第19話:無知の代償
娼館からほど近いここは、ブリッジダウン家が所有する別邸であった。
大商人と謳われるだけあり、外装も内装も豪華絢爛の一言に尽きる。
吊るされたシャンデリアは豪華を通り越して下品でさえあるこの空間は、田舎出身のクラウンにはいささか居心地が悪い。
ヘインドルに連れられ、玄関を抜け訓練所までたどり着くと。
外見と玄関のせいか、訓練所までみやびかと想像していただけに、クラウンは落ち着いた訓練所の姿に安堵より多少の期待外れ感が残る。
しかし、クラウンは首を振り仕切り直す。
「ヘインドルさん。何で僕を指南役に?」
クラウンは娼館の前で問うた質問を改めて問いただした。
「先ほどお伝えしたとおり、シナモン様から指南役を探すように仰せつかったからですよ」
ヘインドルは落ち着いた口調で静かに返答した。
「そうではなくて、なぜ僕なんですか?」
「それは――」
一呼吸おき、どこか覚悟を決めたかのような真剣な面持ちをしたヘインドルが答えようとすると――
「待たせたな、ヘインドル。準備はできているか?」
レモン色の髪を靡かせた男、シナモンが入室する。
「はい、準備は整っております」
ヘインドルが頭を下げ、敬意を払うのを見てクラウンも急いでヘインドルにならい頭を下げる。
シナモンからみれば田舎出身丸出しの小汚い男として映ったことだろう。
しかし、シナモンはそんなこと歯牙にもかけず話を進行した。
クラウンからすれば意外にも器が大きい男だと感心させたが、老練たるヘインドルにはその真逆の評価であった。
『見ていない。』正確には、『敬意を持たせるにも値しない者』という認識なのだろうと理解していた。
事実、シナモンは新しく迎えた指南役だと言うのに、身元はおろか名すら聞かずあっさりと刀を交えようとしていた。
慢心。最もこの場に相応しい言葉であった。
負けるはずがない。いや、負けることなど考えられない。むしろ、どう戦って勝つか? それだけを考えているかのような立ち振る舞いであった。
「じゃあ、さっそく始めようか?」
「あの、真剣でやられるのですか?」
クラウンは恐る恐る、それでいて少し震えた声で問うた。
場合によっては、その問いは不敬と受け取られても仕方のない内容であった。
貴様が『怪我させられるとでも?』と言われ斬り掛かってきても文句は言えない。
しかし、クラウンは不敬と理解した上での問いであった。
勿論、斬り伏せられる可能性があるだなんて想定が出来ていればこんな問いをすることはなかったが、田舎者であるが故の無知が敬意を履き違え不用意に質問を投げかけた。
「ああ、構わないだろう? 君も刀は持ってるし、傭兵なら五、六人は斬ったことがあるだろ?」
「いえ、僕は……」
「そう? でも悪いけど、家には稽古用の木刀もないし、君も傭兵ならある程度人を斬る覚悟がないとね」
「クラウン殿、遠慮は要りません。思う存分刀を振ってください。シナモン様もそれがお望みです」
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