第20話:不気味な刃
逃げるべきだったのかもしれない。
初潜入かつ初任務のクラウンにとって、ターゲットの息子たるシナモンとの接触は、あまりにもリスクが高すぎた。
しかし、クラウンの中に撤退の選択肢はなかった。
それは若さ故の驕り――自分なら何とかできるという根拠のない自信であると同時に、ヘインドルという老練の男に対する好奇心と違和感が、撤退という選択肢を完全に失念させていた。
第一、この状況はリスクであると同時にチャンスでもあった。
ターゲットの息子であるシナモンの近くに入り込めば、暗殺のチャンスは跳ね上がる。
クラウンは静かに息を吐き出し、自分がやるべき事を再確認する。
(まずは、シナモンに実力を見せつけ指南役として認めてもらうこと。でなければ、潜入も元も子もない)
スイレンの作戦通りに動くには、これしかなかった。
本来の作戦とは大分異なるが、潜入する方法が他に思いつかないクラウンは、本気で刀を握りしめる。
「では、模擬戦。始めてください」
ヘインドルの号令が鳴り、各々武器を構え、真剣勝負の火蓋が切られた。
しかし、クラウンは舐めていた。
『本気で勝ちにいく』とは決めていたものの、たかが商家のお坊ちゃまと、山で修行を積んだ自分とではあまりに実力がかけ離れていると。
武器を集中的に攻撃すれば、傷付けずに圧勝できる。クラウンのそんな軽薄な考えから生まれた、本来の構えから崩した形に、シナモンは容赦ない一撃を食らわせる。
「っ!?」
一瞬の出来事だった。咄嗟に首を守らなければ、間違いなく首が落ちていた。
それほどの速度と威力が、剣戟を通して伝わってくる。
クラウンは思わず「ヤバい!」と体勢を整えようとするが、続けざまに連撃を打ち込むシナモンの前に一方的になっていた。
見誤った……。クラウンは自分の未熟さを呪ったが、未だに理解できていなかった。
ありえない。
内心、この一言が一番の衝撃として現在進行形で駆け巡っていた。
クラウンとてそれなりの剣術家である。だからこそフォルラと多少なりとも渡り合い、ヘインドルのお眼鏡にかなった。
一定の剣術を修めた者は、普段の身のこなしにも現れるものだ。フォルラは言わずもがな。老戦士であるヘインドルであっても、立ち振る舞いを見れば一発でわかる。
しかし、シナモンにはそれがなかった。
武を修めた者特有の俊敏性も、姿勢の安定性もないこの男が、なぜ強い? クラウンの衝撃は、剣術を真摯にこなした者ゆえの油断から来るものであった。
シナプスが走った。
未来視が発動する時に起きるあの衝動が、クラウンに駆け巡る。
それは、シナモンの連撃をさばけず斬り殺される自分の姿であった。
クラウンは上段から斬りつける刃をギリギリで躱し、逆にカウンターで斬り伏せにかかった。
「あっぶな!」
死を体験したクラウンの心拍数が上がるのに対し、シナモンは余裕を感じる声色であっさりと躱した。
どちらが稽古をつけているのか、端から見ればわからなかっただろう。
それほどまでにシナモンは高みにいた。
相手が貴族の息子、雇い主。そんな事を忘れてしまうほど、本気でカウンターを打ちにいくほどに、本当に危なかったのだ。
「残念。絶対勝ったと思ったのに」
へらへらと無駄話に興ずるシナモンとは対照的に、クラウンの息遣いは本気になっていた。
クラウンは深呼吸をし、やるべき事を修正し整理する。
(さすがに殺すわけにはいかない。だから寸止め、あるいは峰打ちが望ましい。でも、そんなことで勝てるの?……勝てるわけがない)
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