第10話:不適な少女
「クラウンがある程度うちの業務内容を理解したところで本題に入るぞ。今回の仕事は西方をおさめる成り上がりの新興貴族を殺せとの本家からの命令だ。ターゲットは一人。ブリッジダウン家当主、ディアファン。」
ヴェーラはターゲットの人相が載った紙をペラリと全員に見せつけた。
「西方?だったらかなり遠いけど、遠征して殺しに行けってこと?」
ミロットは不思議そうに答えた。 革命軍は、それぞれ担当区画が与えられており各地に散らばっている。
クラウン達アッシュ・ドッグズが担当しているここは中央――つまりは皇都とその周辺であった。 わざわざ他勢力、それも中央の人間にまで助力を依頼することに違和感を感じていた。
というのも、他勢力にわざわざ依頼を出すということは自分たちでは対処できません。と公言しているようなもので、革命軍内での発言力を失うのと同義であるからだ。
加えてミロットが疑問に感じていたポイントはもう一つあった。 それは、革命軍が正義を掲げているという点であった。 彼らは自らの革命に誇りをもっている。
それ故、アッシュ・ドッグズのような影の仕事(暗殺、内部調査、工作活動)をしている者たちに嫌悪感を抱いていた。
そんな者たちが依頼するのか?と腑に落ちなかった。彼女は軽く腕を組み、不満げに鼻を鳴らした。
「え?それってそんなに珍しいことなんですか?」
革命軍であれば誰でも抱く疑問であったが、新人であり世間知らずのクラウンは理解できず純粋に質問を投げかけた。
「ああ。さっきも言ったけど革命軍も一枚岩じゃない。だからこそ複数の組織があって、担当区画も決まっている」
ヴェーラはノッチが用意した棒付きキャンディーを口に咥え、面倒くさそうに応えた。キャンディーの棒を指で揺らす仕草が、彼女の退屈さを物語っている。
「そんな」
クラウンはまた一つ大人の世界を知ると、テンションが数段階落ちた。
「同じ目的を掲げていても、それぞれ守るべきものが違ったら戦術も仕事内容も変わるさ」
ミロットはクラウンに正面に向き合いながら、静かに伝えた。
「ですから不思議に思ったんですよね?私たちみたいに元が同じ組織ならまだしも、ライバル意識がある他勢力に依頼するなんて」
ミロットに続き、フレーネも賛同すると――
「お前ら話聞いてなかったのか?今回は依頼じゃねぇぞ。命令だ。つまり私らの本部からの要請だ。今回のターゲットであるブリッジダウンは、皇都で開かれる式典に参加する予定だ。わかりやすくいやぁ、そっち行ったから殺しといてくれって話が本部に来たが、面倒だから私らに回ってきたってことだな」
ヴェーラは心底嫌そうに人相書きの紙をぷらぷら揺らしながら応えた。
「うわぁー押し付けの押し付けじゃん。」
ミロットは肩をすくめた。その表情は、この手の厄介事には慣れているようだった。
「んで、私も面倒だから適当に人選決めんぞ。そうだなぁ、せっかくターゲットが皇都に行くんだ。クラウン、仕事がてら皇都でも見てこい。お前らが憧れた国の現状を。あと1人ぐらい欲しいよな。」
「は~い!ボス私がやるよ!私が連れてきたし、指導係は私でいいでしょ?」
ミロットがすかさず挙手した。 その瞬間クラウンは内心「ぇ゙!?」と声を挙げた。 それもそのはず、出会って間もないというのに彼女に何度殺されかけたことか。
彼女の指導係=命の危険、という方程式がクラウンの頭に浮かんだ。 例えフレーネに回復させてもらって死を免れたとしても、このままミロットと一緒にいたのでは、いずれクラウンの生命力が底を尽きてしまう。
「そうだ――」
ヴェーラがミロットの提案受け入れようとした瞬間、クラウンの本能が止めろ!と叫び今まさに声を上げようとした直後――
「悪いけど、新人教育なら僕がやるよ。ミロットだとそこの子に甘そうだし。いいよね、ボス?」
玄関の扉が開くと同時、声が響いた。 すかさず視線は一人の少年、いや、少女へと集まる。
少女は薄鈍色の肩口ぐらいの髪を揺らしながらこちらへと向かい、クラウンのちょうど真横ぐらいで足を止めた。その視線は、クラウンを品定めするように、じろりと向けられた。
「構わないか?ミロット」
「チェッ。分かったよ」
ミロットはヴェーラから視線を向けられると、渋々であったが納得した。彼女は不満そうに、唇を尖らせた。
「決まりだね新人君」
謎の少女がクラウンへ不敵に笑って、そう告げた。
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