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第二章「データの海と仮面の都」 3. 仮面の住人との対話

美のない世界を肯定する仮面の住人たち。彼らの言葉は、リリアの”美しさ”への価値観を揺るがしていく。

リリア・ヴァレンティヌス(17) – 失われた”美”を探す少女。記録能力を持つ義眼を持つ。

エグゼ(年齢不詳) – 電脳建築士AI。皮肉屋だが記憶を失っている。

全17話

「——君は、なぜそんなに怯えているんだい?」


突然の問いかけに、リリアは息を呑んだ。


広場の中央で、白い仮面をつけた住人が静かにこちらを向いていた。いや、見ているのかどうかも分からない。 仮面には目も口もなく、ただの滑らかな白い平面があるだけだった。


「私は……怯えてなんか……」


言いかけて、リリアは言葉を飲み込んだ。


自分の両手が小さく震えていることに気づいたからだ。


「……だって、みんな顔がないんだよ? それが怖くないの?」


住人は首を傾げ、淡々とした声で答えた。


「怖い? それはなぜ? 私たちは、ただ“顔を捨てただけ”だ」


「捨てた?」


「そう。顔を持たなくなったことで、私たちは自由になったんだ」


「……自由?」


「かつて、私たちは顔という“見た目”によって判断されていた。美しい者は称賛され、醜い者は嘲笑された。たったそれだけのことで、人々の価値が決まり、優越感が生まれ、劣等感が生まれた」


「……それは……」


「でも、顔がなくなってから、私たちは初めて本当の個性を知った」


「本当の……個性?」


「私たちを区別するのは、もう容姿じゃない。声や言葉、仕草、考え方……本質的な部分だけで、互いを認識するようになった。外見に惑わされることなく、純粋に“中身”で付き合える社会になったんだ」


リリアは、広場を見渡した。


白い仮面をつけた人々が、淡々とした動きで言葉を交わしている。そこには、感情の起伏はほとんどない。美しさも醜さも、嫉妬も憧れも、すべてが取り払われた世界——。


「そんなの……おかしいよ……」


思わず、リリアの口からこぼれた。


「美しさは、見えるものじゃないの?」


「美とは、何かが優れていると感じる心の作用だろう? ならば、それは本当に“見た目”に左右されるものなのかい?」


リリアは言葉を失った。


——美とは、視覚の問題なのか?


——それとも、感じる心の問題なのか?


すると、エグゼが静かに口を開いた。


「リリア、お前は何を恐れている?」


「……何をって……」


「彼らが“顔を捨てた”ことが怖いのか? それとも——」


エグゼは、ほんのわずかに間を置いた。


「“顔がなくても生きていける”という事実が怖いのか?」


「……!」


リリアは息を呑んだ。


「美は“見えるもの”だと思っていた。でも、それがなくなっても彼らは生きている。じゃあ、美って何? 私が今まで求めていたものは、一体何なの?」


エグゼはゆっくりと視線を巡らせた。


そして、まるで過去の誰かに言い聞かせるように、静かに言った。


「お前は、“美を定義できる”と思うか?」


リリアは、言葉を失った。


「……できないの?」


「かつて、誰かがそれを定義しようとした」


エグゼの声は淡々としていた。

けれど、その言葉にはどこか——**「確かめるような響き」**があった。


「だが、それは正しかったのか?」


リリアは、唇を噛んだ。


——私が探している美って、一体なんなの?


外見を超えた美? それとも、私が“美しい”と感じたものだけが美なの?


エグゼの問いが、仮面の住人たちの言葉と絡み合う。


“美は定義できるのか?”


“定義しようとした者は、正しかったのか?”


リリアの胸の奥に、言葉にならないざわめきが広がっていった——。

顔を持たない人々は、美を捨てたのではなく、新しい価値を見つけていました。リリアの揺らぎを、あなたはどう感じましたか?

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