第11話 心構え
クラウンは医務室で改めて治療を受けていた。
ミロットとの交戦で開いてしまった傷の手当てを受けるためだ。それと並行して、今回の作戦会議が行われていた。
「あの、すみません。また治療してもらって」
申し訳なさそうにクラウンが言うと、治療を行っているフレーネが答える。
「いいですよ。今回は力は使いませんし、前回もなるべく自己回復での完治を想定していたので、あえて深部に触れてはいませんから」
医務室での作戦会議に参加しているメンバーは、作戦の実行役であるクラウン、謎の少女、そして治療中のフレーネ、さらに、なぜか参加しているミロットの四人だった。
「あのさぁ、何でミロットがいるの?」
謎の少女が、不満を隠そうともせずに声を上げた。比較的鈍いクラウンにも、その声からは、仕事に対するプロ意識だけではない、わずかな私情が感じ取れた。
「別にいいじゃん、仲間なんだし」
ミロットがけろりとした様子で返答する。
「……別にいいけどさ。これだけ頭数がいれば僕は必要ないね。決まったら言ってよ。完璧にこなすから」
少女はミロットの返事に小さく鼻を鳴らすと、さっさと医務室を出ていってしまった。
気のせいだろうか? クラウンは、彼らの間に何か直感的に感じるものがあった。
「あの方は?」
クラウンの問いに、ミロットは明るく答える。
「あれはスイレン。私らのメンバーだよ。少し無愛想だけど、腕は確かなんだ。安心しな」
「そうなんですか」
クラウンとは対照的に、ミロットは少女の態度をあっさりと受け流した。
「それより、今回の作戦はどうするんですか?」
フレーネの言葉に、ミロットは顎に手を当てて考える。
「そうだねぇ。私だったら皇都に着く前にサクッとやっちゃうけど。そもそも、何で皇都に来るの?」
「巫女が新たに擁立されたそうですよ。式典はそのお披露目と宣言でしょう。どうせお飾りなんでしょうけど」
フレーネは一時的に手を止めると、ヴェーラから受け取ったファイルから1枚の写真を取り出した。
「巫女って、まさか占いとかするんですか?」
クラウンはフレーネが取り出した写真を受け取ると――
「まさかですね。皇国は、それぞれの役職を司る元老院によって統治されています。ですが、彼らはあくまで補佐。『巫女』と呼ばれる神の代弁者の神託に従い国を運営し、その過程の細事を元老たちが取り決めるというのが、この国の現状です」
写真にはまだ幼い少女が写っていた。
嫌な予感がした。いや、そんな生易しいものではない。悪夢とも思える卑劣で、悍ましい可能性、あるいは確信とともに、村での惨劇がクラウンの脳裏に駆け巡った。
「つまり?皇国は、巫女と呼ばれる少女の言葉を免罪符に、この国のルールを作っていると言うことですか?」
「そうですね。」
「どこまで腐っているんだ!自分たちが行った政策すらも、巫女一人に押し付けるのか?」
クラウンの声色には、確かな怒りが滲んでいた。
「いい目だ、少年。人を動かすのは心だ。そして、怒りはその最たるものだ。だが、少年。我々は政治家でも、正義を掲げた革命軍でもない。私たちは、とうの昔に正道を捨てた。」
「っ!我慢しろとでも言うんですか?」
歯を食いしばった。腹の底が熱くなる感覚があり、時間とともにせり上がってくる。
「違う。それは『秘めろ』と言っている。」
ミロットは静かに応えた。毅然とした面持ちで、クラウンを見据えながら暗殺者としての心構えを説く。
しかし――
「でも、どうしても抑えられなくなったのなら、私が聞くよ。暗殺稼業を生業にしている私たちが頼れるのは、仲間だけだからね」
彼女の言葉は次第に柔らかさを帯び、毅然とした態度はいつの間にか消えていた。
「それと――」




