先代の仇
2008 獄界町
「ん?ここは・・・止まれ!」烈火隊副総長梶尾は星山の依頼で小原一家内のシマを見回っていたが、ある変化を見つけて手下のバイクを停止させた。「梶尾さん、どうしたんすか?」「あそこの店・・・」「あ、変わってる!星山さんなんか言ってたっけ?」「いや俺は何も聞いてねえな・・・」
烈火隊パトロール隊の面々が見つめるのはとある「肉寿司わかば屋」と書かれた店だ。だがこの場所は元々引退して小原一家前総長小原が経営する「船串亭」という焼き鳥屋がある筈だった。「星山さんに聞いてみるわ。」と言い、梶尾が電話する。
星山は梶尾からの電話に驚いた。「ん?知らねえな。小原さんからは何も聞いてねえ。まあいい、俺のほうで調べてみる。ありがとよ。」
電話を切った星山は「船串亭」の電話番号にかけた。すると電話が取られ、若い女の声がした。「はい、肉寿司わかばです。」「おう、どうも・・・小原一家の星山ってんだけどさ店主いる?」「はい、少々お待ちください・・・」数分後、電話に答えたのは聞いたことのない中年男の声だ。「はい、店主の松江ですが。」(声に震えがあるな・・・俺の名前を店員から聞いて少し怯えているのか・・・)「すまんすまん、間違え電話かな?」と星山はごまかすと、受話器を置いて考え込んだ。(小原さんならば店を閉めるとき連絡をくれる筈だ。だけど連絡はなかった。これはどういうことだ・・・)
そのとき、小原一家舎弟頭の西山が入って来た。「兄弟、小原の兄貴を知りませんか?」「うん?俺も今あんたに聞こうと思ってたのですが・・・」と星山は驚いて答える。「小原の兄貴と飲む約束してたんで予約した店に向かったんです。しかし小原の兄貴は約束の時間になっても現れない。あの人は約束を破ったことは一度もないのですが、私や店の人にかけてもらった電話にも出ず・・・」
星山の胸中を不安が占める。そして情報共有が行われた。話を聞いた西山の顔が曇る。「分かりました。その店、行ってきやす。」「すみません、宜しくお願いします。」と西山を送り出した星山は気難しい顔で考え込んだ。
「何か嫌な予感がする。」
翌日 神奈川県 横浜
「鬼斬鉄拳会はほぼ壊滅ですか・・・」
善輪会理事長の穂村は神奈川県にある善輪会の2次団体横浜任侠正道会の組長と会談していた。「原野副会長は既に神奈川に手を伸ばしている。東京で食い止めて頂かないと・・・」と正道会の組長。「申し訳ありません、根津組長。できれば今回の抗争、横浜任侠正道会さんには是非とも金山組陣営に力を貸していただきたく・・・」「何度も申し上げているでしょう、正道会は中立であるべきというのがうちの会長の考えです。この地域は特殊だ。中華街に食い込んでいるマフィアの監視のためいくつかの極道と連帯している。うちが抗争に介入すれば、連帯組織にも火の粉が飛ぶ恐れがあるのです。」「・・・思慮に欠ける発言をしてしまい申し訳御座いません。」「・・だがね、穂村さん。原野副会長よりもあんたのほうが善輪会の会長代行にふさわしいのは確かです。あんたがいたから善輪会は強固な組織のままでいられたのですよ。」「・・ご理解、感謝します。」「では、うちの会長からの預かり物です。」そういって根津組長は封筒を差し出す。「鬼斬鉄拳会を壊滅させた部隊に関する情報です。彼らの拠点は東京にある。そちらで対処して下さいや。」「助かります。開封しても?」「ええ。」
穂村は封筒内の文書を見て驚く。「これは!これほどの組織が関与していたとは!」「そうです。この中で指揮を執っていたのは宝鳴組です。善竜会の若頭補佐で、原野の懐刀とされる馬淵が率いる組織です。今回善竜会側に就いている善輪会直系団体が各々4・5人づつ傘下団体の組員を宝鳴組に貸し出して鬼斬鉄拳会壊滅作戦が行われたようです。」
二日後 獄界町
小原一家では緊急会議が行われていた。
組長の星山が口を開く。「皆に悲しい報せがある。」そう言ったあと、星山は少しためらったあと、「カタギになった先代だが、恐らく消された。」と告げた。組員達から動揺の声が上がる。「消された!?そりゃあどういうことです?」と聞く組員に対し、舎弟頭の西山が説明する。「先代が経営している焼き鳥屋はなくなり、代わりにその建物には肉寿司屋が入っていた。店主は見たことない人で、従業員には外国人が多かった。背景を洗ってみたところ、衝撃の事実が明らかになったよ。」そこで情報屋の笹山が入ってくる。「西山さんの依頼を受けて肉寿司屋の情報を調べてみた。まず店主。店主は瀬田金融という闇金会社に借金がある。自宅の場所を抑えられているようだ。それから外国人従業員だが・・・難民支援を掲げているNPO法人エコノミーフォアピースが店に派遣しているみたいだな。」「つまり、肉寿司屋経営には瀬田金融とエコノミーフォアピースという二つの組織が関わっている。瀬田金融のケツ持ちは大北組系鯨蘭会だ。そしてエコノミーフォアピースは黒い組織だ。まず理事長だが、鯨蘭会本部長の書類上離婚している妻の弟だ。恐らく鯨蘭会本部長が裏から操っている。そして、あの法人は不法滞在の外国人をかくまう代わりに超低賃金で大北組の経営する店で雇用している。」と星山がまとめる。「それに加え、肉寿司屋はぼったくりを行っている。一つひとつの値段が相場に加えて明らかに高額なうえ、飲み屋のようなチャージ代や席料、週末料金の説明がないまま上乗せされている。」と西山。「鯨蘭会の奴らはカタギになった先代を殺した上、その店を自分達の収入源にしやがったってことだ!」と星山は怒りを含んだ声で言う。「鯨蘭会の主なシノギはぼったくり店の経営だ。奴らはいくつかのハコを持っていて、定期的にハコに入る店を入れ替えている。鯨蘭会は今回そのハコを一つ不正に増やしたことになる。だから店を直接潰しても別の店がそれにとって代わるだけだ。」と笹山。「その通りだ。てめえら、この街から鯨蘭会の影を取り除くには・・・奴らのヤサに乗り込むしかねえ!」と言って星山は車椅子から立ち上がる。「俺も復帰しよう。カタギになった先代を亡き者にした鯨蘭会を叩き潰してやる!」
2日後 獄界町
「よし、アメリカ人から購入した武器は全部積んだな?」「ええ、大丈夫っすオヤジ。」と復帰間際の若頭皆川が答える。「ようし!おい望野、全員揃ったか?」「ええ、烈火隊の構成員は全員参加です。」「よし、行くぞ!」
バン5台の後ろを10台以上のバイクが続くこの車列は鯨蘭会の事務所がある蔵部町に向かっていた。
40分後 蔵部町
「へえ、へえ・・・いやいやとんでもねえ。まだまだっすよ、うちは。へえ、へえ・・・まあそれはそうですね。小原の野郎を始末しやしたからね。へへへ・・・頼みますぜ、オヤジ!」と大北組組長に電話する鯨蘭会の会長の様子をガラス越しに見て鯨蘭会本部長の奈蔵は歯ぎしりをする。
「あのたぬきジジイ、俺の手柄を全部かっさらいやがって。今に見てろよ・・・」「あ、兄貴・・まずいっすよ。オヤジに聞こえたら。」と事務局長補佐の舎弟が注意する。だが奈蔵は平然としている。「ふん。あの小心者なんざ怖くねえよ。俺はな、大北の摂津組長と話が付いてんだよ。いずれ俺は摂津組長と親子盃を交わすぜ。そしたらこんなクソみてえな組抜けてやる。」「ま、まじすか!俺も付いていきます兄貴!」「おうよ!俺が摂津組長と盃交わしたらよ、組持てることになってるからな。てめえをカシラにしてやるよ。」「あ、有難う御座います兄貴!」
そのとき、いきなりドアが開いて怒鳴り声が響く。「くっちゃべってねえで仕事しやがれ!さぼってっと摂津のオヤジに報告すっぞ!」「ま、満堂の叔父貴!」と奈蔵は今までの威勢が消えうせ、明らかに怯えている。
怒鳴り声を発したのは和装の筋肉質な老人だ。只者とは思えない覇気を纏っている。
そのオーラを前にして、奈蔵と舎弟は縮こまっていた。
そのとき、そとからバイクの爆音が響く。それを聞き、満堂はにやりと笑う。「摂津のオヤジが言ってて通りだ。小原一家の奴ら、きやがったぞ!」そう言うと満堂は壁に掛けてあるライフルを手に取って会長室に飛び込んで摂津と談笑している鯨蘭会会長に言う。「奴らが来ましたぜ。逃げて下せえよ。」「むっ!オヤジ、奴らが来ました。」と慌てる鯨蘭会会長に対して電話の向こうからは摂津組長ののっぺりとした声が聞こえる。「ああ、来ちゃったかあ・・・まあいい。そっちに満堂を寄越したろ?あの爺さんがうまくやってくれるさ。」
と同時、満堂が正面玄関に向かってライフルを連射。
「お、おい馬鹿野郎!撤退だ!」烈火隊の中村は殺された仲間に引き続いて鯨蘭会事務所に特攻しようとする部下達を止めた。
「ふん。どうやら奴らは襲撃を予想してたみてえだな。」そうつぶやくと、星山はバンを降り、トランクに回って手りゅう弾を一つ取り出した。「一気に潰すぜ!」星山はピンを抜くとそれを放り投げる。だがその手を弾丸が貫いた。
「ふん。見えてるぜ。」と怯える会長を背に隠しながら余裕の笑みを浮かべる満堂。
星山の眼前で手りゅう弾が落ち、次の瞬間爆発した。「くそ!」上着を広げて身体をかばいながら爆風で吹き飛ばされる星山。彼は後ろに止まっていたバンのフロントガラスに突っ込む。
血を流しながらも起き上がった星山は駆け寄って来た皆川らに指示を飛ばす。「烈火隊の連中はライフルにやられる。バンは防弾仕様だ。突っ込め!」「へい!」
そのとき、突然星山に影が多い被さって押し倒す。「フハハハハ!」「な、気配がなかったぞ・・・」
なんといつのまに外に出た満堂が星山に覆い被さりドスを首筋に当ててていた。「星山!往生せえ!」




