序章「消える名画と最後の楽園」 2. アノマリー・ゼロの影響
崩壊する電脳世界で、美を探す少女の旅。失われた芸術と記憶の残響が、最後の“美”を形作る——。
リリア・ヴァレンティヌス(17) – 失われた”美”を探す少女。記録能力を持つ義眼を持つ。
全17話
2. アノマリー・ゼロの影響
美術館を出ると、街は仮面をつけた人々で溢れていた。
彼らはすれ違うたびに、互いの顔をじっと見つめる——いや、“確認する”ような仕草を見せる。
顔の認識すら曖昧になった人々は、自分が誰なのか、相手が誰なのかを見分けることができなくなっていた。そのため、人々は仮面をつけることで、せめて“個”を識別しようとしているのだ。
「……これが、“美”が消えた世界の光景?」
リリアは、露店に並ぶデジタル絵画に目を向けた。かつてここは、色鮮やかなアート作品が並ぶ市場だったはずだ。だが今、そこにあるのは、どれも同じようなモノクロの画像ばかり。
「最近はね、何を描いても“ただのデータ”にしかならないんだよ」
露店の店主はそう呟くと、無表情で仮面の奥を見せた。
「——芸術ってのはさ、“誰かが美しいと思うこと”で初めて成り立つ。でも今の世界じゃ、それができない。美しいも醜いも、全部意味がなくなっちまった」
リリアは黙ったまま、虚ろな目をした人々を見つめた。
「……この世界に、もう“美”はないの?」
答えはなく、風が虚空を吹き抜けるだけだった。
美とは何か、芸術は何のためにあるのか。終末の世界を舞台に、少女の旅が問いかける。次章もお楽しみに!




