16 搾取される者
茶屋を出たクラウンは、ミロットに挨拶をしていた。
「じゃあ、私は帰るから。あとはよろしくね、クラウン」
「はい!ありがとうございます!」
力強く上げた返事に、ミロットは笑みをこぼした。
一点の翳りもない澄んだ瞳。
その瞳は、力の差をものともせず強者と渡り合ったあの瞳であった。
ミロットはクラウンのこの目が好きだった。
純粋であり、穢れを知らないこの瞳が。
革命軍に半ば強引に引き込んだものの、内心、純粋な少年にこんな血生臭い世界に引き込んでしまった事に後悔の念もあったが、ミロットはクラウンの笑顔を見た瞬間確信した。
「おぉー!なんだなんだ!お姉さん相手にいっぱい吐き出して気持ちよくなったか!」
「いやそういうわけじゃ!」
「まあ、何はともあれ。死ぬなよ、少年!」
「はい!」
ミロットはクラウンの頭をくりくりと撫でたあと、片手を軽く振りながら去っていった。
「よし!」
クラウンは今一度決心するように頬を三度リズムよくパンパンパン!と叩き気合い入れる。
クラウンはこれから立ち向かう相手を見据えるように、巨悪の巣窟と化した城へと視線を向ける。
すると、
「お兄ちゃん!スイカお姉ちゃんを助けて!」
悲鳴にも似た、焦燥感に満ちた声が響いた。見覚えのある少女が、顔を真っ青にして、縋るように走ってくる。
その後ろには、静かにスイレンが佇んでいた。
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再び茶屋に戻ったクラウン達は、クラウンとスイレンが横に並び、それに対する形でメロンがいた。
「あの、それでどうしたんですか?」
クラウンが涙ぐむメロンに恐る恐る聞くと。
泣きじゃくった反動でくる嗚咽で声がロクに出せず、スイレンが口を開く。
「この子のお姉さん。スイカとかいう人が、攫われたらしいよ」
「どうしてそんなことに!」
淡々と応えるスイレンとは対照的に、クラウンは動揺し思わず声を荒げた。
「僕もその場に居合わせたわけじゃないからよく知らないけど、多分奴隷売買に捕まったとみて間違いない。下町の住民達の人権は保障されてないから、下手な田舎よりよっぽど危険なんだよ」
確かにその通りであった。
田舎育ちのクラウンにとって作為的な犯行とは縁遠いものであった。
勿論人がいれば何かしら衝突やトラブルは起きるが、それでも殆どの場合がモンスターによる被害がほとんどで人間同士でなぜそのような問題が起きるのかクラウンには理解できていなかった。
「お兄ちゃん達って傭兵なんでしょ。お姉ちゃんを助けてよ」
少女の涙に、クラウンの胸は締め付けられた。
「う――」
クラウンが返答しようとしたその時――
「お金払えるの?君たち一般人が、この国の権力者を敵に回すだけの額を」
スイレンが静かに問いた。
「スイレンさんそんな言い方」
「事実でしょ?白昼堂々人攫いなんて、よほどの権力がなければできないよ。事件の隠蔽、捜査打ち切り、立件見送り、不起訴処分。法に縛られる程度の僕たちが、法すら適用されない人間達に喧嘩を売るということがどういうことなのか知らないわけじゃないだろ?」
事実、今の権力者達に真っ向から喧嘩を売れるのはそれこそ革命軍しかいない。
そして、その彼らを動かすには金がいる。
聞いた話によると、復讐に燃えたとある女性は身売りまでしたという。
この少女が革命を動かすにはそれしかない。
スイレンは、メロンにその悲劇の道を進ませないよう、あえて冷たい言葉を選んだのだった。




