序章 消える名画と最後の楽園 1. 崩壊する仮想都市
崩壊する電脳世界で、美を探す少女の旅。失われた芸術と記憶の残響が、最後の“美”を形作る——。
リリア・ヴァレンティヌス(17) – 失われた”美”を探す少女。記録能力を持つ義眼を持つ。
全17話
電脳都市は、静かに死にかけていた。
本来ならばこの街は、光と色彩に満ちた芸術の楽園だったはずだ。だが今は、データ欠損が街のあちこちに暗い穴を穿ち、建物は朽ちるように崩壊している。空には、ノイズ交じりのバグが漂い、黒い粒子が雨のように降り注いでいた。
リリアは、美術館の巨大な扉を押し開けた。館内は、まるで音が消えたかのように静かだった。
「——間に合って…!」
駆け込んだ展示室。そこにあるはずの絵画《最後の楽園》は、無数のノイズに侵され、すでに輪郭すら判別できなくなっていた。
色が溶け、線が歪み、形を成さないデータの残骸。かつては父が描いた傑作だったはずのそれは、もはやただの“崩壊する画面”に過ぎなかった。
「やっぱり……もう消えかけてる……」
彼女は震える手で、「フォト・アイ」の記録機能を作動させた。
——カシャ
だが、保存されたデータを確認すると、そこには何も写っていなかった。
ノイズとバグが支配するこの世界では、美の欠片すら残らない。
「《アノマリー・ゼロ》の影響……」
ウイルスによって“美醜の概念”を失った世界。芸術は無意味なデータとなり、色彩はただの無機的な情報の羅列に成り果てた。
「……美術館の記録データを復元できません。」
無機質なアナウンスが繰り返される中、リリアは崩壊する名画の前で立ち尽くしていた。
美とは何か、芸術は何のためにあるのか。終末の世界を舞台に、少女の旅が問いかける。次エピソードもお楽しみに!