘインドルの目は本気だった。
「失礼しました。昔の悪い癖です。どうかお忘れください。しかし、教えていただけないでしょうか。なぜ、クラウン殿は勝ちにいかれなかったのか。ブリッジダウン家指南役兼庭師であるヘインドルとしてではなく、一武人として聞きたいのです」
ヘインドルは自分の問いがクラウンには無関係であると気づき、即座に謝罪した。だが、老いてなお鋼の刃に魅入られた男は、己の中に宿す獣の本能が待ったをかけた理性を振り切り、質問を続けさせた。
「……」
沈黙を続けたクラウンに、業を煮やしたようにヘインドルは畳みかけるように問いを投げかけた。
「勝利への道筋を見失ったからではないのですか?」
「……」
クラウンは先ほどと同様に沈黙を続けた。しかし、今回の沈黙は意味が異なる。返答に困って言葉が出なかった先ほどとは異なり、図星を突かれたゆえの沈黙であった。
「そうですか。失礼!」
ヘインドルは腰に差した脇差を居合抜きのように即座に左手一本で抜き放ち、柄の部分をクラウンの鳩尾に見事に命中させた。そのあまりの神速にクラウンは反応することができず、胃液を吐き散らしながら地面にへたり込む。
「ゲホ、ゲホ! くっ……ゲホゲホ!」
「恥を知りなさい。刃はあなたの信念そのものです。あなたが勝利を諦めれば、あなたを護り突き進む愛刀もまた勝利の機を失うのです。握った刃に己の誇りを乗せなさい。乗せた誇りを守りたいのであれば、敗北を許すな。勝利に貪欲に、誰よりも己を信じ、刃を振るえ!それが剣士です」
かつての瞳を見た気がした。今は遠き、かつての面影。刀とともに駆け抜けた激動の日々、刀を握らない日はなかった若き日の、血塗られた戦火と戦歴の記録を宿したその目が。
年月を経て安らぎを帯びていた瞳に、今一度、剥き出しの鋭さを取り戻させた。
恐怖した。口調はどこか柔らかく温かみを感じさせたが、その声音は硬く、彼の信念がそこにはあった。
もし、かつての彼がこの場にいたのなら、彼は……何を告げたのだろう。
お読み頂き、ありがとうございます。
▼漫画版はこちら(LINEマンガ インディーズ)
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=19465
※漫画版はストーリーに独自のアレンジが加わっているので、小説版との違いもあわせて楽しんでいただければ幸いです!
この作品を『おもしろかった』『続きが気になる』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。




