表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/44

殺し屋フォン

2006年 東京 獄界町

 「ここが幹部の江藤がいるところか?」と星山は舎弟の有馬に聞く。「ええ、俺のダチの情報だとここに奴がいます。ヤクの管理をしているそうで。」「そうか・・・奴らは俺らにとっても邪魔だ。いっちょぶっ殺すか。」と息巻くのは隣接する小原一家の神楽だ。

 神楽は元プロレスラーという異色の経歴を持つ極道だ。詳しいことは分からないが所属団体の監督と喧嘩してレスラーをやめ、小原一家がケツ持ちをつとめるキャバクラで用心棒として雇われたことが契機となって裏社会に入ったようだ。

 今回星山は小原一家に連絡を取り、シマ荒らしをしている半グレ組織魔瑠狗須について協力して調べることで合意した。小原一家のシマは隣り合っているため小原一家としても魔瑠狗須を早々と粛清したかったのだ。

 「よし・・・行くか!」と神楽が言い、荒々しい手つきで目の前のプレハブ小屋のドアを開ける。

 「なんだ?」中にいた男達が慌てる。「よお!シマに入るなら挨拶してくれよな。」と言うといきなり有馬が近くのチンピラの顔を蹴りつけた。

 「練習風景を思い出すなあ!」というと神楽は恐ろしい笑顔で次々と襲い掛かる半グレの顔面を陥没させる。

 「てめえら!ふざけんなよ!」奥から怒鳴り声がして明らかに周囲のチンピラと違う雰囲気の男が星山の前に飛び出してきた。その手にはナイフが握られる。

 筋肉が異様に発達したその男は高校生の不良グループにヤクを流していた江藤という男だ。「土足でどかどか上がってきやがって!」とその男はナイフを突き出す。「土足でシマに上がってきたのはてめえだろ!!」星山は怒鳴ると身をかがめ、ナイフを持った腕を両手で挟んだ。「ぐ!」ナイフが地面に落ちる。「いいナイフだなあ!」と嘲笑うと星山はナイフを蹴って飛ばし、江藤を組み伏せる。

 だが江藤も魔瑠狗須の幹部級であるだけあって強い。「おらあ!」渾身の力で星山を飛ばす。「おっと!」星山は受け身の態勢をとる。「ヤクザなんざ、時代遅れなんだよ!」江藤はそう叫ぶと何と腰から二本目のナイフを抜いた。

 「死ねえ!」立ち上がった途端星山に江藤がぶつかる。「危ない!」有馬が目の前に迫る半グレを突き飛ばし、星山に駆け寄る。

 しかし何故か江藤が頭から血を流して倒れていた。「ふん。」と言って立ち上がった星山の手には拳銃が握られている。「くそ・・・殺しちまった。ケツ持ちの情報が取れねえ。」

 神楽は冷静な顔で気絶させた半グレの頭に銃弾を撃ち込んでいる。


 同時刻 場所不明

 男は薄暗い部屋でソファに腰かけ、女の注ぐ酒を飲んでいた。

 女が薄く笑いながらモニターを指さす。「あらま、江藤さんやられちゃった。」

 モニターにはプレハブ小屋から出るヤクザ達と無様に転がる魔瑠狗須の連中の死体が映っていた。

 「ふん。化石ヤクザにやられるとは・・・所詮彼もその程度だったんでしょう。」「以外と冷たいのね、海棠ちゃん。」と女が苦笑いする。「ハハハ・・・そうですかね。あなたも知っているでしょう?撲は常に幹部のケアを忘れませんよ。」「そうかしら?」そう言って女は男の首元にキスした。

 男は栗色の長髪をかき上げた。その下の額には魔瑠狗須のマークが書かれていた。


二日後 獄界町

 「はいよ!仕入れたばかりの酒だ。」「おお、ありがとう笹山さん!」星山は居酒屋店主兼情報屋の笹山が出した新酒を舌の上で転がした。「うめえっすね、カシラ!」と舎弟の中安が酒を一気飲みする。「全くお前は・・・」あまりの飲みっぷりに星山は呆れる。中安は界隈では酒豪として有名だ。

 「さてと・・・殺し屋の情報を伝えねえとな。」と笹山は天ぷらを作りながら言う。「流石笹山さん!俺らはまだ目的を言ってねえんすけど。」と中安。「ハハハハ・・・お前らが何で来たかくれえ知ってるよ。でさあ・・・」と言うと笹山は身を乗り出した。その顔は引き締まっている。

「藤堂を殺した奴と林田を殺した奴は同じ組織に所属している。」「え?ということは・・・」星山は真実に近づいていることを感じて体を震わせる。奴らが所属している組織が魔瑠狗須のケツ持ちに違いない!

 しかし笹山が提示した写真と答えは驚きの真実だった。「こいつらはタイ移民のギャングタ・ロー組に所属している。」そう言って星山が差した二枚の写真には東南アジア系の男が映っていた。「こいつはチャン、こいつはジオだ。」「こいつらが犯人?」「ああ・・・だがタ・ロー組は黒幕じゃねえな。」「え、どういうことっすか?」としれっと酒を注いでもらいながら中安が問いかける。「ああ、俺もタ・ロー組の噂は聞いたことがありますぜ。奴らは金のためならどんな外道行為でもするらしいっすね。」「そんな奴らがいるんすか、兄貴!?」「ああ。俺は遭遇したことはねえが岸田組から奴らの下衆行為を聞いたことがある。岸田組傘下の闇金が暴走してよお、返済期限を過ぎた債務者をこらしめるためにタ・ロー組の連中を独断で雇った。奴らは債務者の家を襲撃すると債務者の家族を女子ども含めた皆殺して家を燃やした上債務者の腹をナイフで切り開けて放置したらしいぜ。債務者は長く苦しんだ後死んだとよ。」「えっ・・・」さすがの中安も酒を飲む手を止めざるを得ない。

 「そうだな。奴らはおぞましい。だが・・・そのおぞましさを魔瑠狗須のケツ持ち連中は買ったんだろうな。」「よし中安、親父の許可を得たらタイ人問い詰めに行くぜ!」「へい!」「お前ら、気を付けろよ。タイ人どものボスが飼っている狂犬にな。」「なあに、犬っころごとき・・・いてっ!」星山が中安の頭をはたいていた。「馬鹿野郎、動物の犬じゃねえよ。笹山さんが言いてえのは相手の有力構成員のことさ。」「ああ、星山の言うとおりだ。今回のコロシの件でも分かると思うけどよお、奴らは腕のたつ奴らばかりだ。そんな中でもフォンはやべえぜ。」「フォン?」「ああ、ボスの右腕と言われてる殺し屋だ。奴は今回のコロシに関わったチャンとジオの師匠でもある。かなりのやり手だ。最悪・・・死ぬぞ。」星山はその話を聞くと深く頷いた。「分かりやした。でも、俺らはいつ死ぬか分からねえ世界で生きてますから。死ぬ覚悟くれえは出来てますよ。」


三日後 清柳街

 「よし、てめえら行くぞ!」星山は叫ぶと車を飛び降りた。

 後ろから続くのは中安と胡桃だ。二人とも顔が引き締まっている。

 タ・ロー組の拠点は黒いカーテンが轢かれた怪しいマッサージ店だ。入り口は路地を入った突き当りにある。「閉店中」と書かれた看板があったが、胡桃は「知るかよ。」と嘲笑って扉をガンガン叩いた。

 しばらくするとそばかすだらけの若い東南アジア系の女が煙草をくわえながら現れた。「あんたら、ジャパニーズのくせに字読めないの?今は閉店中よ。」そう言って彼女が中に入ろうとしたとき、扉の隙間に星山が足を入れる。「え、キモイ!」女は叫んだ。「ちょっとお、不審者よ!」するとどたどたと足音がして二人の巨体の男が現れた。手にはバットを持っている。「おらよお!」男達はいきなり星山にバットをふるってきた。「全くよお・・要件を聞いてからでもいいんじゃねえの?」と言うと星山は身をかがめ、一人の男にタックルをした。「くそ!」男は倒れたまま地面を滑っていく。「くそ、このグローバルな時代に古くせえヤクザなんざいらねえんだよ!」もう一人の男が星山の後頭部をめがけてバットを振り下ろす。星山はくるっと体を反転させると男の腕をつかんでへし折った。「うぐっ!」とうめく男を蹴りつけると星山は女に言う。「俺らヤクザは女子どもには手を出さねえ。ただし・・・堅気ならな。姉ちゃん、あんたは堅気か?」「はあ?私はマッサージ師よ。あんたらみてえな反社じゃないから。」「ようし、分かった。じゃあ・・・堅気の上司に合わせろ。」と星山がすごむと女は肩をびくっとさせて「こっちよ・・・」と蚊の鳴くような声で言い、店内に入っていく。

 店の中は煙草と酒の臭いで充満し、異様に暑かった。「ああ、一酸化炭素濃度ひでえっすね。」と中安。店の壁には沢山の窪みがあり、その中に蝋燭が三つづつ置かれていた。そしてその全てに点火されており、換気はしていないようだ。

 蝋燭に照らされた二つのベッドの上に寝ていたギャングと彼らをマッサージしていた女ギャングが立ち上がって無言で星山達を凝視している。

 「随分荒々しい連中が来たぜ。」と言って現れたのはスーツを着こなした東南アジア系の男だ。一見細身に見えるが星山はスーツの下の筋肉を見て取った。「何の用だ?」「俺は米田組若頭星山だ。「あ、そう。で何の用?」とふてぶてしく男は笑いながら言う。「てめえ・・・」と腰のピストルに手を掛ける胡桃を制して星山は男に言う。「あんたがボス?」「ボス・・・いい響きだけど俺はボスというより店長だな。」「まあ呼び方はなんでもいい。あんたがここの連中の責任者だな。」「ああ、そうだ。今日は休業日なんだがねえ・・・さっさと要件を話してくれよ。」「じゃあ単刀直入に・・・あんたの仲間が藤堂っつう売人と林田行政官を殺したんだろ?」「・・・知らねえなあ。さあ、帰った帰った!」そう言うと男はいきなり懐からハンドガンを取り出した。それが争いの始まりとなる。

 星山は「クソ野郎!」と言って相手を撃とうとしたが、別方向から弾丸が飛んでくる。「女ぁ!」女ギャング二人が星山に撃ったのだ。「てめえらはギャングだから女でも殺すぜ。」と言うと星山は腰からピストルを二つ取り出して同時に撃つ。弾道は女ギャングの胸を完全に貫いていた。「くそ!」と言って男ギャング二人は何とナイフで星山に向かう。「こんな雑魚、俺で充分だろ。」と中安が嘲笑い、ピストルを早撃ちして二人を仕留める。

 そのとき、「ぐっ!」と胡桃がうめき声をあげる。「おい胡桃!」星山は目を見開いて叫ぶ。胡桃の胸にナイフが二つ刺さっていた。「姿を見せやがれ!」と血と共に怒号を吐き出しながら胡桃は倒れる。「くそう!」星山が胡桃のもとに駆け寄ろうとした時、「あぶねえ!」と中安が叫ぶ。

 「!!」何とナイフが頭上を飛んでいく。「ボスはあんたらみてえな時代遅れのヤクザ連中になんか構ってる暇はねえんだ。」という野太い声がして開いた奥の扉から巨漢が現れた。先ほど入り口で襲ってきた男達も巨漢だったが、今回の男はスケールが違った。2m越えの体に盛り上がりまくった筋肉。そしてサディスティックな危険な目。

 「てめえがフォンか!?」「そうだ、さあ・・・ここが墓場だ。」と言って男はいきなり中安にタックルを仕掛けた。「うっ!」中安は壁に叩きつけられた。「フハハハハ!」と笑うとフォンは中安の腹に拳をぶち込んだ。「おえっ!」中安がうめく。「さてぇ・・・」フォンはにやつくと中安の顔に拳を振り下ろそうとする。「俺を忘れてるぜ!」星山はその背中に蹴りを入れた。「あんたの可愛いボスはどこ行きやがった!?消えてるぞ。」「だからさっきも言ったぜ。ボスは・・・てめえらみてえな雑魚に付き合ってる暇はねえ!」と言ってパンチが繰り出される。「うおっ!」星山は頬を抑える。「口の中が出血したか・・・なかなかやるじゃねえか!済まねえが中安、胡桃を店の外に引っ張って押坂先生に電話しろ。」「へ、へい!」中安は起き上がって胡桃の手を掴んで立たせると肩を掴ませ、外まで連れて行く。

 店の中にはにらみ合う二人の筋肉質の男のみが残る。「俺のパンチでそこまで平気だったのはお前が初めてだ。ぐはははは!」フォンは狂気的な笑い声を上げる。

 「気持ち悪い男だぜ!」と言うと星山はキックを相手の胸に入れる。フォンは「うっ!」と言い一瞬苦痛の表情を浮かべるも「ふ、はははは・・・」と笑い始めた。「いいぜえ!」そう言うとフォンはタックルを仕掛けてくる。「うっ!」星山は壁に叩きつけられた。蝋燭が落ち、ベッドの上に落ちた。「くそ!家事になっちまう!」星山は慌てて立ち上がるが目の前にナイフが迫る。「死ね!」「くそ・・・」そして星山はナイフを何と歯で文字通り食い止めた。「よし・・・」星山の番だ。彼は壁の蝋燭を取ると相手の顔面に投げつけた。「うわ、何しやがる!」「ほらよ!」星山は相手から奪ったナイフを手に取ってフォンに投げつけた。だがフォンは何とそれを受け止め、片手で蝋を払いながら立ち上がる。熱い蝋燭に触れて爛れた顔で笑うフォンはもはや妖怪だ。「おいまじかよ・・・」星山は相手が立ち上がった途端、飛び掛かってパンチを浴びせる。だがフォンは不敵に笑う。そして大きなパンチ。星山はそれを腹に食らい、よろめいて・・・燃えているベッドの上に倒れ込む。「くそ!」慌てて床にころがって服についた火を消す星山。「これがジャパニーズマフィアかあ!雑魚だな。」フォンは嘲笑い、星山に飛び掛かる。星山は立ち上がり、間一髪のところでフォンに蹴りを入れる。だが星山の視界は反転する。「よいしょっと!」蹴り出された足を掴んだフォンが星山を宙づりにし、地面に落とした。「くそ!」頭を強打した星山はふらふらしながら立ち上がった。

 星山は昔なんでもありの地下格闘技で戦っていた過去を持つ。ナイフを使う者や二人以上で挑んでくる者、中には硫酸を持ち込む奴まで現れた。だが星山はそんな凶悪な選手たちを素手で倒してきた。だが今目の前に歪んだ笑顔を浮かべる奴はかなりの強敵だ。だが負けるわけにはいかない。

 「おらよお!」星山はピストルを取り出すと相手に撃つ。「よっと!」するとフォンはベッドわきのテーブルを持ち上げると目のまえにおいて攻撃を防ぐ。(勝てる!)星山はもう一つピストルを取り出すと同時打ちした。「おもしれえ奴だぜ!」叫んで机を振るフォン。(奴は今前が見えてねえな。)星山は銃を何発かうち、いきなりフォンの正面に移動するとパンチとキックを同時に繰り出した。「よっと・・・あ!」フォンはよろけたベッドに倒れ込む。「ようし!」星山起き上がろうとするフォンを近くの椅子で抑える。「お前のような凶悪犯は日に焼かれるのがいいだろうぜ!」

 「ま、待て・・・」そのとき後ろから声がした。「フォンをここまで追い詰める奴とやり合ってられっかよ!ほらよ、やるぜ!俺の依頼人リスト。」不貞腐れたように立つのはボスだ。

 

3時間後 獄界町

 「ああ。押坂先生から話は聞いてる。幸い命にかかわるような事態ではねえようだな。」「良かったっす・・・」「お前も大変だ。口と頭から血が出てるぞ。」「心配ねえっす親父、それより・・・」星山は心配そうな様子の米田の前にボスから渡された資料を示す。「藤堂を殺した奴と林田を殺した奴の依頼は・・・片山です。」「何!?あの・・・小原一家若頭か!?」

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ