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因縁

2006年 東京都 獄界町

 獄界町の中心にあるホテル「獄界ビューティ」の三階の食堂に次々と黒いスーツを着た強面の男達が入っていく。ホテルの入り口付近には複数の高級車が停まっている。

 向かい側にはショッピングモールの立体駐車場があったが、そこにはパトカーが複数台とまり警官達が向かい側のホテルを注視しているようだ。

 「獄界ビューティ」では今回獄界町を支配する二つの極道組織間の緊急会議が開かれるのだ。いずれも善輪会系の三次団体で一つは仁義を重んじる善輪会の機動部隊原山太闘会米田組。もう一つは善輪会の中核組織の一つでもある金山組小原一家だ。この二つの組織は三次団体でありながら日本最大の極道組織善輪会内での影響力はすさまじいと言われる。会合が開かれるのであれば暴力団に大きな動きが出る可能性があった。

 

 米田は闇医者押坂からの電話を受けながら会場に入った。「胡桃さんですがね、リハビリを終えたら退院できると見立てていました。だけど・・・リハビリ最中に血を吐きました。」「ん!まじか先生!?」「ああ、本当ですぜ。だからもうしばらく入院ですね。」「助かります。ありがとう。」

 電話を切ると星山は既に着席している米田組本部長勝田の隣に腰を下ろす。向かい側には実質小原一家を仕切っている若頭の片山がいた。彼と星山は一瞬にらみ合う。

 「米田組長、到着です!」とのホテル警備員の声がして組長付きの長瀬と土井を連れた米田組組長米田が入って来た。険しい表情で片山を睨んでいる。

 「全員そろったようですので・・・始めましょうか。」星山は威圧感を出すように口を開く。それに対して片山が答えた。「そうですなあ。しかし事前に頂いた書面の内容はちょっとうちとしては心外ですなあ。」「心外?そうだったかもしれませんな。だがねえ・・・あんたがたなら私らの性格をしっとるでしょう。証拠もなくあんたが藤堂と林田を殺害した黒幕なんじゃねえかと言ってるわけじゃねえ。こいつからの情報ですぜ。」そう言って米田は鞄から書類を取り出して放り投げる。「ふうむ・・」とそれを受け取ったのは統括本部長の栗林だ。「こりゃあタイ人どものものかな。」「そうですよ。そこにねえ、あんたの名前があるんですよ片山さんよお!」勝田が詰める。「あんたは藤堂と林田の殺害をこいつらに依頼した。ちがいますかねえ?」と星山も身を乗り出す。

 片山はふん、と笑って言う。「タイ人どもにとっては俺たちヤクザは邪魔者だ。俺たちが善輪会の下で各シマを管轄しているおかげで奴らは好き放題できねえ。だが・・・俺たちの間に不和を引き起こせば善輪会の勢力を削げるとでも考えたんじゃねえですか?」「なるほどなあ・・・俺たちがあんたを疑うようにタイ人どもが仕向けたと?」と米田。「まさしくその通り。米田さん、あんた頭切れるんだからそれぐれえ考えが及ぼねえとな。」と馬鹿にしたように言う片山に対して星山は詰める。「おいあんた、そのような馬鹿にした態度は俺ら極道が一番いやな態度だぜ。あんたも極道なら分かるだろ?」「分からんね。で、この件はもうここでおしまいか?今から傘下の族の総長協議会に呼ばれてんだよ。時間がねえから帰るぞ。」そう言うと片山は米田組側からの返事を待たず、連れて来た幹部とボディーガードを連れて出て行った。「おい待てこの野郎!」星山は叫んだが一瞬振り返った片山はにやにやして言う。「今このホテルは堅気も宿泊してる。堅気にあんたの怒鳴り声を聞かせたいんか?ああ?」「この・・・」星山が拳を作ったのを見て米田が慌てて止める。「星山、ダメだ!」「でも親父、あの人を食ったような態度はさすがに許せねえっすよ。」「ああ・・・分かってる。そしてタ・ロー組の依頼書の裏もとれた、と俺は見ている。」「それは、つまり・・・」「ああ、藤堂と林田殺しの黒幕は小原一家だ。あの態度で確信した。そして最近シマ荒らしを始めた魔瑠狗須のケツ持ちも・・・小原一家だ。」「ああ・・・これは何とかしねえといけませんな。」「そうだな。奴らとは戦争開始だな。」と米田はどすのきいた声で宣言したのだった。


翌日

 組長室から出てきた男に星山は挨拶する。「お疲れ様っす室谷の叔父貴!」「ああ、お疲れさん。実はなあ、俺が事務所に雇った探偵の奴がおかしな金の流れをつかんだ。」「おかしな流れ?」「ああ。根城金融の連中が本来組に納めるべき上納金の一部が小原一家のシマにある謎の広告代理店に流れてる。今そのことで米田の兄貴と話してきたところだ。近々根城どもを詰めることになるぜ。」「根城・・」と言って星山は唇をかんだ。それをみて室谷は言う。「そうか・・・奴はお前に因縁がある闇金だったな。」「ええ。」と険しい顔で星山は答える。


 星山が生まれた家は他の家に比べて裕福であった。父親はとある大企業の副支社長をやっており、母親は大人気の芸能事務所長の娘であった。星山は両親の援助を受けてレベルの高い高校に入学した。はたから見れば順風満帆、平凡な人生だ。

 だが彼らの家が金持ちであるがゆえによからぬ考えを抱く連中につけ込まれた。奴らのうちの一人は賭博ビジネスを行っていた。その男柄島は父親に接触して合法の賭博アプリを勧めた。父親は趣味程度にそのアプリを始めたが、嵌まってしまった。そこで柄島は別のアプリを勧めた。そしてそれにも嵌まり父親はまた別のアプリに手を出した・・・柄島の計算通りだ。後から知ったことだが、このアプリは実際には賭けとして機能していなかった。常に賭けに勝てるように作られていたのだ。それにより父親は賭博は金を増やせる方法であると思い込むようになってしまった。

 柄島はここで第二段階に移行する。彼が行っている賭博場に父親を連れ出したのだ。当時の父は賭博にはまりっきりで仕事も疎かになっていた。柄島が堕落させたのだ。違法賭博場に連れて行かれた父親は嵌まってしまい、仕事の能率も益々低下し、遂に降格処分を下されてしまった。家庭内の性格も豹変し、母親や星山への暴力が目立つようになっていった。父親は完全に堕落した。

 そのタイミングで現れたのが渡辺だ。彼はホストクラブの経営者で、母親に接触した。「家がつらいなら私たちのところに来ると良い」と不気味な笑顔で言った渡辺の言葉に乗ったのが母親の運の尽きだ。母親は渡辺とその部下のホストの手によって「ホス狂い」になってしまったのだ。

 星山は両親の世話を受けられなくなっていった。父親は賭博場、母親はホストクラブにいることがおおくなったのである。父は会社を辞め、母は家事を全くしなくなった。

 そんな彼らに接触したのが闇金の根城だ。奴と柄島と渡辺は組んでおり、自分達の「いいカモ」として星山一家を選んだのだ。根城は父親と母親両方に別々に接触し、父には賭博用、母にはホストに貢ぐための金を貸した。二人は最初のうちは返済できていたものの徐々に返済に遅れがみられるようになっていった。だが根城はあえて追及せず、仲間の闇金業者に返済のための金を貸させた。だがあると根城は全ての債権を買い取って莫大な借金の返済を求めた。返済できない父親は自殺し、返済できない母親は渡辺が管理しているホストクラブの系列店であるキャバクラに飛ばされた。その後母親も自殺した。

 根城は粘着タイプの闇金であった。星山家が「パンク」すると当時は高校三年生であった星山泰全に借金返済を要求したのだ。泰全を引き取ってくれる親戚はいなかったが根城の仲間の暴走族総長藤代が彼に「居場所」を提供した。それこそが地下格闘技場だ。星山泰全は見世物となるために裏社会の格闘家達に鍛え上げられた。荒んだ心境を暴力で表現した彼の残忍性はたちまち人気となったが、泰全の気は上向きになることはなかった。藤代と根城にいいように利用されているのが分かっていたからだ。


 星山は過去を回想したもののそのあと真剣な表情で言う。「奴は確かに俺の人生を壊しました。ですがそれは関係ない。俺は米田組若頭として奴を締めます。」


4日後 

 「何十年かぶりだな。」と苦笑してから星山は舎弟の中安と桜井を連れて目の前のビルに向かった。

 このビルのオーナー名義は米田組長の愛人となっている。つまり、実質的には米田組の所有物だ。

 「奴の事務所は4回だった筈だ。」と言って星山はエレベーターのボタンを押す。

 高校生の頃によくここに来ていた。根城に借金を返済するために。4階まで上がり、「根城金融」と書かれたプレートの扉を入ると・・・あの男が待ち構えていた。悪名高い闇金根城。気持ち悪い笑みを浮かべて獲物を見つめていた。

 やがてエレベーターが到着すると星山は気合いを入れた。根城金融からの金の流れを確かめなければならない。

 そのとき、エレベーター内からアウトローな雰囲気の男が現れた。「!!」星山はその顔を見て驚いた。「藤代⁈」その男は昔根城の仲間で地下格闘技を運営している暴走族集団「烈火隊」の総長をしていた藤代だ。

 「おお・・・星山さんかあ。あの脳筋が今は立派な若頭さんとはねえ。」と言う藤代に対して星山は問う。「なんであんたがここにいるんです?」「ああ・・・根城からの集金だ。」「あん?集金?根城のケツ持ちは俺らだ。奴は俺らにみかじめ払わなきゃならねえんだわ。」と中安が問い詰める。だが藤代は冷笑で返す。「あんたら何言ってるんだい?根城のケツ持ちは小原一家になった。」「何だと!?うちの親父の同意の上か?」と星山が問い詰めるも藤代はあいかわらずの冷笑で答えた。「エレベーター、しまっちまうぜ。」


 「くそが!兄貴、今度奴ら全員ハチの巣にしましょうや。」と息巻くのは舎弟の桜井だ。細身で筋肉は少ないものの、その分チャカの精度を鍛えて一流のヒットマンになった。

 「ああ。どうやら叔父貴がつかんでいた情報は確からしいな。根城金融からは確実に金が小原一家に流れている。」と星山が答えたところでエレベーターが到着した。

 降りた目の前に星山の記憶を呼びおこすいまいましいプレートが見える。「根城金融」


 根城は昔と変わらない不気味な笑顔で一行を迎えた。「困りますぜ、アポとってからきてくれねえとなあ。でもいいや、星山若頭、あんたは俺の旧友です。あんたに免じて今日は話をききやしょう。さ、おかけ下せえ。」「おい根城、誰に口聞いてんの?」と中安が言うといきなり机を蹴った。「おっと・・星山さん、この血の気が多い連中帰してくれません?」「ふん。それは俺が決める。俺はこいつらを帰さねえ。」「はい?」

 星山はいきなり机を飛び越えた相手のシャツの胸倉をつかむ。「おい根城、てめえ米田組を裏切ってんじゃねえよ!」「は、はい?」根城は少し焦る。借金返済のために来ていたあの頃の馬鹿な星山はそこにはいない。

 「さっきよお、藤代と会ったんだわ。野郎、小原一家があんたからみかじめ貰ってるって言ってたぞ。」すると根城は歪んだ笑みを浮かべた。「ハハ・・・その通りだ!俺はあんたら米田組とはもう縁を切ってやるよ。て、てめえが米田組に入った後俺のやり方を連中にチクったせいで山城とかいうヤクザが出張ってきやがったんだ。野郎、藤代の先輩だからって調子のって指図してきやがった。堅気に迷惑はかけるやり方はやめろだのうるせえんだよ!あんたらが勝手に俺のケツ持ちになりやがったせいでこっちは好き勝手できなくなったんだよ!」「ほう、そうかい。だから裏切りやがったのかこの野郎!」と言うと星山は根城の首根っこを押さえたままその顔面にパンチを叩き込んだ。「うっ!」根城の鼻から血が出る。「あんたの残虐性は藤代から聞いてるぜ。なるほど、こりゃあひでえ・・・うっ!」星山は二回目のパンチを繰り出した。「小原一家と縁を切れこの野郎。」「い、いやなこった。小原一家の連中は俺のやり方を尊重してくれるからな。あんたらと・・うっ・・・違って。藤代が小原一家に入ったのもあんたらの、れ、烈火隊に対するそ、束縛がひどかったからだぜ。」「そりゃあ悪いことをしちまったな。じゃあ解放してやるよ。」と言って星山はナイフを取り出した。

 「ま、待てよ。星山さん、考えて下せえよ。俺は確かにあんたの両親を追い詰めたかもしれねえけどよお・・・俺がいなかったらあんたはい、今米田組にいねえよ。あ、あんたに声かけたの山城だろ?俺があんたを藤代のとこに送らなかったらあんたは山城に声かけられることはなかったんだぜ?」星山はそれをきいても表情を変えずに言う。「演説は終わりか?」「わ、悪かった。あんたの人生をぶっ壊して。や、山城さんの言うことは正しいです。堅気に迷惑をかけるべきじゃありませんな。こ、これからはあんたらの言うとおりにしますから。お、小原一家とも縁を切りますぜ。」「ほう。殊勝だな。本当に縁を切るんだったら俺らは帰るぜ。」と言って米田はナイフをしまった。

 「ふん。」と笑って根城はハンドガンを取り出す。「死んどけ星山ぁ!」「兄貴!」桜井が即座にピストルを抜いて根城の手を撃ち抜いた。

 「ふん。思った通りだな!あんたは性根が腐ってるんだよ。」そう言って星山は根城の撃たれた手首を強く蹴ってハンドガンを飛ばす。「ゆ、許してくれ・・・あんたにはひでえことをしました。償いをさせて下せえ・・」と根城は情けない声で言う。だが星山は冷淡に言い放つ。「てめえ、何か勘違いしてねかな?俺は過去の恨みをぶつけるために来たんじゃねえよ。てめえが米田組を裏切ったからきたんだよ!」と言って再びナイフを取り出す。「あ、あ・・・た、助けてぇ!」とかぼそい声で叫ぶ根城。

 「おいおいあの頃の度胸はどうしたあ!」と叫ぶと星山は相手にタックルを仕掛けたまな体重を乗せた押さえつけ、その足にナイフを突き刺した。「痛てえ!」と叫ぶ根城。星山は笑うと「俺の大切にしていたものだけど、あんたにやるよ。」と言ってポケットから取り出したライターに火をつけて根城の口に放り込んだ。



 

 

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