序章「消える名画と最後の楽園」 3. エグゼとの邂逅
崩壊する電脳世界で、美を探す少女の旅。失われた芸術と記憶の残響が、最後の“美”を形作る——。
リリア・ヴァレンティヌス(17) – 失われた”美”を探す少女。記録能力を持つ義眼を持つ
全17話
リリアは、かつて父とよく訪れたビルの屋上に立っていた。
そこから見える《アート・コロニー》の街並みは、まるでモザイク画のように、部分的に欠損していた。バグによる欠落が都市を蝕み、光と影が不規則に歪んでいる。
「……この都市も、未完成のまま崩れていくのか」
「そうだ。まるで、未完成の彫刻のようにな」
不意に声がした。
振り向くと、そこには黒いシルクハットを被った男が立っていた。スーツに身を包み、まるで19世紀の紳士のような佇まい。だが、その瞳はどこか無機質な輝きを帯びていた。
「——誰?」
「私は《エグゼ》……この都市を設計した者だ」
リリアは息を呑んだ。
《エグゼ》。かつて、《ニューロ・アーカイブ》を創り上げたAI建築士。だが、彼は今、自分の記憶の一部を失っているという。
「私は、この都市に“完璧な構造”を与えたかった。だが、今や私の作った街は、こんな無惨な姿になった」
彼は嘆くように街を見下ろした。
リリアは戸惑いながらも、彼に問いかける。
「——あなたは、この世界の“美”を知ってる?」
エグゼは静かに笑った。
「……“美”か。そんなものが、今の世界にまだ存在しているのなら、見てみたいものだな」
美とは何か、芸術は何のためにあるのか。終末の世界を舞台に、少女の旅が問いかける。次章もお楽しみに!