第12話 皇都へ
作戦会議を終えたクラウンは、二階のベランダへと向かった。ミロットの話では、スイレンは何かを思案する際、いつもそこを定位置にしているという。
ベランダの向こうには青い空が広がり、籐椅子に腰掛けたスイレンは、足を組み、遠くを見つめていた。
手元のカップには触れず、その視線はどこまでも深い。通り抜ける涼やかな風が、長く流れる髪を揺らす。彼女がここを好むのは、この静寂にあるのだろう。
テーブルに置かれた紅茶からは、おそらく長時間経っているのだろう、すでに湯気が立っていなかった。
「スイレンさん、作戦が決まりました」
「そう」
クラウンは話しかけたが、彼女は視線も向けず、ぶっきらぼうに返した。クラウンは内心「話しづらい」と感じながらも、軽く息を吐き、仕切り直すように話し始める。
「えっと、すみません。先に自己紹介ですよね。僕は――」
「いいよ、君のことは聞いたから。それに、僕はまだ君を認めてない。ここの人達は君に甘いけど、僕はよそ者を信用しないようにしてる」
自己紹介すら許されないのか。
クラウンとスイレンの間には、気まずい空気が流れる。こんなにも気持ちのいい場所なのに、息がしづらいのは、クラウンの人生で初めての経験であった。
「そうですか……。えっと、じゃあ作戦を伝えますね」
クラウンは対処に困った。しかし、ここで諦めてはいけないと首を振り、もう一度対話を試みるが――
「行くよ」
スイレンは唐突に立ち上がると、静かに言葉を残しクラウンの傍を通り過ぎていった。
「え?あの!どこに?」
「ボスから皇都を見せてやれって言われたからね。今から行くよ」
「でも!作戦が!」
「作戦?そんなに大層な策なの?」
「いや、それは――」
「はぁ。言っとくけど。僕、君のこと嫌いなんだよね。実力も、この国の現状も理解しないで勢いや衝動に駆られて軽はずみに仲間になるとか言っちゃう人」
スイレンの言葉に、クラウンは何も言い返せなかった。
この国の現状も、ミロット達に言われるまで何一つ理解していなかった。
戦闘にしてもそうだ。ミロットに一撃入れるどころか、まともに剣戟すら交わすことなくあっさり決着がついてしまった。他の革命軍メンバーとは明らかに実力に差があった。
「まぁいいけどね。君が死んでも誰も困らないから。わかったら、全部僕に任せてよ。それで僕達との力の差を理解できたら、本部の雑用でもしててよ」




