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内通者

2008年 黄弁町

 「韮澤さん、報告感謝します。……そうですか、鯨蘭会に満堂が」 善輪会理事長・穂村は、本部長の韮澤からの電話を受け、苦い顔で窓の外を見つめた。 韮澤率いる原山太闘会の傘下、小原一家が大北組系の鯨蘭会を襲撃した際、思わぬ「壁」にぶつかったという。大北組の武闘派直系、満堂。組長・摂津が最も信頼を置くその男は、本来なら本家に常駐しているはずの重鎮だ。 「そんな男が二次団体の事務所にいたとは……小原一家の動きが漏れていたか、あるいは鯨蘭会で何らかの異常事態が起きているのか」 穂村は最悪の事態を想定し、眉間に深い皺を刻んだ。


2週間後 獄界町

 小原一家総長・星山は、久方ぶりに米田組の本家事務所に足を踏み入れていた。 「どうだ。総長という椅子は、座り心地がいいか?」 米田組長が、茶を啜りながら穏やかに訊ねた。 「ええ、まあ……。若頭の時とは、また違った種類の重圧がありますね」 「ハハハ、そうだろうな」 米田は目を細め、かつての星山を見つめた。 「実動部隊を率いて最前線で命を張るのが若頭の役割だ。だがな、組長や総長という『親』の役割は違う。組員全員の不祥事に対し、そして何より組員の『命』に対し、全責任を負わなきゃならん。お前は今、二つの顔を兼任している。頭が下がる思いだよ」 「……そんな」 「米田組も、気づけば善輪会の三次団体だ。ここまで大きくできたのは、お前たちが命を張ってくれたおかげだ。感謝しているぞ、泰全」 その言葉は、星山の胸を熱くさせた。 「親父……。俺の方こそ、感謝しかありません。あんたのような仁義に厚い人の下で戦えることが、俺の誇りです」 二人が静かな絆を確かめ合った、その時だった。星山のポケットで携帯が震えた。 「……すんません。富山刑事か、どうした?」 席を立ち、廊下に出た星山の耳に、刑事の冷徹な声が届く。 「単刀直入に言う。あんたのところの組員の死体が出た。……最近出所したばかりの、松場って男だ」


前日 東京郊外

静かな住宅街の片隅に佇む、古びた居酒屋。 その前に、一台のバンが音もなく停まった。降りてきたのは閻魔爛弩の幹部・津賀と、傭兵のチョン、そして二人の護衛。 「さっさと片付けるぞ」 津賀が独特のリズムで戸を叩き、チョンは音もなくナイフを抜いて、入り口の脇に陣取った。


 中では、善輪会原野派の西坂組組長稲垣が待っていた。 「遅かったな」 「悪いな。……で、スパイは来てるのか?」

  津賀が椅子に座るのと同時に、彼の携帯が鳴った。 「おやおや、お忙しいところ失礼。私ですよ、向田です」「……向田! てめえ、よくも抜け抜けと。清柳街のカジノの件、忘れてねえぞ」 「おや、星山泰全を前に無事に逃げ切れたのでしょう? お仲間の皆さんが無事に逃げ切れたようで何よりです。小原一家のような血気盛んな方々に、私の縄張りで暴れられては困りますから。」「ケッ、小原一家に情報提供したのはてめえらだろ?」「ええ。・・・まあシマ荒らしのことならお気遣いなく。私は先代ほど土地に執着はありません。皆さんと『共存』できれば、それでいいのですよ」 向田の声は、どこまでも軽やかだった。 「さて、今日は新しいビジネスの話を。最近、ラキアンマフィアと取引しましてね。彼らのシマに風俗店を出す見返りに、少々……薬物のルートを押し付けられまして。五和会は薬物に厳しい。そこで、あなた方にそれらを捌いていただきたい」「……ボスに話を通しておく」 「いい返事を期待していますよ。共存、といきましょう」

 電話が切れると、稲垣が不快そうに鼻を鳴らした。 「誰だ?」 「あんたと同じ、俺たちと『お友達』になりたがってる奴さ」 津賀の冷笑に、稲垣は顎をしゃくった。 「ふん。なら、新しい友達を紹介してやる……入れ!」

 その瞬間だった。 「クソッ、やりやがったな!」という怒号が響く。 稲垣が血相を変えて立ち上がり、津賀を突き飛ばして戸口へ駆け出した。 「殺れ!」 津賀が命じる。護衛の二人が稲垣を追うが、その行く手を、巨木のような大男が塞いだ。 「……オヤジに、何する?」 大男が構えたライフルが火を噴き、二人の護衛を瞬時に肉塊へと変えた。 「チッ……黒幕はどいつだ!」 混乱に乗じ、津賀は窓から姿を消していた。


 店の外。 血まみれのナイフを手にしたチョンの前には、チェーンソーを始動させたもう一人の大男が立ちはだかっていた。店の中にいた男と瓜二つの容姿。 「なぜ、オヤジの友を殺した……!」 チェーンソーの爆音が轟く中、男が指さした先。 冷たいコンクリートの上には、喉を裂かれ、物言わぬ骸となった松場の姿があった。

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