狂気の組員
2008年 東東京
「世話になります、叔父貴!」と星山は原山太闘会系飯村組の飯村組長に挨拶する。飯村は原山太闘会内のインテリヤクザとして知られ、原山太闘会事務局長を務める実力者だ。米田組がまだ結成されていない部屋住み時代は星山にもよくしてくれた人物だ。飯村は「おうよ!俺等はあんたらに頼んでプリズンギャングの掃除をしてもらうんだ。事務所は拠点として好きに使っていいぜ!」と言ってくれた。
早速星山は飯村組事務所の和室に小原一家の組員を集めた。「皆咆寂の傘下にある暴走族の討伐、ご苦労だった。お前らの働きのおかげでいくつかのチームは原山太闘会側に寝返る決断をした。だが、咆寂の勢力範囲は広い。噂じゃあ東京のみならず群馬や神奈川、千葉や茨城、兵庫や大阪にも傘下組織や支部があるらしい。恐らくゾクの連中は補充されていくだろうな。だからな・・・他地域の半グレどもが到着する前に香我美のいる本部を破壊して咆寂を潰すぞ!」「へい!」
そのとき、慌てた様子の飯村組組員が走って来た。「どうされました?」「小原一家さんの松場さんという方がお見えです・・・」
組員からどよめきの声が起こる。「松場が!?小原一家本部事務所に行く予定じゃあ?」と戸惑う星山。
港町の治安を守ることを目的として結成された自警団を前身とする小原一家であるが、組員の中には先の抗争を引き起こした片山前副総長のように自身の欲望のままに行動する非道や連中もいる。
本日刑務所から小原一家本部に戻ってくる予定の松場もそのような人物で、経歴が黒い。もともと松場は力士であったのだが、自身が勝ち上がっていくために相手の家族を繋がりのある半グレに脅させるなど不正を繰り返していた。それが露見した結果表舞台から姿を消した松場は地下格闘技に流れ、そのあと片山の勧誘により小原一家に入った。だがその後、相撲時代の師匠に対する殺人未遂事件で逮捕された。組の命令ではなく私的な復讐であった。
その松場が部屋に入ってくるなり、星山の隣にどかりと腰を下ろした。星山は内心不安に思いながらも表向き平静を装って話しかける。「松場か。すまねえな、ムショに碌な援助もしてやれなくて。出所祝いもしてやりたかったんだが、生憎今抗争中でな。事務所の連中に世話を頼んどいたんだが・・・」「ああ、きにせんで下さいや組長。迎えに来た連中に俺をここまで連れてくるよう言ったんすから。ところで・・・二階堂はいますか?」「二階堂か・・・確か片山派の奴だよな?」「ああ、そうっす!」「そいつな、俺が組長に就任する前に組を脱退したんだと。先代からそう聞いたよ。」「ううん・・・まあ分からなくはねえっすよ。自分達片山派を潰した星山さんが自分達の組長になるなんてな・・・」「おい、どういう意味だこの野郎!」と一人の組員が食ってかかるのを星山は止めた。「まあ落ち着け。俺が組長になってから松場は会ってねえ。俺が組長になってる小原一家に慣れねえんだろう。」「さあせん、さあせん。」と松葉は薄ら笑いを浮かべながら星山に顔を近づけ、「今回の半グレ集団咆寂との抗争、俺に任せちゃあくれませんかね?」と言い放ったのだ。「ん?松場そりゃあどういうことだ?」「どういうことって・・・組長、あんたは車椅子だ。抗争に直接参加することは出来ねえでしょう?代わりに俺が指揮をとりやしょう。」「お前がか!?」「へい・・・なんすか組長、俺じゃあ力不足とでも?組長なら分かってるでしょう?俺はねえ、強いんですぜ。」
星山はヤクザになるまえ地下格闘技選手であったがその際幾度か松場と対戦している。松場は怪力の持ち主で、毎回星山を地面にたたきつけていた。
しばらく考え、星山は言う。「分かった。咆寂との喧嘩は任せた。だが俺はここに残る。」「へい!チンピラどもを血祭に上げてやるぜ!すまねえが下っ端を借りますぜ。」「・・・ああ」「おいそこのガキども、今から咆寂を潰しに行くぞ!組長、アジトの場所は分かりやすか?」
30分後
咆寂のアジトはとある料亭だ。中にいるカタギを追い出し、荒れた店内で半グレ達が食材を適当に調理し、食い荒らしていた。
店に保存されていた日本酒を飲み干すと、リーダーの香我美はそれを叩き割ってその音で皆を注目させる。「よお諸君!この街は弱体化してきた。原山太闘会の奴らは傘下組織の小原一家を呼んだみてえだな。だがなあ、明日原山太闘会本部を壊してやる!」「よっしゃあ!」
するとそのとき屋外にバイクの音がした。「ん?増援の連中か。早いな。」と香我美がつぶやいた直後、「おい何びびってんだよ!早く特攻しろや。チッ、これだからゾクの連中はよお。」という声がした。そのあと、部屋のふすまが破られ、複数台のバイクが突っ込んで来た。彼らは屋内の咆寂構成員を次々と轢いていく。
彼らは一瞬にして反対側の襖をやぶり、出ていく。「くそ!ヤサが割れたか。てめえら、逃げ・・・」と言った瞬間外側からものすごい音が響くと共に弾丸があられのように降り注いだ。
「ハハハハ・・・」松場は狂ったように笑う。彼の命令で傘下組織の烈火隊と小原一家下っ端がマシンガンを掃射していたのだ。だがその顔は強張り、松場だけが抗争を楽しんでいるように見えた。「こいつら、ハチの巣だぜ。料亭?んなもん関係ねえよ。料亭はいまやカタギの所有物じゃなくこのチンピラどものだからな。」
松場は「よし、やめい!」と叫ぶと、突然自身の横にあった庭の灯篭を引きはがし窓から中に投げ込んだ。その奇行に周りが戸惑うなか、松場は岩の上に置いてあった盆栽を投げ入れながら叫ぶ「おい香我美!出て来いやあ!俺様が潰してやるよ。」
それを受けて「クソ野郎が・・・」とつぶやきながら香我美が数人の生き残りを連れて出て来た。皆服が破け、血が流れている。「あんたが香我美さん?俺が全員楽にしてやるよ。」「くそ・・・やれ!」との香我美の命令で全員ナイフを抜いた。そしてフラフラと松場に突進するものの松場はなんと近くの看板を引っこ抜き、振り回すと最初に襲い掛かって来た4名を看板で吹き飛ばし、その看板を真っ二つに割ると割れてとがった部分で次の二人を刺し殺した。「フハハハハ・・・」
最後に残ったのは香我美だ。「うおりゃあ!」香我美は自暴自棄になったのかナイフを振り回し、突っ込んでくる。「いいねえ!だがそんなんじゃあ俺には勝てねえ。」と言うと松場は何と香我美をぎりぎりまでひきつけてから平手打ちを地面に押し倒すとその上に馬乗りになった。「あんたの負けだぜ!」そう言うと松場は体重をかけて香我美を圧殺した。
翌日
「何!?香我美がやられた?」との梅田の問いに暴走族の増援を率いていた男が答える。「ええ。香我美さんは、小原一家の松場という男に殺されたみてえです。俺が集めた情報では、最近出所してきたばかりのいかれ野郎です。」「松場!?あの男が遂に出所してきやがったか。面白くなってきたなあ。」と梅田は笑う。
5日後 獄界町
小原一家前総長小原は自身が店主を務める焼き鳥屋「船串亭」で、締め作業をしていた。
「田村君、年寄りの趣味に付き合ってくれてありがとうな。夜も遅くなってきたから今日は帰りなさい。」と小原はバイトの少年に声を掛ける。するとなぜか突然少年は「ごめんなさい」と謝ってきた。「うん?」と小原が振り向いた瞬間、なんと少年は引き出しから取り出した包丁を振りかざして小原に突っ込んでくる。「うりゃあ!」
小原はそれを見て一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔を浮かべる。「なるほどな・・・やはり畳の上では死ねないな。」
少年の振りかざす包丁は小原の心臓に突き刺さり、小原は血だまりの中で死んだ。
それと同時裏口が開いて作業着を着た外国人を3人引き連れたロングヘアのヤクザ風の男が入って来た。「小僧、よくやったな。あとでオヤジに引き合わせてやる。これであんたも組員の一員だな。」そう言ってヤクザ男は現場処理を外国人に任せると身を震わせる少年の背中を押しながら連れて夜の闇に消えて行った。




