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連続奇襲

2008年 千葉県丸尾町

「――なるほど。確認だが、ターゲットは稲垣でいいんだな? あんたら、西坂組とは同盟関係にあったはずだが」

 殺し屋集団『刃桜傭兵団』の頭目河馬は、卓越しに依頼主を見据えた。

 対面に座る強盗集団閻魔爛弩のボス・梅田は、表情を変えずに頷く。

「ああ。善竜会派閥とは縁を切った。太田の馬鹿が復讐にトチった以上、米田組や小原一家と敵対し続ける義理もねえ。……次は、俺が復讐する番だ」


 梅田の脳裏に、どす黒い記憶が染み出していく。

 幼少期、家の中は常に両親の罵声で満ちていた。小学校に上がる頃、父親は自分を置き去りにして蒸発した。残された母親は育児を放棄し、狂ったようにホストクラブへ通い詰めた。多額の借金、すり減る精神。そしてある夜、母は担当ホストが他の女といるのを目撃し、逆上してその男を刺殺した。

「殺人犯の息子」という烙印を押された梅田を待っていたのは、地獄のような虐めだった。主犯は暴走族に属する少年。執拗なリンチに耐える日々の中、ある日その少年が告げた。「先輩がお前に会いたいってよ」

 連れて行かれた先にいたのが、暴走族『稲垣連合』の元総長にして半グレの元締め、稲垣だった。

「お前の母ちゃん、俺がケツ持ちしてる店で随分と散財してくれたらしいなぁ。感謝してるぜ」

 稲垣は下卑た笑いを浮かべ、隣にいた側近の松場も声を弾ませた。

「俺のアドバイスを店主が忠実に守ってくれてよ。『絞れるだけ絞れ』ってな! ギャハハハ!」

「おかげで俺らへの上納金も潤った。塀の向こうのオフクロによろしく伝えとけよ」

 その瞬間、梅田は理解した。母を狂わせ、家庭を崩壊させた元凶はこの男たちだったのだ。怒りで指先が震えたが、当時の自分には何もできなかった。だが、心に深く刻んだ。

(いつか必ず、この二人を閻魔大王の元へ送り届けてやる……)


「・・・いい面構えだ。確執があるのは分かったよ」

 河馬が鼻先で笑う。「提示額も悪くない。依頼は受けよう。稲垣は俺たちが殺してやる」

「助かる。・・・一つ注文だ。すぐには殺すな。徹底的に、命乞いをする暇もないほど痛めつけてくれ」

「へいよ。お安い御用だ。うちには、そういう仕事が三度の飯より好きな新人の『姉妹』がいるからな」


4日後 獄界町

 闇医者押坂医院のベッドで、星山は意識を取り戻した。

「……あ、う……」

 全身を走る鈍痛。視界に入った自分の体は、隙間なく包帯で固められていた。

「気が付いたか、星山さん」

「押坂先生か……。俺は、小原一家の連中に運ばれたのか……」

「そうだ。だが安静にしろ、まだ動ける体じゃない!」

 制止を振り切り、星山は強引に上体を起こした。

「加藤と沢谷は……あいつらは無事か!」

「ああ。リハビリは必要だが命に別状はない。……だが、星山さん」

 押坂の表情が曇る。星山は情に厚い男だ。真実を伝えれば、その怒りが暴走の引き金になることは目に見えていた。だが、隠し通せることではない。

「太田一派のによる強襲……死者が出ている」

「……俺が、甘かった。もっと早く、奴らを根絶やしにしておくべきだったんだ」

 星山の瞳が、昏い怒りに塗りつぶされていく。黒沢による襲撃と太田による襲撃、どちらもターゲットは自分だった。だがそのせいで大勢の組員が巻き込まれた。星山が責任を感じているのは確かだ。(それでも、伝えなければ)

押坂は大きく息を吸うと、訃報を星山に告げた。「それとな……小原一家若頭、皆川君が……死んだ」

 室内の空気が凍りついた。

「……皆川が? ……あいつが、か……」

 星山は両手で顔を覆った。指の隙間から、堪えきれない涙が溢れ出す。

「くそ……! くそぉぉぉ!!」

 喉を引き裂くような慟哭が、静かな病室に虚しく響き渡った。


同時刻 米田組事務所

「皆川君の件、小原一家の衆には俺からも悔やみを伝えてくれ」

 米田の言葉に、小原一家幹部を兼任する胡桃くるみが重々しく頷いた。

「……承知しました」

 胡桃が辞した直後、沈黙を破るように電話が鳴り響く。

「雨笠だ。親分、無事か!」

 米田組直系、雨笠組の組長からだった。その声は荒い。

「今しがた新生蝶夢を名乗る連中が火炎瓶を投げ込んできやがった! 組員三名が負傷。気を付けてく下さい!」

 立て続けに、今しがた退出したはずの胡桃が血相を変えて戻ってきた。

「米田組長! 暗幻街の三堂繪から連絡です! 新生蝶夢を名乗る連中が、事務所にトラックで突っ込んだと!」

 さらに卓上の電話がわめき声を上げる。

「蔵部の根本です! 蝶夢を名乗る韓国ギャング二人が襲撃してきました! 返り討ちにしましたが、そちらは……」

「……どうなっていやがる」

 米田の眉間に深い皺が寄る。

 蝶夢。かつて魔瑠狗須と組み、星山たちが壊滅させたはずの韓国系半グレ集団。ボスの死と共に消滅したはずの亡霊が、組織的な同時多発テロを仕掛けてきている。

「裏に誰かいるな……」

 米田は重い手つきで受話器を取った。情報屋にコンタクトを取る必要がある。


翌日 韓国街

「蝶夢の残党を拾い上げました。奴らは復讐心だけの使い捨て駒です。武器を与えれば、喜んで特攻を仕掛けますよ。宣戦布告にしては良い方法だと、組長さんにお伝えください。」

 韓国街の顔役である高利貸しファインが冷徹に告げる。

 その視線の先に座るのは、大北組若頭の松原だ。

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