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急襲

2008年 獄界町

「オヤジ、茂田井もたいの叔父貴がいるとか?」


組長室に入ってきた星山が米田に問うた。


「今丁度話していたところさ」と米田は返す。


「よお、先日は楽しい思いをさせてもらったぜ!」


声を上げるのは、米田組舎弟頭補佐の茂田井だ。彼は豪快に笑っている。


「まあ二人で少し話せや」


米田はそう言って組長室に移動した。


星山はニヤリと笑うと、茂田井に問いかけた。


「先生、組員から色々聞いてますぜ。随分とご活躍なさったようで?ありがとごぜえます」


「フン、俺を舐めてるんじゃねえぞ、若造が」


茂田井は一瞥する。


「いやいや、舐めてませんよ。俺に極道の何たるかを叩き込んでくれたのは、あんたじゃないすか」


星山には二人の師匠がいた。一人は前任者の山城。地下格闘技上がりの星山を舎弟として原山太闘会に迎え入れ、極道のイロハを教えてくれた兄貴分だ。そしてもう一人が、この茂田井であった。


当時、原山太闘会の教育係であった茂田井は、星山に実践を叩き込んだ人物だ。地下格闘技で身体を鍛え上げていた星山は、茂田井から「俺が喧嘩を教えてやるよ」と言われた際、「俺にはそんなもの必要ないっすね」と逆に殴りかかり、即座に木刀で滅多打ちにされたのだった。


「ヤクザの喧嘩はなあ、なんでもありなんだぜ」


茂田井はそう言い聞かせ、ドスを使った喧嘩、中国系相手の青龍刀を用いた喧嘩、そしてチャカ(拳銃)の使い方まで、星山に徹底的に叩き込んだ。彼の指導こそが、後に超武闘派として名を馳せる星山を作り上げたと言える。


そんな茂田井だが、今は表舞台にはあまり出ず、米田組舎弟頭として裏方仕事を手伝う身だ。星山とも疎遠になっていたが、星山が闇市場潰しを依頼したことで、久しぶりに顔を合わせることになったのだ。


茂田井は封筒を取り出し、星山に渡した。中には八万円が入っている。


「先生、こんなに受け取るわけにはいきません・・・」


「勘違いするんじゃねえ。てめえみてえな生意気なガキにやるんじゃねえよ。てめえ、小原一家の総長やってんだろ?なら可愛い組員に飯の一つくらいおごってやれ」


「……分かりやした。ありがたく頂戴しやす」


星山はそう言って、深く頭を下げて封筒を受け取った。




三日後 楼零街

楼零街中央公園では、けたたましい怒号が飛び交っていた。


「死ねや!てめえらみてえなチンピラ、この街にいらねえんだよ!」


「あん!?雑魚の癖して自警団気取ってんじゃねえぞ!羅狗舵ラクダなんてダサい名前しやがってよお!」


「なんだとこの野郎!何が雷打阿ライダーだ!」


バットや鉄パイプを持った二つの不良集団が、公園の中央で睨み合っている。


ついに「雷打阿ライダー」側の一人が、「とりあえずその臭せえ息をまき散らすのやめろや!」と叫び、相手側に殴りかかった。それを合図に両者は唸り声を上げて激突した。


バットと鉄パイプがぶつかり合う鈍い音が響き渡り、地面には血が流れる。両者は互いの勢力を削り合い、決着はつかないかに見えた。


だがそのとき、雷打阿のリーダーらしき男が叫んだ。


「全員切りかかれ!」


それを合図に、雷打阿の構成員が腰から次々とナイフを抜き、羅狗舵ラクダの構成員の腹や首を容赦なく刺し始めた。これにより戦況は完全に雷打阿に傾いた。


「こ、こいつらいかれてるぜ!おい、全員逃げるぞ!」


羅狗舵のリーダーはそう叫び、公園から逃げ出そうとするが、出口から二台のバイクが突っ込んできて彼を轢き倒した。


「ギャハハハハハ……」


高笑いをしながら、倒れた羅狗舵のリーダーに近づく雷打阿のリーダー。


「お、おい……悪かったぜ。許してくれ」


泣き出す羅狗舵のリーダーの首筋にナイフを突きつけながら、雷打阿のリーダーは言った。


「俺の言うことを聞けばな」


「あ、ああ……どうすればいい?羅狗舵の解散か?」


「フハハ……それも勿論だけどよお、俺等に200万円払え!」


「そ、そんな大金無理だ……」


「馬鹿野郎!借金してでも払えよ、この野郎!じゃねえと……」


そう言いながら、雷打阿のリーダーは手下に連行させた羅狗舵の副リーダーの喉を容赦なく掻き切った。


「わ、分かった。用意するよ」


羅狗舵のリーダーは恐怖のあまり漏らしていた。


「臭せえんだよ!」


雷打阿のリーダーは羅狗舵のリーダーの頭を踏みつけながら携帯電話を取り出し、とある人物に電話をかけた。


「おう、志摩しまか?で、上納が遅れてるけど?」


電話の向こうからイライラしたような声が聞こえる。それに対し、雷打阿のリーダー、志摩は緊張した面持ちで答えた。


「すみません黒沢先輩、もうすぐ用意できます」


「こんなにも遅れたら困るぜ。まあいい、利子を50万円付けさせてもらうぜ」


「ま、待ってください先輩、それだけは……」


「あん?じゃあ代わりにてめえの手下を4人貸せ。一人はバイクだけじゃなく車運転できる奴にしろよ。上に押し付けられた汚れ仕事しなきゃいけねえからな」


「わ、分かりました。因みになんですが……」


「おう」


「その……汚れ仕事の内容を教えてもらうことは……」


「俺等が今誰と喧嘩してるか分かるだろ、馬鹿が!」と怒号が飛んできた。


「す、すみません……俺等の構成員を4人といわず何人でも使ってくだせえ」


「4人でいい。俺の実力を舐めてんじゃねえぞ。ヤクザの幹部なんぞ俺一人で充分だ!」


そう言う低い黒沢の声に対し、志摩はわずかに震えた。




翌日 獄界町

「星山若頭さん……いや総長さん、いらっしゃい!」


焼き肉屋の老店主が、笑顔で星山を迎えた。


「いいよおっちゃん、俺は米田組のカシラだからな。」


「さあさあ、今日は小原一家に店を貸し切ってる。ゆっくり楽しんでくれ!」


「そこまでしてくれなくていいんだがな……楽しみにしていたカタギの客もいるでしょう?」


「姉妹店に案内したから大丈夫だ。さあさあ、ゆっくりとな」


「兄貴の馴染みの店っすか?」


舎弟の有馬ありまが星山に尋ねた。


「ああ。俺が部屋住みの頃から世話になってる」


そうして、座敷席についた小原一家一同と舎弟たち。


「なんでも頼め!叔父貴から八万預かってる」


その声に、組員たちの歓声が上がった。


「これは小原一家さんへの差し入れね……」


そう呟きながら、店員が肉を運んで入り口前を通ったときであった。入り口の扉がガラガラと開く。


「すみません、この店は今貸し切ってまして……」


「あん?」


入ってきたのは、柄の悪い五人の男たち。手には皆、バットを持っていた。店員が立ちすくんでいると、ため息をつきながら、リーダー格らしい長めの黒髪の男がピストルを取り出して店員に突きつける。


「道を開けろ、お嬢さん!」


店員は恐怖のあまり、その場で気絶した。


「おい皆川、松場がいねえじゃねえか」


「ああ、オヤジ……あの野郎、闇カジノの売り上げを回収するとか言って長野行きましたわ」


「ああ……あいつが昔半グレどもと開設したとかいう松本の賭場かぁ」


「ええ。奴が賭場を開いた場所はヤクザがいなくて、ムショにいた間、あの野郎は地元のゴロツキどもに管理させてカジノにしたらしいです」


「相変わらず怪しいチンピラどもとつるんでやがるのか」


そんな会話をしているときであった。


「失礼します。店長の差し入れを持ってきました」


若い男の声がした。


「ありがとう。どうぞ入って下さい」と舎弟頭の西山にしやまが応じる。


すると、戸が勢いよく開いて五人の男が押し入ってきた。全員がバットを持っている。料亭に配慮して武器を携帯していない小原一家の構成員たちが、次々に殴られていった。


「貴様!」


怒りのあまり拳を固める星山が睨む先は、長めの黒髪の男、黒沢だ。


「久しぶりだな、星山さん!」


そう言いながら、黒沢は星山にピストルを向けた。


「卑怯者!ここはカタギの店だぞ!」


「上の命令だからな、悪く思うなよ。それに俺は店の従業員に実害を加える気はねえ。だがあんたは死んでくれ!」


「クソ!」


そのとき、星山の前に影が滑り込む。


「誰弾いてんだよ!この野郎!」


滑り込んできたのは舎弟の中安だ。彼は胸に弾丸を受け、倒れながらも座卓ざたくを黒沢に向かって投げた。


「おい!中安!」


血を流す中安に駆け寄ろうとする星山の袖を、舎弟頭の西山が引いた。


「兄弟、あんたがいなきゃ小原一家は持ちこたえれねえ。あんたは逃げるぞ!」


こうして、魔瑠狗須マルクス副官・黒沢によって、小原一家の食事会は地獄と化したのであった。

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