シノギ潰し
2008年 獄界町
「お前・・・怪我してばっかりだな。お前は無き小原さんの意思を継いでいるんだから簡単に死んでは小原さんに申し訳ないぞ。」と米田組長は苦笑いする。「へえ・・・俺はやはり組長ってのは柄に合わねえんすわ。」と星山。
彼はいま松葉杖をついている。大北組の猛者満堂と死闘を繰り広げ、ぎりぎりで勝ったのだ。
「で、オヤジ今日はどんな御用で?」と星山。「おいおい・・・上からの指示だけどな、お前は動くなよ。」「え・・・」「馬鹿か?松葉杖ついたヤクザが鉄火場に飛び込んでどうするってんだよ・・・まあいい、穂村派幹部会からが先制攻撃の方針を固めた。」「そうですか・・・ってえといよいよ善竜会とやりあうんすか?」と緊張を顔に浮かべる星山。だが米田はそれをきっぱりと否定する。「そうじゃねえ。穂村理事長と原野は元々パートナーだ。幹部会としては善竜会とは和解したい方針だ。だがな・・・強盗をする外道集団は初めから潰すつもりだ。」「とするともしや・・・」「そうだ。今から善輪会穂村派は閻魔爛弩との抗争を開始する。」
2時間後
胡桃は受話器を置くと若頭部屋に入る。「失礼します。」
すると小原一家の若頭皆川が「叔父貴、お疲れ様です。」と挨拶する。胡桃は星山の舎弟であり、小原一家組員にとっては叔父貴なのだ。
「実は今兄貴から電話があって・・・組員を招集してもらえませんかね?」
会議室に集まった組員に対し、胡桃が伝言を伝える。「善輪会穂村派幹部会は閻魔爛弩を攻撃することを決定したそうです。そこで、小原一家には盗品街の襲撃が命じられました。」
会議室内にざわめきが起こる。「ってことは・・・荒森通りを・・・」「その通り。オヤジからの命令は、荒森通りの盗品市場の襲撃だ。閻魔爛弩の連中の盗品の大半があそこで取引されている。その市場を潰しちまえば大打撃になるだろうな。」と皆川。
東京の郊外にある荒森通りは元々地元の極道組織の繁華街であったが、ベトナム人ギャングのカン一家と閻魔爛弩傘下の半グレ集団露貴がその繁華街を奪って盗品市を作り上げたのだ。かつての店は全てギャング・半グレの嫌がらせや脅迫を受けて撤退し、元々支配していた極道組織も構成員を送り込まなくなってしまった。その結果今では警察でさえ立ち入らない魔境となっている。
それを聞いた小原一家組員は緊張で顔をこわばらせるが、一人だけ大笑いする者がいた。「カシラ、そりゃあ面白そうっすね。俺がチンピラどもを全員ぶち殺してやりますわ!」「松場・・・」と皆川は顔をしかめる。
松場は最近出所してきたばかりの男であったが、中々に曲者であった。カタギを掛けた罪で服役していたのだ。外道であった前若頭片山に与する派閥を一掃して仁義派に生まれ変わった小原一家には似合わない男であった。
だが少し考え込んでから皆川は言う。「松場、猪瀬、島田、お前ら3人で闇市場を潰して来い。」
皆川は部屋に戻ると星山に電話し、闇市場襲撃メンバーを紹介した。「皆川、松場の野郎を行かせて大丈夫か?あの野郎、どうも信用できねえ。」「・・・ええ、分かってます。しかし、役割を与えねえとあの野郎は暴走します。片山の言ってたことで唯一正しいのが、あいつを制御するには役割を与えなきゃいけねえってことです。」「そうか・・・だがあの野郎、半グレを倒して闇市を潰したとしてそこを利用しそうじゃねえか。繋がってる半グレもいるみてえだしよ。そいつら使えば・・・」「実はオヤジ、私もそれを懸念してましてね。あの野郎を監視させるために猪瀬と島田を付けましたが奴らじゃあ心もとない。」「そうか・・・松場に首輪付けとくには・・・」しばらく考え込む様子の星山。そして数分後、星山は言う。「『先生』に頼むか・・・」「『先生』?」「ああ。俺が地下格闘技時代に世話になった師匠だよ。今は米田組の舎弟頭補佐。」「まさか・・・茂田井先生!?」「ああ。あのおっさん、舎弟頭補佐の仕事がつまらねえとかぼやいててよお。」「ハハハ・・・あの人らしいっすね。」
3日後 荒森通り
「おい、今からポルトガル人のブローカー連中が来る。在庫は出したか?」と尋ねるのは露貴の幹部。「へいよ!アクセサリーを選んどいたぜ。」と言うのはカン一家の構成員。「ようし・・・お前ら、あそこにいる黒スーツの連中を中に案内しろ。」と近くに立っていたカン一家の幹部が命じると、手下2名がポルトガル人ブローカー達に近づく。「中へどうぞ。」そう言って手下が指さすのはカン一家直営のベトナム料理屋。
そのあとから露貴の幹部とカン一家の幹部も料理屋の中に足を踏み入れる。
手下二人が案内したのは屈強な露貴構成員7人が守る奥の部屋だ。
部屋の中には大きな大理石のテーブルがあり、沢山のベトナム料理が並んでいる。そこにポルトガル人ブローカー3人と露貴の幹部・カン一家の幹部が座る。
「さてと、まずはこの店自慢のフォーを・・・」とカン一家の幹部が言いかけるのを遮り、「ブツを見せてもらおうかしら?」とブローカーのボスらしき女が冷たい声で言う。少し顔をしかめながらも露貴幹部が部屋の隅に控えていた手下に合図する。すると手下は二つの大きなバッグを持ってくる。そしてそれをブローカー達の目の前に置いた。
そのとき、店の外で大きな音が聞こえる。そして怒号や発泡音。「くそ!何だ・・・」とイライラしたようにカン一家の幹部がつぶやく。
「おい西尾、外の様子を見てこい。」と扉前の7人の護衛の頭目が言うと、その命令を受けた一人が入り口に行き・・・声を上げる。「襲撃だ!」
店の外には大きなバンが止まっていた。バンのドアが全て開き、男達がマシンガンを発射していた。向かい側の盗品DVD売り場のガラスが砕ける。その隣にある闇薬局から飛び出て来たベトナム人のチンピラはピストルを持っているが、すぐに血を噴き出して死ぬ。
ひたすらマシンガンを撃ったあと、男達は鉄バットを持って降りて来た。
そして手あたり次第並んでいる盗品取扱店を攻撃し始める。ガラスが砕け、悲鳴と怒号が響き渡る。
猪瀬と島田は服屋にカチコミ、腰から抜いたピストルで襲い掛かる半グレ達を地獄に送っていった。
松場は狂気的に笑いながら酒店の棚をひっくり返しながら奥に進み、ギャングを壁や床に叩きつけている。その後ろからナイフを振りかぶった半グレが迫るが、松場は床から拾った瓶を半グレの顔に突き刺して残虐に殺す。
「ちっと俺等出てきますわ。」とベトナム料理店の奥にいる護衛の頭目が言い、手下を二人連れて外に出る。
丁度そこには筋肉質で無精ひげの初老のヤクザが襲い掛かってくる宝石店の半グレを投げ飛ばしているところだった。彼は銃もナイフもドスも使わず、ひたすらパンチとキックのみで敵を圧倒していた。
護衛の頭目の口角が上がる。「あのおっさん、強そうだな。」「そうっすね。あいつ倒しますか、東郷さん。」「ふん。そうだな。よし、お前ら、いくぞ!」東郷の掛け声で護衛3人組は拳を固めてヤクザに殴りかかる。
「久しぶりに楽しいなあ!泰全の野郎、なかなかいい依頼じゃねえか。」そう言いながらそのヤクザ、茂田井は東郷の顔にパンチする。だが東郷はひるまず、「腹に力いれやがれ!」と茂田井の腹にキックを入れる。「ハハハ・・・てめえは他のチンピラとは一味違うようだな!男らしくど付き合いってか!」そう言いながら茂田井は横から迫る東郷の手下の一人の顔にパンチを叩き込み、気絶させる。「くそ!」もう一人の手下は茂田井の後ろに回り込み、腕で体を拘束しようとする。だが茂田井はその腕をひっつかむと背負い投げてもう一人の手下も気絶させてしまった。それを見た東郷の顔に焦りが見える。「くそ!」東郷は両手の拳を固めて茂田井に殴りかかる。茂田井はガードしながらキックで東郷の足にダメージを与えている。
猪瀬はプレハブ小屋の前にいた半グレを始末すると飛び込んだ。だが中には人っ子一人いない。裏の窓が開いている。「くそ!逃げやがったか!」
プレハブ小屋から外に飛び出した露貴のボスはバイクにまたがった・・・が、痛みで叫びをあげる。肩を銃弾が貫いたのだ。「よお!」とピストルを持ちながら現れたのは島田だ。「チッ!」叫びながら後ろを振り向いたボスは「あっ!」と声を上げる。プレハブ小屋の窓から銃口を向ける猪瀬が見える。
「あいつはヤバい!逃げるぞ!」自身が拠点としているボロアパートの住人を次々と銃殺して笑い声を上げる松場を見たカン一家のボスは同居している護衛に引っ張られるままワゴン車に飛び乗った。「露貴に付き合ってられるか!」そう言いながら護衛はエンジンをかけ、ワゴン車は急発進した。
3人の護衛を気絶させた茂田井のもとに気絶した露貴のボスの体を抱え上げた猪瀬・島田と血まみれで大笑いする松場が集合した。「これで市場は崩壊しただろう。戻ろうぜ。」と静かに茂田井は言った。




